【第96話:ひさしぶり】

 魔道無線は、電話みたいに受けなくても勝手に繋がるので、焦った声がすぐに聞こえてきました。


『キュッテ! 無事なの! ねぇ! キュッテ!』


 その声の様子は凄く焦っている様子。

 無線の相手はレミオロッコ。

 実は連絡が入るのはこれで二度目なのだけれど、こっちも忙しくてさっき適当に連絡を切ったのよね。


 そして、さっき作戦はほぼ成功した旨の連絡を受けたお陰で、私は気楽に「薙ぎ払え~」とか言っていたわけ。


 まぁ、一度言ってみたかったから、連絡なくても言っていたかもしれないけれど……そんな事は今はどうでもいいわね!


「もぅ~、そんなに何度も呼ばなくても聞こえているし、こっちもなんとか無事だから!」


『そ、そうなのね。よ、良かったわ』


 私がレミオロッコと話していると、近くにいたシグナ様が、ケルベロスモードフィナンシェの足元まで近づいてきて……。


「は~い! レミオロッコちゃんだっけ? こっちも何とか死なずに済んだよ~。アレンにもシグナ兄さま・・は無事だぞって伝えておいて~」


「心配かけて悪かったわね。こちらも、とりあえずは命の危険は去ったってところかしら、聞いての通りシグナ様は無事ですし、他の騎士団の方たちも、避難してた人たちも皆無事よ」


 私がシグナ様に続けてそう伝えると、後ろから「わっ」と歓声が上がるのが聞こえてきました。

 どうも、周りで聞いている人たちがたくさんいるようですね。


『よ、良かった……。え? あ……シグナ兄さま⁉ あ、は、は、はい! 伝えておきます! アレン様、近くにいらっしゃいますが替わりますか?』


「あ、ちょっと待って、そういうのは後で……」


 まだこっちは全部終わってないですからね。

 でも、その前に……先に確認しておきましょうか。


「レミオロッコ、周りに人がいるみたいだけれど、もうそっちは全部片がついたのかしら? フィナンシェから降りたの?」


『ん? まだ後始末はいろいろあるみたいだけれど、戦闘は終わったわ。でも、フィナンシェちゃんを一人にすると怖がる人がいるから、まだ私が上に乗っているけど?』


「そう。それはちょうど良かったわ」


『え? なんか嫌な予感がするのだけれど……』


「うん、続きは直接ね……」


『え? 直接? ……ちょ、ちょっと!? まさか!? ま、待ちな……』


「召喚!!」


 魔道無線越しに聞こえていた声が、途中から私のすぐ目の前から……。


「……さーーーい!? って、あんたねぇ⁉ シメるわよ!? あぁん!?」


「おぉ~♪ レミオロッコの恫喝なんて久しぶりね!」


「な・ん・で・喜んでいるのよ!!」


 私のスキルの能力により、フィナンシェと一緒に召喚されたレミオロッコが文句を言っていますが、あまりじゃれ合っている暇はないんで聞き流しておきましょう。


「え? スルー? こんな事されて、私、スルーされてる!?」


「もう~うるさいわねぇ。ちょっと能力使ってるから待って……」


 私はそう言って周りを見回すと……その姿を確認して手を振った。


「そんな事より……お? 来たわね! こっちよ!」


「そ、そんなことって、あんたね……ん? 羊?」


 私が振り向いたそこには、私の呼び寄せた羊……と、その上でキョトンとした顔の厳つい顔の冒険者のおじさん。


「えっと……羊の群れを囲むように監視して欲しいって言われて監視してたんだけどよぉ。きゅ、急にいう事を聞いてくれなくなって……」


「あ……羊偵察隊には冒険者に乗って貰っているのを忘れていたわ……」


 急いでいたから、魔道無線でこちらに向かうような連絡はせずに、羊を任意の場所に移動させる能力で強引に呼び寄せてしまいました。

 驚かせてしまったみたいなので、軽く謝っておきました。


「とりあえずレミオロッコは、その羊の後を追いかけて、だいたいあっちの方に行ったビッグホーンの群れの生き残りを退治してきて!」


「え? え? ど、どういうこと?」


「羊偵察隊にビッグホーンの群れの後を追って貰ってるの。そのにそこまで案内させるから、あとはブレスや爪で殲滅しちゃって。もう残りの羊偵察隊にもこっちに向かって貰っているから、民家や畑の被害を少しでも抑えれるように頑張るわよ!」


 突然の展開に目を少し白黒させているレミオロッコ。


 でも……。


「私の親友なんでしょ? それなら、これぐらいのお願い聞いてくれるわよね?」


 と言うと、頭を軽く掻いてから首を振り、自信満々に言い放った。


「あ、あったり前でしょ! これぐらいの頼み、なんでもないわよ!」


「そう来なくっちゃ!」


 それぞれフィナンシェの上に乗り、視線を交わすと、私たちは笑い合った。


「あの……俺は羊に乗っておいた方がいいのかな?」


「あ、はい。何かあった時のためにお願いします」


「そ、そうか。わかった……」


 私が能力で指定した場所に移動させるだけだから、案内自体はもう降りて貰ってもいいんだけど、その後、はぐれビッグホーンがいないか確認して欲しい旨を伝えると納得してくれた。


「じゃぁ、最後の殲滅戦、頑張るわよ!」


「わかったわ! キュッテも油断するんじゃないわよ!」


 こうして私とレミオロッコは、二手に分かれて挟み込むようにビッグホーンの群れを追いかけたのでした。


 ちなみに……後でこちら側に配置していた他の羊偵察隊から、突然羊が言う事を聞かなくなったと一斉に連絡が入ったのは内緒の話です……。

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