第26話 さすがわが妹

 翌日は朝から晴天で、雲一つない青空だった。

 陽と一緒に家を出ると、夏希がそこに合流する。


 3人での登校がこのところの日課だったが、今日に限っては学校までの通学路を歩いていると、ぞろぞろとクラスメイト達が俺たちの周りを固めていく。


「はよう、なつ」

「おっはー、あき、それに川瀬さんと一橋さん……ってその子誰? 可愛い」

「あっー、どうも。先輩たちと旅行でご一緒させてもらった松尾奈々です」


 奈菜は友達の熱意ある視線にひたすら冷めた非戦を返す。

 それは俺たちにとって心強い味方で、これからすることの協力者であり理解者でもある。



 学校に登校した時点で俺たちは体育館で準備を始める。

 クラスメイトだけじゃなく、話を聞いた陽の友達多数、かつて陽に告白し敗れ去った男の連中が終結し一層活気づいていく。


 その中には夏希が告白してくれたあの日、陽に告白していたサッカー部の人もいて、体育館の舞台でマイクの調整をしていた俺と夏希に近づいてきた。


「やあ、一橋さんのお兄さん」

「……どうも。あきって呼ばれてます……」

「それじゃああき君。悪いね、同じ部の奴が多大なる迷惑をかけてしまったみたいで……」

「俺は別に……妹を傷つけたのが許せないだけですけどね」

「同意だ。何か手伝えることがあれば……」

「仕返しとかあるかもしれませんよ……」

「構わないよ。あいつのことは良く思っていない人は多い。僕もその一人でね。それに……そ、その、妹さんに告白したこともあるんだ。フラれてしまったけどね……」

「あっ、あの時のサッカー部の人ですか……」


 夏希があの日を思い出したようで、優しく微笑む。


「あの時?」

「あなたが陽に告白した日に、夏希に告白されたんです」

「ははは……盗み見られてしまっていたか……」

「ぜひ、手伝ってください」


 陽を想う気持ちが少しでもあるなら、そう思って俺と夏希は同時に頭を下げていた。


「ああ、僕は君たちの味方だ」


 この人は信頼できそうな人かなと思う。

 陽にもう一度告白したらどうなるかなと少しだけ想像してしまった。


「先輩、こっちは準備いいですよ。お二人の準備できてます?」

「はいぃ!」

「おう!」


 奈菜の問いに俺と夏希は顔を見合わせながら答えた。



 ☆☆☆



 体育館には教師も生徒も含め、続々と人が集まりだしていた。

 その視線が舞台上にいる俺と夏希に向いていて、それだけで緊張感が増す。

 今日は始業式や卒業式などではない。

 しいて言うならあんなことをされた俺たちの反撃だ。


 舞台袖から奈菜が顔を出し、大きく頷き彼女はマイクを入れた。


「おほん、皆さんお集まりいただいてありがとうございます。今日は、校内で話題になっている一橋輝あきら先輩と川瀬夏希先輩から皆さんに説明したいことがあるそうなので静かに黙って聞いてください。私は陽さん含めてお3人さんと旅行のときご一緒させていただいた大変お世話になった松尾奈々です。あの旅行が問題になっているということで駆け付けました……それじゃあ、先輩たちお願いします」


 奈菜の説明に館内はざわつく。それはおそらく陽の想定内で反応としては良いものだろう。

 俺はマイクを握り、大勢の生徒を目の前にする。

 さすがに怖気づくし、緊張してた。


 それでも話さなきゃいけない。俺たちの為に、陽の為に。


「俺はここにいる夏希と付き合ってます。夏希は幼馴染で小さいころから一緒にいて、か、可愛くて……ずっと好きでした。この夏休みに旅行することになったんですけど、俺たち2人だけじゃなんかあったら不安だし、高校生だしってことで妹である陽にも一緒について来てもらいました……鎌倉のホテルで一緒にいるところをあんな風に写真に撮られたみたいです」

