言葉にできない
@kano_3
言葉にできない
ラララ ♪ ラララ♫
ララ ララ ララララ ♪ あなたに会えて
ほんとによかった
嬉しくて、嬉しくて 言葉にできない、、、
イヤホンごしにオフコースの歌が聞こえてくる。部活を終えた私と柳瀬は、ひとつのウォークマンから流れでる音楽を一緒に聴いていた。イヤホンを片方ずつの耳に入れて。
毎日の日課だ。まだ練習をしているサッカー部を眺めながら。
「ひろみは、いいなぁ。
直樹君おるしぃ〜
誰か、え〜人おらんかなぁ」
柳瀬の決まり文句がまた出た!私は心の中でそう思った。
「えーじゃん、柳瀬はかわいんじゃけー、またすぐ彼氏できるけー」と、私も決まり文句だなと思いながら、言った。そんな会話をしながら、夕陽が暮れゆく校庭を眺め、またいつしかラララ〜とオフコースを口ずさんでいた。
柳瀬ナオミとの出会いは、高校へ入学し、テニス部に入ってからの出会いだった。柳瀬は、中学からテニスをやっていて、とても上手でキラキラ見えた。私は、初心者で、素振りと球拾いから始まった。
そうして、月を重ねるうちに、2年生になり、私も随分球を打てるようになっていた。そんなある日、次の試合に向けてペアの発表があった。
ドキドキ、、、ペア組めるのかなぁ、、、
試合出れるのかなぁ、、、
ドキドキ。
「岡ひろみ、前衛。柳瀬ナオミ、後衛に入って」
と言うコーチの声が耳に入り、驚いた。
柳瀬とペア、、、。考えてもみなかった。
柳瀬の豪速球についていけるのかと言う不安と、なんとも嬉しい気持ちが重なった。
「よろしくね、ひろみ」
「よろしく」
きっと、まだ信じられないと言う顔をしていたと思うが、握手を交わした。
それから、一気に柳瀬との距離が縮まり、もうずっと小さな頃から友達であったような錯覚さえするくらい仲良くなった。
柳瀬は、何せ豪速球が打てる。ただ一点、柳瀬は、落ち込むとなかなか切り替えができない人だった。一回失敗してしまうと、引きずってしまい、そのまま負けてしまう。
私は、技術的にはまだまだだったが、唯一、立ち直りが早いのだけが、取り柄だった。
前から、後ろにいる柳瀬に、
ナイスサーブ!
ナイスボー!
ナイスプレー!
と、声高らかに送るのも、私の仕事だった。そして、柳瀬のミスがあると、更に大きな声で
ドンマイ
ドンマイ
と、ちらっと後ろを向き、口の中で、
「がんば!」と伝える。そして、柳瀬はうなづき、豪速球のサーブを打つ。
そんな繰り返しだった。
そして、練習が終わると、夕暮れの校庭を見ながら、一緒に音楽を聴きながら話をした。
テニスのこと、進路のこと、彼氏のこと
家のこと、、、いっぱい話して、さよならをする。
瀬戸内海に浮かぶ島に住んでいる私たち。
柳瀬の家は、山の方、私の家は、海沿い。
「バイバイ、柳瀬」
「バイバイ、ひろみ。ありがとう」
そう言って柳瀬は、家路についた。
私は、彼氏であるサッカー部のキャプテン直樹君が部活を終わるのを、少し待っていた。頭の中では、柳瀬が話してくれた、両親の不仲の話が頭から離れなかった。離婚、、、するかもしれない、、、。まだまだ、今ほど離婚率が高くなかった時代である。柳瀬の辛さを思うと、胸が痛いなと思いながら、暗くなった校庭を眺めていた。
「帰ろ」
サッカー部の練習は終わらない。
私は、直樹君がこちらに気づくのを待って、バイバイっと手を振った。直樹君は、日に焼けた真っ黒の肌から、白い歯をだして、大きく笑って、右手を挙げた。
バイバイ。
直樹君とは、1年生の夏から付き合いが始まった。島の花火大会の日に、直樹君達のグループに出会い、少し会話をしたが、すぐさま祭りの人混みの中に、直樹君達は消えていった。その時、もう少し話したかったなぁと思っていた。
その夜、直樹君から、初電話。いきなりの、「付き合ってくれ」
サッカー部キャプテンの直樹君らしい、いきなりの告白に、私はとっさに「うちでええん?」と、聞き返した。
「ひろみと付き合いたいんよ」
私は「うん」と返事をして、私達のお付き合いは始まった。
だが、お互い部活大好き人間で、一緒に帰ることもなく、デートもなし。休憩時間に、廊下で話すだけのお付き合いが続いた。
ある日直樹が言った。
「今日一緒に帰ろうか?」
「部活、休みじゃけー」
やったぁ!はじめて一緒に帰ることになった。私は柳瀬に、今日は直樹君と一緒に帰ることを伝えた。柳瀬は
「ふーん、わかった」と少し不機嫌になった。
あれ?まだ、ご両親揉めてるんかなぁと、少し心配にはなった。また、明日話しを聞けばいいと、自分に言い聞かせた。
そして夕方、直樹君と私は自転車を押して歩き始めた。
