他人事

@ayanami00

短編作品

午後十一時時。

彼女と駅のホームで待ち合わせだった。


繰り返される生活の中、幸せは何か、なんてモノはとうに考える事を辞めてしまった。今はただ、何も失いたく無いと思うだけだった。

誰もが自分を殺して生きている、私も大人になったなあ。こんな年の感じ方はしたくなかった。


改札を抜けて駅を出ると、フロント部分が空き缶のように潰れたタクシーが一台。歩道に乗り上げて大勢の人を轢いた後、電柱にぶつかり止まったようだった。潰れたタクシーの運転手が、頭から血を流して車から出てきた。

涙を流しながら笑ってるように見えた。


「自分を殺せなくなったんだろう。」

私はその運転手の表情からそう感じるものがあった。心の底から毎日を楽しめてる人間なんて何人居るのだろう。そいつらはきっと恵まれた何かを生まれ持っているか、単に馬鹿で視野が狭いだけだと思う。ほとんどの人間が凡人の中、タクシー運転手の彼は私よりももっと長い間を演じ続けてきたんだろう。

アクセルを踏み切ってしまう理由があったんだろう。辺りを見渡すと、ほとんどの車は乗り捨てられて避難しているか、その現場から離れるという行動を取る中、一台の車がエンジンを吹かしたまま止まっていた。

私はその車まで向かい、助手席のの窓をノックした。窓が開き、

「危ないですよ、何してるんですか。」

と、声をかけると

「嫁とも娘とも十年会ってません、借金は八百万あります。」

私はドアを開け助手席に乗り込んだ。

「あのタクシーのそばで倒れている、髪の長い女性、多分私の彼女です。」

遠目だろうと見間違えるはずがない明後日で二年の付き合いだったはずだ、僕があげた白いトレーナーはもはや色が変わっていた。


「正義ってなんなんですかね。」

運転手は笑った。

そして潰れたタクシーに向けて、車を走らせた。

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