「……」


 夏希がぎゅっと袖を握って来る。頑張れと言われている気がした。


「写真を撮られたことを気が付いたのは、恥ずかしい話貼られた後で、妹は海辺で叫んだことをネタに脅されていたみたいで、俺たちの写真もその脅しのネタだったみたいです。俺が夏希のことが大好きで旅行に行ったことも事実です。でも、事前に両親にそのことを伝え、そのなんていうかお互い子供だし、高校生にあるまじき行為っていうのか、そういうのは何にもなくてただただ旅行というイベントを3人で楽しんだだけだから……こんなことになってびっくりしているっていうのが本音で……ちょっと色々言い訳する前に、もう一度夏希にはきちんと俺の方から言っておこうかな……な、夏希、大好きだ」

「……はいっ。わたしもあき君が大好きです」


 思いを告げると、大歓声が起こり拍手に体育館が包まれる。

 こそばゆいくらいのその反応に俺も夏希もたじろいでしまい、あたふたしてしまう。


「うわっ、先輩マジで言ったよ! すげえ」


 奈菜がマイクの音量が入っているにもかかわらず、舞台袖から声を上げる。


「……こんな人前で、こんな恥ずかしいことをしでかすお兄ちゃんとたった一人の親友ですけど、2人ともわたしの大好きな人で大切なふたりです。幸せになってほしいし、わたしが脅されたことで2人の仲を台無しになんてしたくなかった……だから何も2人には言えませんでした」


 奈菜からマイクを譲り受け、陽も壇上に立つ。


「2年3君、サッカー部所属の高瀬巧。わたしを脅したのはあなたよね!」


 さっき手伝ってくれると申し出てくれた同じサッカー部であり、陽に告白の経験がある優男が高瀬が逃げられないよう周囲を固め、ステージ前に引っ張って来る。


 その顔はこんな状況を思惑が違ったと感じている顔であり、心底胸糞が悪い。


「生憎だったわね、盗撮野郎。うちのお兄ちゃんも夏希もあたしが思っている以上に信じてくれて、そして大好きでいてくれた。だからあたしは……」


 陽は、スマホをマイクに当て画面をタップする。


「……俺、同じ高校に通ってるあんたと顔知ってるんだけど、浜辺での愛の叫びを聴いちゃってね。あんたたち兄妹だよね、それで好きってキモくね……バラされたくなかったら言うとおりにしろよ」


