第6話 残念な王子

 「ぎゃー、何だよ、これ。」


 声だけ聞いたら、高音のソプラノの叫び声。女子の声に間違われがちだが、れっきとした男子だ。


 学校の階段の踊場で男子三人、密接するように俺の掌で胡坐を組んで座っている巨人を見ている。

 ここは別棟の階段なので、通る生徒はほとんどいない。たまに部活をする生徒が、この棟を使う時に通るくらいだ。


 「これは高性能ロボットじゃないの。もしかして、受験のしすぎで幻が見えてるとか?僕、霊感があったっけ?」


 「バカか。」


 「げっ、喋るのか。凄いじゃん。和樹、夏目、これどこに売ってるんだい。」


 横で夏目ががっくりしている。

 そりゃそうだ、俺の部屋で同じような事を言っていた気がする。


 「お前の感想などどうでもいいわ。こいつは、巨人。俺たちの仲間だ。この際、宇宙人だろうと関係ない。俺たちは一つの使命の為にまとまった。地球の偉い奴らにも教えてやりたいぜ。地球人も宇宙人も仲良くなれるんだってことを。お前も手伝え、友達だろ。」


 設楽が嫌そうに、

 「モテ男がどうとか、バレンタインがどうとかって話?僕は女性にそこまで興味がないんだよ。いいじゃん、高校生からだって。チョコだってもらえるかもしれないし。そこまでモテる事にこだわらなくても。」


 バシッ。


 頭を叩かれ、その場で設楽がうずくまる。

 「馬鹿たれ、お前の意見はどうでもいいんだよ。去年だって女子から告られ、マジチョコもらったお前など、同感してもらおうとは思ってないぜ。いいか、設楽、これは女子に対しての戦いなのだよ。モテ男ばかりにむらがり、上半身裸の男の筋肉を気にし、そのくせ、男子が女子の胸の大きさの話をしたら気持ち悪い、変態と言われる、この現状に立ち向かいたいのだ。だが残念ながら、俺たちにはもうこの機会を除いてチャンスがないのだよ。何せ、受験が終われば卒業式があり、もう会う事はないのだ。女子がこのまま高校生になり、同じような過ちを犯さない為のイベントなのだ。これはお願いではない、強制的にお前は手伝う運命なのだよ。俺たちの最後の戦いに、男子全員、立ち向かうのだ。」


 夏目が拳を握り熱く語るも、言っていることは至ってシンプルでモテない男子の最後の抵抗をしようということなのだ。


 「痛いなぁ。だいたい、僕らだけでどうするんだよ。特に、これ、どうするの。」

 巨人を人差し指でさし、これ扱いされたものだから、

 「イタッ、噛むなよ。」

 指先を噛まれ、呻いている。


 「俺は男子を押さえる。乗り気な奴はいるはずだ。何せモテない奴の方が多いからな。ただし、モテない男が叫んだところで、女子が言う事を聞くとは思えん。よって、仕方なく女子の為にモテる奴を参戦させる。それは、俺がやる。もしかしたら、薫子先生も落せるかもしれない。設楽、お前は学校の見取り図を描け。どこでイベントを行うか決める。勿論、特別棟も入れた全部だぞ。後は、部活動の動向も確認しろ。使う部屋と使わない部屋とを割り振りするんだ。」


 「僕ら、受験生なんだけど、見取り図なんて描いてる暇。」


 バシッ。


 また、頭を叩かれた。

 「夏目、やめろ。記憶なくなったら受験出来ないだろ。設楽、お前パソコン部だったろう。要するに、後輩に頼んで作ってもらえって事。部活に関しては、お前の後輩、生徒会に入ってる奴がいただろう。生徒会が把握してるはずだから、何とかなるだろ。」


 「最初からそう言ってくれればいいのに。分かった、頼んでみるよ。」

 頭を擦りながら、情けない声をだす。


 本当に、その女子的声以外は完璧なのにな。残念。

 「それより和樹は大丈夫なの。薫子先生に協力してもらうんでしょう。」


 「完璧だ、ネタは俺が仕入れた。」

 巨人が胸を張りながら、俺の掌でVサインをかましている。


 昨日から俺の携帯でユーチューブを見るのにハマったらしく、日本人のようにやたらとVサインをしはじめた。


 (こんな宇宙人、信じられないだろうな。設楽もいつの間にか慣れてるし)


 「とにかく、イベントを許可してもらうようには、お願いしてみる。」


 「あぁ?俺の掴んだネタ、つかわねーのかよ?」

 じっと見て、鼻をふふんと鳴らしてくる。


 (こいつ、いつかデコピンしてやる)


 「最終手段で使うかも。だけど、なるべくなら穏便にすませたい。」


 「無理だな。」

 巨人が俺の掌で、腹を抱えて笑ってみせた。


 (間違えて、今、踏んでみようか)


 取り敢えず、こいつをまだ使う機会があるかもしれないので、ここはぐっと我慢し、いつかぶっ飛ばす事にした。


 「そろそろ教室に戻るよ。三者面談の時間が来てるから。僕は三番目なんだ。早めに行ってないとママが来てるだろうし。和樹は最後だから、どうするの?」


 「うーん、夏目は?」


 「俺の番まで一時間くらいある。それから、もうママはよせ、吐き気がする。設楽、なら巨人を連れて行け。それで、俺の机の中に隠れさせてクラスの情報を聞いててくれないか。面白いネタが聞けるかもしれないし。最後に、和樹が巨人を回収すればいいだろ。巨人、俺達の勝利の為だ。頼むぜ。」


 夏目と巨人が、グーで拳同士を軽くあてた。

 「分かった。ネタ集めなら任せろ。和樹、俺を忘れて帰るなよ。」

 巨人を設楽に預けると、そのまま教室へと移動して行った。

 「夏目はどうするんだ?」

 「俺とお前は、今から三組に行く。堂珍をせめるぞ。」

 「了解。」

 ニンマリしながら、俺達も拳を合わせた。

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