【第95話:こんがり】

 ◆ キュッテ視点


「薙ぎ払え~!! わ~っはっはっは~!」


 一度この台詞を言ってみたかったのよね!


 私は対策としてまず、牧場の厩舎などにも使われている魔物除けの効果もある木の種を皆が避難している家の周りに蒔いて貰うと、スキルの能力を使って急成長させて即席の防護柵を作成。


 今までその辺の草木にしか使ってなかったのだけれど、これが予想以上に成長してくれて、これなら避難してきてくれた皆を何とか守れそうです。


 その後、騎士団の皆さんにその木の隙間に配置について貰って守りをかためると、私はケルベロスモードフィナンシェとともに、ビッグホーンの群れに向かって打って出て、ブレスの第一射を放ったといった感じです。


 なんでわざわざ打って出たかって?


 だって、アレン様とレミオロッコに任せたあちらの作戦と違い、こちらはブレス放てば混乱したビッグホーンの群れが大きく乱れるのが予想できたから。


 そうするとビッグホーンの群れが散り散りになり、被害が拡大すると思ったから。


「フィナンシェ、散らばる前に左側へ回り込むわよ!」


「がう!」


 私は最初のフィナンシェのブレスを向かって前方右側に放っていた。

 それにより、ビッグホーンの群れが大きく左側に乱れていたので、回り込んで抑え込む必要があったというわけ。


 一陣の風となった私とフィナンシェはあっという間に回り込むと、すかさず第二射を放ちます。


「薙ぎ払え~!!」


「がうーーー!!」


 本気でブレスを吐かせればもっとたくさんのビッグホーンを一度に葬れると思うのだけれど、こちらにはビッグホーンの群れを誘導する役の羊戦車隊もいないし、弓や魔法での協力も望めないので、ブレスはかなり加減をして貰っています。


 それでもケルベロスモードで放つブレスは凄まじい威力なんですけどね。


「わぁ♪ 良い匂い~♪」


 け、決して肉が惜しくてブレスを加減しているわけではないわ!!


「む……今のブレスで右側が膨らんでしまったわね」


 こちらには数の羊偵察隊を連れてきています。

 え? 乗ってる冒険者はおまけだから、数え方はで良いのよ!


 とにかく、その羊偵察隊にはビッグホーンの群れを囲むような配置についてもらっているので、羊の位置を掴む能力を使って群れの広がりをチェックしているの。


「フィナンシェ、前方から回り込みつつ、ブレスの第三射! そのまま右側に回り込んで第四射を放つわよ!」


「がう!」


 フィナンシェは私の言葉を完全に理解しているわけではないのだけれど、私のイメージでも読み取っているのか、見当違いの行動を起こしたことは一度もありません。


 今の私の指示も私の望む通りに行動してくれて、群れの前方と右側に飛び出ていた数頭を含むそれぞれ十数頭のビッグホーンを薙ぎ払ってくれました。こんがりと。


「ん~……遊撃でこうして削っていけば確実に勝てそうだけど、それだとこの辺りの建物や田畑が……」


 私はまたビッグホーンの群れの前方に回り込んで五射目のブレスを放ちますが、そろそろ皆が隠れている家に近づいて来てしまったので、一旦シグナ様たちの側まで下がりました。


「フィナンシェ、振り返って本気の第六射!」


「がう!!」


 今度は今までの少し加減したブレスではなく、本気で放ってもらいます。

 だって、この家を避けて通って貰わないといけないですからね。

 ちょっと勿体ないですけど!


 一番良いのはここに辿り着くまでに全部倒し切ってしまう事なんだけど、さすがにそれは難しいそうです。


「いや……これは想像以上だな~。もう俺たちはいらなくないか?」


 あれ? シグナ様の口調が、さっきまで仕事モードのカッコイイ感じから、普段の軽い口調に戻ってる気がします。


 まぁ今はそんな事より……。


「いいえ。思ったよりは順調に進んでいますが、このままだとビッグホーンの群れが散り散りになって、少なからず被害が出てしまいます」


「いや……もうそれは仕方ないんじゃないの? 被害って言っても命を救ったんだから大手柄だよ? キュッテちゃん、もしかして完璧主義者?」


「そんなことはないと思いますけど、できる事はきっちりしないと! まだ諦めるのは早いです!」


 あきらめたらそこで試合は終了ですって、前世の先生偉人も言っていた気がしますし!


 会話しながらも、フィナンシェには定期的にブレスを吐いて貰い、まずは避難している人たちを守るようにしています。


「そ、そうか……しかし、どうするつもりなんだ?」


 向かってきたビッグホーンの群れのど真ん中に何度もブレスを放ったことで、群れは左右に大きく割れてここを避けるようにして、もうすぐ通り過ぎそうです。


「こっちに流れてきたビッグホーンのうち、この感じだと3分の2ほどはここで倒せそうな感じですけど、逆に言うと残り3分の1は散り散りになってしまいそうですよね」


「ん~、おそらくそんな感じだろうな。で、キュッテちゃんの天才頭脳はどうそれを解決するつもりなんだ?」


 シグナ様、なんだか最悪の事態を回避できたことで、すっかりお気楽モードですね……。

 興味津々といった様子で、私にそう尋ねてきた。


「そうですね……今はちょっと待ってる・・・・んですが……」


 そう答えたところで、ちょうど魔道無線から声が……私の持っていた連絡が入ったようです。

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