 陽はホテルを出る際、フロントが預かった高瀬直筆の伝言メモも広げる。

 この辺が陽の凄いところで、咄嗟の機転を利かせて録音機能を使い証拠を残しているという。


「あたしたち兄妹は、夏希は決して濁ることない絆があるの。あんたの思い通りになってたまるか!」

「はなせこらっ!」


 分が悪くなったと思ったのか、顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。

制していた周りの部員に手を出し、陽に食って掛かりそうな雰囲気だった。


 夏希に来ていたブレザーを渡し、陽の頭を撫でてから俺はステージから飛び降りて高瀬に歩み寄る。


「先輩、随分とフラストレーションが溜まっているみたいなんで、消化させてあげますよ」

「出来損ないの1年が調子に乗んな!」


 煽れば突っ込んでくる典型的ないきりだ。

 そのゆるい拳を叩き落して、みぞおちに結構勢いよく蹴りを入れる。


「ぐっ、ああ……」

「よええな。立てよ。そんなんで陽が受けた痛みが、お前が今までさんざん苦しめてた女の子やクラスメイトの心の傷が清算出来ると思ってんのか?」


 教師たちは事前にこいつから嫌がらせを受けたクラスメイトや女の子が壁になって止めてくれてる。

 暴力はいけないとわかってるし、あんまり喧嘩しないように夏希には昔注意されたことがあった。

 でもわかっていても今日だけは……

こいつだけは、何発か本気で体に入れないと俺の気がどうしてもすまなかった。


「もう十分だ、あき。どっちが悪者かはここにいる誰もが理解したさ」


 タイミングよく新開が割って入り、握っていた拳をゆっくりと解く。

 息を上げ、恐怖すら浮かべる高瀬に目いっぱいの睨みを利かせる。


「だから言ったでしょ、先輩。敵に回しちゃいけないって。俺もあきも喧嘩早いんですよ」


 トドメとばかりに飛び蹴りをかます。


「いや、違うぞ。お前だけ逆恨みされたら気の毒だからな。最後は俺が的な。むかついたのは確かだが……」

「ははっ」


 倒れている高瀬に女性陣が取り囲み、さらに手を出されていたのを見て、鬱憤は晴れた。

 こうして俺たち3人の反撃は終わり、この日から俺と夏希は全校生徒公認のカップルとなってしまった。



 理由はあるが、手を出してしまったのは事実で俺は自主的に1週間学校を休んだ。

 高瀬はというと、その他にも行っていた悪行が次々にバレ、クラスメイトの親も巻き込んでの大騒動に発展し、教師の目は俺たちから完全にそちら側に向いたようだ。


「あんな最悪なやつ、叩けば埃が出るに決まってるじゃん」


 そこまでが陽の作戦どおりで、さすがわが妹。



 ☆☆☆



 月日は少し流れ肌寒い季節になっていた。


「ああ、もう遅いよ。お兄ちゃん……スクランブルエッグってどう作るの?」


 陽はすっかり元通りになり、いや以前とは違って早起きするようになって、料理もするようになっていた。


「ネットで調べろって昨日言ったろ」

「えっー、手取り足取り教えてって昨日言ったじゃん」


 こういうところは相変わらずで、むっとした態度を示しわざとすり寄って来る。

 そんな陽の行動を夏希は最近良しとしないようで、


「おはよう、あき君。陽ちゃん……ちょっと離れよ」


 朝早くから家に来て、ご飯を一緒に食べてから登校するのが日課になった。


「夏希……毎日のようにうちに……」

「彼女だもん」

「くっ、うっ、容赦ねえ」


 陽を弄ることを楽しくさえ思っていそうで、朝から小動物のように動き回り、朝食の手伝いをしてくれ、あの口元が緩んだだらしない笑顔をさらににへらと進化させた満笑顔を作る。


「……」


 そんな俺たちの様子をどこか寂しそうに、でも嬉しそうに眺める陽は、


「ねえ2人とも、今日って放課後予定ある?」

「ないけど……」

「ならさ、ちょっと会ってほしい人が居るんだけどな……」


 互いの顔を見つめ、沈黙した俺たちは徐々に徐々に表情が緩んでいく。


「それってあれか、紹介したい人が見たいな……」

「それってあれかな、紹介したい人が見たいなことかな……」

「ハモルな! まあ、そう……」


 頬を桜色にしてモジモジする妹のお姿は滅多に見ることが出来ずに新鮮だった。


「じゃああれだ、以前陽が進めてくれたカフェで待ち合わせにしようぜ」

「うん、あそこがいいね!」

「えっー、何かイメージ悪いな……」

「今度は俺たちがお前の恋を応援してやる」

「今度はわたしたちが陽ちゃんの恋を応援するね」

「……だからハモルなってえの!」


 今度は、付き合い始めた俺と幼馴染が、大切な妹の恋を応援する物語だ。



~~~


ここまでお読みいただきありがとうございます。

今話で完結とさせていただきます。


本作品は一度完結させたのち、他作品の創作に悩んだ際に気分転換もかねて再開しましたが、再開後はなかなか投稿が出来ず、ところどころ端折っているので、きちんとした物語にはなっていないように感じて、今作を読んでいただいている読者様にはご迷惑をかけたかなと思います。


ポンコツ作者にとって今作は小説家になろう様にて、初めて表紙入り出来た作品でもあり思い出深い作品です。

このページまでたどり着いてくれたお読みくださった読者様に感謝しています。

お手数でなかったら下の☆☆☆をお付けくだされば、今後の創作活動のモチベーションになります。


他の連載作品も投稿中ですので、そちらにも目を通してもらえれば嬉しいです。

カクヨム様での投稿順は変わっていますが、順番的には、今作の後に→ハーフ美少女→声優ヒロインと執筆しています。


最後になりますが、未熟な文章をここまでお読みいただきほんとうにありがとうございました♪

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家ではお兄ちゃんとすり寄ってくる妹への告白を目撃したら、小動物系の幼馴染が告白してきた件 滝藤秀一 @takitou

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