【イベント企画】ホワイトデー
【ヘタレ陰陽師】より
ヘタレ陰陽師のホワイトデー①
↓本編はこちら
『千年ぶりに現れたとかいう安倍晴明レベルの陰陽師がヘタレすぎてどうしようもない! ~もふもふケモ耳男子×3にあざとい系神主を添えて~』
https://kakuyomu.jp/works/16816700426687555745
↓戦うイケメン中編コンテスト参加作の続編はこちら
『千年ぶりに現れたとかいう安倍晴明レベルの陰陽師(ただしヘタレ)は、チート過ぎてバトルには向かない!?〜もふもふ式神×3とあざとい系神主のわくわくデート尾行〜』
https://kakuyomu.jp/works/16816927860259401404
※もう絶対にオチが見えている話ですが、最後まで生暖かく見守っていただけたら幸いです。
本日は、3月14日。ホワイトデーである。
あの、デッドオアアライブなバレンタインから一ヶ月。今日は、いわゆる『お返しをもらう日』というやつだ。
思い返せばあたしのホワイトデーというのは、義理で配った人から、やはり『THE義理』なお返しをもらう日だった。本命として渡したものは、大抵の場合玉砕がセットになっていたので、お返しどころではなかったのである。
だから、恐らく、本命のお返しをもらうのは、今回が初めてになる、はずなのである。
『恐らく』とか『はず』というのは、正直自信がないからである。だってその『本命』の相手である慶次郎さんと来たら、バレンタインの日、あたしに『友チョコ』を渡そうとしていたのだ。一応、特別な人ということで、
いや、わかるのよ。『友チョコ』っていうのは名前だけで、きっと意味としては『本命チョコ』に近いものがあるってことくらいは。だけどさ、たかだか名称の違いではあるけどさ、なんかこう、「本命です」みたいな感じでほしいっていうかさ。ちゃんとその辺も学んでほしかったというか。
我ながら面倒臭いやつだと思う。だけどさ、あたしだって浸りたいのよ! ここまで好きって想われたことなかったんだもん! ちょっとくらい少女漫画のヒロイン的なやつを味わってみたいんだもん!
などとさらに面倒臭い思考を引きずりながら、やって来たのは『珈琲処みかど』だ。一応、あたしの名誉のために言っておくけど、お返し目当てで自主的に来たわけではない。向こうから呼び出されたのだ。
「はっちゃんにお渡ししたいものがあって。もしよろしければ、15時頃、みかどに来ていただけませんか?」
そんなことを言われたら、そりゃあ二つ返事のあたしである。
だけど、慶次郎さんのことだ。ホワイトデーのお返しかな? って期待させておいて、実は全然違うやつ、というオチも十分に考えられる。あまり期待はしないでおこう、うん。それが慶次郎さんなんだから仕方がない。
そう言い聞かせて、みかどの前に立つ。
「おい、ちょっと待てや」
本日休業、のプレートが下がっている。
何でだよ! 飲食店がそう簡単に閉めてんじゃねぇぞ! アレか?! ホワイトデーだからか?! あたしのために本日貸し切りです、って? だとしたら、それは嬉しいけれど、いや駄目でしょ!
「ちょっと慶次郎さん?!」
と、怒りに任せてドアを開ける。
が。
「だ、誰もいない……?」
いないのである。
慶次郎さんも、ケモ耳ーズも。歓太郎さんも――と言いたいところだけど、あいつの仕事場はここじゃねぇしな。むしろいなくて当たり前なんだった。
え、本当にどうしたんだろう。もしかして本日休業って何かあったのかな。突然店を閉めざるを得なくなったとか。そんなの冠婚葬祭しか浮かばないっていうか、いや、だとしてもおめでたい方のはあらかじめわかってるから急遽閉めるなんてことにはならないだろうし。てことは――
身内に御不幸があったパターンなのでは?!
だとしたら、あたしこんな浮かれてる場合じゃないでしょ。帰った方が良くない? そんじゃせめてその旨を電話で……って、ヤバい! スマホ忘れた! あたしは馬鹿か!
と、得意の早合点で、こうなったら直接行くしかない、と勝手口から外に出る。神社の方に誰かいるだろう、と。もし全員出払っているとしても、お留守番として
ぜぇぜぇと長い石段を上っていると、話し声が聞こえて来た。良かった、誰かいる。ていうか、この声は慶次郎さんだ。さらにもう一段上ると、ちらりと彼の頭が見えた。おーい、と声をかけようとしたけど、呼吸を整えないことには、そんな声も出せそうにない。よいしょ、と気力でもう一段上る。すると、もう一人の頭が見えた。髪の長い女の人だ。こちらに背を向けて、彼と向かい合っている。
思わず身を低くして隠れる。
隠れる必要なんかないのに。
一瞬、髪を下ろした歓太郎さんかとも思ったけど、それにしては背が低すぎる。あの人、黙ってりゃ見た目はきれいなお姉さんだけど、声は低いし背も高いんだよね。だけど、慶次郎さんより頭ひとつ分小さかったし、話す声も高い。絶対に女性だ。
「急に来るから、びっくりしたよ」
「ごめんなさい、慶ちゃんを驚かせたかったの」
「またそんなこと言って」
「でも、会いたかったでしょ?」
「それは……そうだけど」
な、なんですと?!
