街を歩けば戦争難民がいて、そこかしこに焦げ臭さが感じられるような、戦争の爪痕を残す世界。
力ない民に忍び寄る狡猾な敗残兵、あるいは理性を失い暴力を得た獣のような存在。
それに直面する力ない市井の住人と、信念と磨かれた己の技量で抗う主人公達が交錯して織り上げられていく、とても力強いストーリーです。
力ない民の思いと、試練に晒され煮詰められて来た主人公たちの思いがぶつかり生み出されるドラマは、心に響くものがありました。
本作は『異世界ファンタジー』のジャンルですが、魔法の代わりに銃が、呪いの代わりに薬物が、ゴブリンの代わりに敗残兵が跋扈しています。
時代の文化レベルで言うと、第一次世界大戦前後くらいでしょうか。
硬派な文体でさくさく読める類のものではありませんが、その描写は心理、風景ともに重厚です。
コメントで作者様に聞いたところ、実際に戦火に苦しんだ国々を巡り、またその人々と会話して得られた知見を織り交ぜているとありましたため、この表現力にも納得でした。
読み応えのある物語を求められている読者様が居られましたら、本作を一見されてみてはいかがでしょうか。
戦争が終わっても、戦い、傷つき、運命を狂わされた人々の苦しみは終わりません。
本作は戦後復興に取り残された街、人、社会の闇に跋扈する、薬物依存の元軍人である暴徒「フィンド」と、彼らを追う主人公たち「ハウンズ」の物語です。
両親を戦火で失い、たどり着いた街で懸命に生きる少女イレイズの目に、「フィンド」も「ハウンズ」も当初は似たもの同士、平穏を侵食する異物に写ります。
ですが悪夢のような夜を抜けて、彼らの真実、敵の真実、自分自身の真実に彼女が向き合っていく、その描写が残酷で優しく、秀逸です。
地獄への道は善意で舗装されています。
きっと誰もが、限られた選択肢の中で最善を尽くしている、それでも現出する犠牲と悲劇のただ中で、憎しみではなく意志の強さで立ち、戦う登場人物たちの姿に惹きつけられてやみません!