ちょっとドキドキ。
だけど、あれ?何を話したらいいんだろう、
2人は会話を見つけていた。そうだあんまり話してない。
「あのね」と、同時に言って譲りあったり、
たわいない会話をしながら家まで歩いた。
「じゃあまた明日」
とあっけなくバイバイを言ってしまった。
「ちょっと寄ってく?」
とか言えばよかったのに、、、
ドキドキワクワクしていたはずなのに、ちょっと会話に疲れてしまった私がいた。
次の日、私は、柳瀬は元気かなと思って、柳瀬の教室を覗いた。そこには、バスケ部のみさと仲良く楽しそうに大笑いをしている柳瀬の姿があった。
あー元気そうでよかった。
柳瀬は、両親のことで心を痛めているから、だから、私は柳瀬が心配なんだ。そう思って柳瀬を見に来たんだ。だけど元気そうで安心した。
と、自分に言い聞かせた。でないと、自分の気持ちについていけない気がした。
説明のできない胸の痛みを味わった。
私はそのまま直樹君に手もふらずに自分の教室へと戻った。
部活が始まって、柳瀬とテニスの練習が始まったらいつも通り。だけど、ちょっぴり柳瀬に冷たい私がいた。柳瀬は、何も悪いことをしていない。なのにちょっぴり冷たい私がいた。
その日、私は部活の後、柳瀬と音楽を聴きながら話する時間を持たなかった。
「バイバイ!ちょっと急ぐけーまたねー。」
と言って私は家路についた。
その晩、柳瀬から電話があった。
両親の話だった。柳瀬は泣いていた。
だけど、両親の話だけではなかった。
「ひろみ、、、」
「何か怒ってるの?」
黒電話の向こうから、小さな声で聞いてきた。
私ははっとして、
「そんなことないよ」と伝え、明日話しをしようと言って、電話を切った。
黒電話を切る、チーンの音が静かな家の中に響き渡った。その途端、私は溢れ出る感情にきづいて涙がポトポトと落ちた。
柳瀬が好きだ。
それに気づいて、出口のないトンネルに入ってしまったようで辛い気持ちになった。
黒電話の前で、涙が頬を伝った。
朝が来て、そう立ち直りが早いのが私の取り柄。とにかく学校へ行こう、なんだか切ない気持ちも楽しんだらいい。そう思って、学校へ向かった。
「おはよう、柳瀬。昨日、電話ありがとうね〜。放課後、しゃべろ〜」
元気に声をかけた。柳瀬の顔が、パッと明るくなった。それから、私は廊下を、佐野元春の歌を大きな声で歌いながら、自分の教室へと向かった。教室の中から
「ひろみィ〜、朝からうるさぁい」
という声が聞こえた。私は、笑いながら、思いっきり大きな声で、佐野元春を歌いながら歩いた。教室から、笑い声が聞こえた。
それから、私は素直に柳瀬柳瀬と毎日声をかけ
話をした。
相変わらず柳瀬は、両親のことで悩んでいた。
ある時、柳瀬が言った。
「お父さんとお母さんのこと聞いてくれて、ありがとう」
そう言った。そんな時は、どさくさ紛れに思いっきりハグをした。
私が心の中で、柳瀬が好きだァーと泣きそうになるのを、柳瀬は知らなかった。
だけど、直樹君には伝わってしまった。
その相手が誰なのかは気づかれてないけれど、自分が一番ではないことに、気づかせてしまった。
そして直樹君と私の恋愛は終わった。
そして、月日は流れ卒業が近くなってきた。
私と柳瀬は、家の事情の話もしたけど進路の話もいっぱいした。そして、お互いがお互いの道を見つけ、応援をしあった。
そんなある日、家庭科の授業があった。
全学年の女子が集まってハンバーグを作った。
柳瀬とは、クラスが違うのでおのずとグループも違う。相変わらず、柳瀬はバスケ部のみさと仲良く楽しそうに調理をしていた。
私は見ないことにした。なぜならば、情けないことに、やきもちを焼いてしまうからだ。幸いテーブルは遠かったので、知らんぷりをして、私はハンバーグ作りに専念した。
ふと視線を感じ顔を上げると、その視線の先には柳瀬がいた。調理教室の角と角とで、遠かったのに目があった。
あーと思って手を振ろうと思ったら、柳瀬は、ああしまった!と言う顔で顔を背けた。
ドキッとした。
柳瀬は私を見ていてくれたんだ。だけど、柳瀬もそれを気づかれたくなかったみたいだ。
女の子が好きな男の子を見るような視線。
あれ?私男だったっけ?男だったらよかったのにと思って、1人で笑っていた。
ありえない。
あの瞬間は夢だったのだろうか、、、。
受験シーズン到来。
恋愛を語っている間はなくなってしまった。
ほとんどの子が高校卒業したら、一度、島を出る。だから、勉強して大学か専門学校に行って、本土で働く。いずれ帰ってくる子もあるけど、そのまま島を出てしまう子もあった。だから、みんな必死で勉強した