何、どういうご関係?! ていうか、『慶ちゃん』って!
「それで、その、こっち来るって聞いて、急いで買ってきたんだ。好きだったでしょ、これ」
「あら
「もちろん。忘れるわけないよ」
「ふふ、じゃあ、結婚の約束も覚えてる?」
「けっ……!? お、覚えてる、けど。あれは小さい頃の話で……!」
「わかってるわよ。んもう、慶ちゃんたら、お顔が真っ赤よ」
「その『慶ちゃん』っていうのもやめてよ。僕はもう大人なんだから、ちゃんと大人として接して」
「はいはい、わかったわよ」
け、結婚――!!!
ちょ、ちょっと待って慶次郎さん!
あなたそういうこと言えるキャラだったのね?!
じゃなくて!
何!?
これ絶対幼馴染みじゃん!
そんでたぶん、年上のお姉さんじゃん! 初恋の相手パターンじゃん!
引っ越しか何かで離ればなれになっちゃったけど、ある日突然帰って来て昔の恋心が再燃する感じのやつじゃん!
幼馴染みになんて勝てるわけないじゃん!
結婚の約束までしてるのに!
駄目だ。
もう絶対勝ち目がないやつだ。
そうだよ、慶次郎さんだってこんな四六時中ギャーギャー騒いでる乳だけ女より、清楚系のお姉さんの方が良いよね。大丈夫、振られるのには慣れてるんだ、あたし。
とぼとぼと石段を下りる。
とてもじゃないけど、あの中には割って入れない。黙って帰ることになるけど、仕方ない。律儀な慶次郎さんのことだから、後で電話でもくれるだろう。その時に詫びれば良いのだ。お腹が痛かったとか、そんな適当な嘘でもついて。
石段を下り切って、勝手口のドアを開けると、そこにはケモ耳ーズがいた。ここから現れたあたしを見て、三人共目を丸くしている。
「あれ? 葉月、どうしてこっちから?」
「あ――……、さっきお店に誰もいなくてさ」
「誰もいませんでした? おかしいですね、どちらか一人は残っているはずだったんですが。おパ? 純コ? 留守は任せましたよね?」
「おれはおパがいると思って」
「ぼくは純コがいると思って」
「……成る程。すみませんでした、葉月。さ、どうぞ座ってください。疲れたでしょう」
麦さんの言葉で純コさんがカウンターの椅子を引く。おパさんが「何か飲む? あったかいのが良い? それとも冷たいのにする?」と尋ねて来る。
「いや、良い。あたしもう帰るから」
これ以上ここにいたら、慶次郎さんが来てしまうかもしれない。そう思って、無理やり笑顔を作り、足早に店内を突っ切ろうとする。が、さすがは式神というべきだろうか、一瞬のうちに回り込んでドアの前にずらりと三人並ばれてしまった。ケモ耳バリケードである。
「葉月葉月どうしたの?」
「何だか声に覇気がありませんよ?」
「疲れてんのか? 休んでけよ」
「全然大丈夫。もう全然元気だし」
「そうは見えませんよ。何かあったんですか?」
「わかった、歓太郎でしょ! 歓太郎に何かされたんでしょ!」
「よし、おれらが後でとっちめとくから! な、まずは座れって!」
「今回は歓太郎さんじゃないよ。とっちめなくて良いって。とにかく、今日はもう帰るから」
「うわぁん、嫌だぁ! 帰らないでぇ!」
「お願いします! せめて今日は!」
「頼むよ葉月!」
おパさんからは右袖を、
麦さんは左袖を引っ張られ、
純コさんからは祈るように手を合わせられる。
「俺からもお願い~! はっちゃぁ~ん!」
そして一体どこから現れたか、わいせつ神主が背中から覆いかぶさって来る。
それを後ろ蹴りすれば、彼は「くそぉ、手が塞がってるからイケると思ったのに」と蹴られた脛をさすりながら呻いた。
「何なの、もう!」
さすがに声を上げると、「いつもの葉月だ!」「ちょっと取り戻してきましたね」「そうか、歓太郎をけしかければ良いんだな」とケモ耳ーズがキャッキャとはしゃぎ出す。「おい、俺の犠牲がデカすぎねぇ?」と歓太郎さんは不満気だ。
「だって今日ホワイトデーでしょ? ぼく達、葉月にちゃんとお返し用意してるんだもん」
「そうですよ、バレンタインのお返しをさせてくださいよ」
「だからさ、もうちょっといてくれよぉ」
そんなことを言われれば、
「わかったよ」
そう返さざるをえないのである。
ただしわいせつ神主、貴様は仕事に戻れ。
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