最終話「しあわせなゆめ」
××県重石沢市で殺人事件が発生していたと判明したのは、皐月日姉妹とはかせの心中から3日後のことだった。
榎田圭介の失踪届けが家族によって出され、警察が榎田家周辺を捜索した。しかしなにも見つからなかったため、森のなかにまで捜索範囲を拡大した結果、森のなかで圭介の、森の奥にある阿杭邸で皐月日花恋と皐月日月乃、そしてはかせ──
圭介の死因は脳挫傷と断定された。車に轢かれたのか、木から落ちたのかは判然としていないが、死後1ヶ月が経過しており、発見されたときには土に埋められていたことから何者かが圭介を殺害後、土に埋めて死体を隠したのだという結論に至った。
花恋と月乃、阿杭は阿杭邸のなかで倒れており、その脇にはナイフが転がっていた。死因は失血死で、ナイフに付いた指紋と現場の状況から、3人が心中を図ったとされている。
また、阿杭邸の地下室から死後10年以上は経過していると思われる人骨が発見された。身元の特定は困難と思われたが、歯科の治療記録などから失踪していた皐月日大知と皐月日晴空であると判明した。
行方不明者は、7年間生死が不明ならば法律的には死亡したと扱うことができる。法律上では死亡したことになっており、この世にいない筈の皐月日一家が見つかった。しかも、子供たちはつい最近まで生きていたのだ。この出来事は警察に大きな衝撃を
警察は阿杭の存在が手掛かりになるのではないかと考え、本家に捜査協力を依頼した。しかし阿杭側はこれを拒否。答えられることはないとして、警察を追い返してしまった。
その後、警察は阿杭理人や皐月日夫妻が共同研究を行っていたことを手掛かりとして、当時の同僚に聞き込みを行った。これにより阿杭理人と皐月日夫妻の確執が露呈。加えて圭介の携帯端末から皐月日姉妹の連絡先が見つかったことにより、圭介の事件と結び付けて捜査を行うことになった。
結果として、阿杭理人が真犯人であるという結論に至ったが、完全な真相解明には至っていない。
この事件は世間を賑わせたが、やがて風化していき、静かに忘れ去られることとなった。
* * *
目を開けると、見慣れた天井が見えた。
自分が寸前までなにをしていたのかは思い出せない。だが、とても哀しく、痛かったことだけは覚えている。どうやら、とても長く、嫌な夢を見ていたようだった。
ベッドから身を起こし、部屋を出る。1階に行くと、これまた見慣れた姿がたくさんあった。
「おはよう」
はかせ。
「おはよう!」
お父さん。
「おはよう」
お母さん。
「よっす!」
圭介くん。
見慣れた面々が、リビングで談笑している。
おはようと挨拶を返し、自分もその輪に加わった。
そのとき、またリビングに誰かが入ってきた。
自分によく似たその少女は自分を見ると笑顔になる。それを見て自分も笑顔になり―─ふたりは同時に口を開いた。
「おはよう! 月乃ちゃん!」
「……おはよう、花恋ちゃん」
嫌な夢を見ていた。
だけど、目覚めてしまえば、夢は終わる。
自分はいま、とても幸せだった。
その光景が、この世ではないどこかで繰り返し見ている夢なのだということに気付かぬまま──仲良しな姉妹は、幸せな日常を過ごしていく。
いつまでも、永遠に……。
【おしまい】
さつきび 古川早月 @utatane35
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