【公家顔君と木綿ちゃん】より
ハマナス書房にて【小暮君との初対面・お蔵入りver】
↓本編はこちらです
公家顔君と木綿ちゃん ~頼れる親友は専属恋愛軍師様!?~https://kakuyomu.jp/works/1177354054922440802
第2章、本当に書くかは未定なんですけど、あの後木綿ちゃん&トンちゃんが小暮君と初対面するとしたらこんな感じかな、って考えてたやつです。
ただ、本編のコメント欄でこれよりもっと面白そうな感じのネタをいただいたので、書くとしたらそっちの方が良いのかな、みたいな迷いもあります。
とりあえずもったいないので、ここに載せることにしました。
「よう貴文。珍しいな、今日は団体か」
駅前のハマナス書房に足を踏み入れると、すぐ近くに数人の女子生徒を侍らせた小暮が何やら意味ありげな笑みを浮かべて手を挙げた。まーたこいつは告白されているのか。
「団体って数でもない」
それより、俺としゃべってる場合じゃないだろ、とその女子生徒にちらりと視線を向けると、ああ、と困ったように眉を寄せ、指を2本立てた。恐らく、「2分待って」という意味だ。
「取り込み中みたいだし、とりあえず向こうに行こうか、蓼沼さん」
そう言って彼女の手を引く。繋いだ手は暖かい。
「柘植君、いまの人が親友の人? ええと――」
丸い目をぱちぱちと瞬かせ、こちらをじっと見つめる様はまるで子犬だ。ええと、に続く言葉は何となく予想がつく。
「うん、女子。あんまり女子っぽくはないけど」
そう、女子っぽくはないのだ。
もしこれが私服だったら男子で通用しただろう、というレベルである。
けれども、学校帰りの制服姿のまま働いている小暮は、当然のようにスカートなのである。上はブレザーなのでデザイン的には男子と変わらないといえば変わらないが、ジャケットはわずかにウエストが絞られているし、下はチェックのプリーツスカートである。まぁ、その下にはジャージを履いてるんだけど。
「ううん、とっても可愛い! 憧れるなぁ、ああいうバッサリしたショートカットとか!」
「えぇっ、可愛いの?!」
蓼沼さんはその丸い目をきらきらと輝かせて小暮を見つめている。ちょっと待て。第2章のライバルってもしかして小暮なんじゃないだろうな?!
「アラッ!? 木綿ちゃんったら、ああいうボーイッシュなのがお好みなの?! あたしとしてはやっぱりいまのセミロングが好きだけど、ううん、でも新境地開拓って意味ではアリかも……? どうかしらねぇ」
「あははー、トンちゃんくすぐったいよぉ」
「ちょ、おい! 富田林!」
蓼沼さんの髪を後ろから掬い上げて緩く束ね、それを前から確認している富田林は「何よ。ショートが似合うかチェックしてるだけじゃない」と悪びれる様子もない。蓼沼さんも蓼沼さんでなぜこんなに無防備なんだろう。富田林だからか? まぁ、富田林だからか……。
「おおい待たせたな、貴文。……何やってんの、お前達」
そこへ呆れたような顔をした小暮がやって来る。確かに「何やってんの」ではある。
「別に何も。ていうか、今日もか」
「今日もだな。いやぁ、モテるって辛いわぁ」
そんなことを言いながら、店の入り口をちらりと見る。目元を押さえた子を取り囲む女子の集団が、のろのろと出ていくのが見えた。
「アラッ、やだ何、告白されてたの?!」
それに食いついたのは富田林である。どうやらこいつはこの手の話が大好きらしい。
「まぁね。何でか知らねぇけど、モテんだよなぁ、オレ」
腰に手を当て、あっはっは、と笑ってから、「そんでお前誰」と怪訝そうな顔をする。あたしはね、と富田林が言うより先に「わかった!」と小暮は両手を打った。
「お前アレだろ、番犬だろ。そんで、こっちのちっちぇのが貴文の好きなやつだな?」
正解なんて一言も言っていないのに、へっへぇ、オレ冴えてる! とガッツポーズまで決め、「よっしゃ、姉ちゃんにも見せたろ」などと言って強引に手を取った。
誰の、って。
よりにもよって富田林の手を、だ。そこは普通蓼沼さんの方なんじゃないのか。まぁ良いけど。
「ちょ、ちょっとこの子何?! 柘植! アンタの親友どうにかしなさいよ! 距離感おかしくない?! 初対面よ、あたし達!」
「それについてはごめん。昔からこういうやつなんだ。友達の友達はみんな友達っていうか」
あの富田林が押されている(というか引っ張られてる)なんてかなり新鮮だぞ、と思いつつも、まぁちょっとは同情する。
「そうだよねぇ、友達の友達は友達だよねぇ」
蓼沼さんは全く疑問に思わないらしい。
さほど広くもない店内をぞろぞろと歩いてレジカウンターに向かうと、そこにいるのは小暮のお姉さんである
「いらっしゃい、貴文君」
「どうも、ええと」
「お友達?」
「いや、その友達、ではないというか……」
とりあえず蓼沼さんは彼女であるから良いとしても。
よくよく考えたら富田林は特に『友達』というカテゴリではないような気がする。単なる級友というか、まぁぶっちゃけ小姑というか。
「あの、『彼女』です」
蓼沼さんと繋いだ手を軽く上げると、藤子さんはにこりと笑った。
「だと思った。成る程、貴文君はこういう可愛らしい子が好きなのね」
そう言って、それとは真逆のタイプである自身の妹を見、はぁ、と大きなため息をつく。
「あっ、何だよ姉ちゃん。いまオレを見てため息ついただろ!」
「ため息つきたくもなるわよ」
「良いじゃんか、こんなモテる妹なかなかいねぇぞ?」
「その気がないのに同性にモテて、あおちゃんは嬉しいの?」
「嬉しいわけないだろ! オレだって男からモテてぇよ!」
「だったらまずその言葉遣い! それから足は閉じる!」
「ああもううるせぇなぁ!」
突然始まってしまった姉妹喧嘩に、富田林も呆れ顔である。
「ええ、何。さすがのあたしもドン引きなんだけど。アンタの親友どうなってんの?」
けれど、蓼沼さんはなぜかそれをニコニコしながら見つめている。
「私もね、お姉ちゃんとはよく喧嘩したんだよ~」
いや、そうかもしれないけど、絶対にこんな内容じゃないだろう。
とにかく、彼女の紹介は済ませたということにして、そそくさとその場を離れる。これ以上ここにいたら流れ弾で負傷しそうだ。
「何か騒がしくなっちゃってごめんね」
外国人作家コーナーでそう言うと、蓼沼さんはふるふると首を振った。
「ううん、楽しかったよ。柘植君の親友さんにも会えて良かった。あとでちゃんとお名前聞いておかないと。あと、連絡先!」
「連絡先?」
「うん、そしたら、トンちゃんと4人で遊びに行けるでしょ」
「そうね、Wデートも悪くないわね」
「Wデートって」
「いや、もちろんあたしとあの子はそういうんじゃないわよ? でも、3人だと誰か一人はあぶれちゃうじゃない? そうなったらアンタが可哀相ですもの」
「あぶれるの俺かよ!」
でも何となくそうなるような気がしてしまう自分が嫌だ。
早く彼氏らしくならないと。
そう思って、繋いだままの手を少しだけ強く握った。
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