柳瀬と私も、もれなくお互い受験勉強に励んだ。
お正月を迎える頃となった。
また、イヤホンを片方ずつの耳に入れて、音楽を聴きながら話をしていた。もう、部活も終わっていたので、放課後に、たまに話しをした。
「冬休みになると、ほとんどあえんじゃんね〜」
柳瀬が、そう言った。その柳瀬の言葉に勇気をもらって、思いきって、私は柳瀬に言った。
「ねぇねぇ、柳瀬、初日の出だけぇ、
一緒に見に行かん?」
柳瀬は、笑って
「えーね〜!」と答えた。
薄暗い山道を、2人は登った。
海が見える小さな山。はーはーと、吐く息が白くて、ぐるぐる巻きに巻いたマフラーの中から白い息がもれていた。寒いし、少し怖かった。
どちらともなく、佐野元春の歌を、2人で歌っていた。
ガラスのジェーナレーション♪
山の上に着いた。しばらく待った。
まもなく、空が明るんできたかと思うと、きれいなグラデーションを作った。
お日様が顔を出した。そして一気に、山と海と私たちを照らした。
初日の出。
あまりに綺麗で、しかも柳瀬と2人で。
少し涙ぐんでしまった。
柳瀬の顔は見ていない。
大きく息を吸って、今年がんば!しよ〜。
どちらともなく言った。
しばらく2人は黙って初日の出を見ていた。
試験が終わって、柳瀬も私も進路は決まった。
柳瀬は京都へ。私は奈良へ。お別れの日が刻々と近づいていた。
卒業式を終えて私たちは、2人で卒業旅行に行った。船に乗って島を出て、それから電車に乗って、遠くへ遠くへ旅に出た。いっぱい話して、いっぱい歌って、おいしいものを食べて、一緒に笑った。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、また、電車に乗り、船に乗って島へと向かった。
辺りはすっかり暗くなっていた。
船には、風が当たらない客室と、デッキがあった。私達は寒いけど、デッキにある小さな椅子に座って、海を眺めながら話しをした。
柳瀬と私のショートカットの髪の毛が、バサバサと風に揺れた。
柳瀬が、ちょっとためらいがちに、話し始めた。
「ひろみ、お父さんとね、お母さんが離婚した日、来てくれて、ありがとうね。毎日、家の中で暗うて、もう死にたいって思っとった日あったんよ。じゃけど、あの日、ひろみが来てくれたけー、遅くまでおってくれたけー、、、うち、、、」
「ほんま、ありがとう」
柳瀬の言葉で、泣きそうになった。
そして、柳瀬は言った。
「ひろみ、、、ひろみ、、、大好きじゃけね。京都言っても、連絡するけーね」
それ私のセリフ。どう言う意味なんだろ?そう言う意味かな?いやぁ、それはないな、、、だけど、柳瀬の目を見てると、心がひとつに重なってるように思えた。
「それは、こっちのセリフじゃん」かなりの間があいてしまったが、私はそう言った。
柳瀬は、泣き笑いしていた。
私も、笑った。
それから、しばらく2人は海から聞こえる波の音を聞いていた。
私の降りる桟橋が近づいてきた。もうしばらく柳瀬には会えない。
涙が頬を伝ってきた。
そっと柳瀬のほう向いてみると、柳瀬の目からポタポタと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
あー桟橋に着いてしまう、
そう思った途端、私は柳瀬にキスをした。
柳瀬は、少し驚いた様だけど、そのまま、少しそのまま時間が流れた。
ボー。船が桟橋に着いたのを知らせる音が鳴り響き、私達は、離れた。
「ありがとう」
そう言って、私は船を降りた。
柳瀬を乗せた船は、暗い海の中に消えて行った。かすかにみえる、ゆらゆらと揺れる灯りが見えなくなるまで。海から来る風が冷たいはずなのに、風があるから、涙を飛ばしてくれてるようにも感じた。
私のファーストキスは、痛くて、しょっぱかった。
新たな出発の日、荷物を積んだ車が私の育った家を出発した。
「あっ、柳瀬」
車が走り出した途端、柳瀬の姿を道路端に見つけた。来てくれたんだ。
私は、両手で握りこぶしを作って、大きく振った。そして口の中で
「がんば!」と言った。
柳瀬は、大きくうなづき、柳瀬も両手で握りこぶしを作った。
「がんば!」
柳瀬も、そう言ってくれたように見えた。
そして、柳瀬の姿は遠ざかっていった。
ラララ ♪ ラララ♫
ララ ララ ララララ ♪ あなたに会えて
ほんとによかった
嬉しくて、嬉しくて 言葉にできない、、、
手にしたウオークマンから、聞こえてきた。
新しい場所へと、2人は歩み始めた。
終
言葉にできない @kano_3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます