第25話 救世主
制服姿の彼女は俺たちを見つけるとわき目も振らず駆け寄って夏希に抱き着く。
「先輩、夏希さん、お久しぶりです……うわっ、柔らかい」
「奈菜ちゃん、ありがとう。来てくれたんだね」
「もちろんです。陽さんがピンチと言われれば来ないわけにはいきません」
呆気にとられている両親と先生方に、奈菜のことを説明した。
「なるほど。では君はこの子たちと旅行中一緒だったと」
「はいっ。意気消沈していた私の傍にずっといてくれました……それがなんで問題に?」
「夏休みだからと羽目を外しすぎたようだから、こうやって面談を……」
「羽目を……はっ……えっ、馬鹿なんですか? あの、奥さんとか好きな人とかちゃんといます? 良い大人ですよね? 仲良しな3人が楽しく旅行してただけじゃないですか。小学生ならともかく高校生じゃないですか。しかも幼馴染……ほんと夜も凄い楽しくて、先輩と夏希さんはほんと羨ましいくらい初々しくて、いいなあって憧れてたのに……そのなにがいけないんですか?」
容赦のない奈菜の言葉が飛ぶ。
「……」
年下の嘘偽りのない言葉を聞いて、教師たちの方が押し黙り、さらにその言葉は続く。
「教育はちゃんとしたほうがいいですよ。教師だからってだけで理由もなく怒ったり、理不尽なやり取りばかりだと今はそれこそ拡散とかしちゃいますからね。私、個人的には先輩たちの味方なので。なかなか他人の為に行動できる人っていないじゃないですか……先生たち出来てます?」
あの泣いていた時が嘘のように、大人相手でも物おじせず自信たっぷりに言葉を紡いでいく様は聞いていて心地いい。
そして、俺たちも連絡するまでは知らなかった一言で奈菜はとどめを刺しに行く。
「ちなみに私の祖父が教育委員会の会長してるらしいんで、何か問題ありそうなら個人的に相談させてもらおうかなって思ってます。高校生同士で旅行に行ってはダメって法律はなかったはずですしね」
「……」
担任も学年主任ももはやぐうの音も出なくなる。
「先輩、こんなことした人許さないでくださいね」
「……お、おう」
とりあえずの処分はなく、今後の様子を見るということで話はまとまった。
両親たちからの奈菜への称賛が凄まじかったことは言うまでもない。
☆☆☆
奈菜は、今夜家に泊まることになった。
両親たちに促され、俺たちも近場のお寿司屋に連れていかれる。
親父たちはカウンター席へ。俺たち4人はテーブル席へ。
そこで奈菜にも明日の作戦を伝える。
「ふぇええ! さすがは先輩と夏希さんすげっ! ていうか、陽さんも凄くないですか! そこまでやります……ウニうまっ」
「こうなった以上、どっちが正しいのか、それで証明するしかないのよ」
「あ、あき君、大丈夫なの……?」
夏希が呼び出された時とは違い、持ち前の小動物ぽい潤んだ瞳で見つめてくる。
「大丈夫……だと思う。これは陽のためでもあるし」
「まっ、お兄ちゃんは心配してない。これまでも夏希のこととなると、全部の無理難題やってきたしね」
「たまには頑張らないとな」
「あき君は頑張ってると思う、よ」
夏希のもぞもぞした姿の誉め言葉に一瞬だが、視線が固まる。
「はいはい、お寿司屋で何してるんだか……」
「先輩、ウニといくらください。代わりに甘いたまごあげますから……あーあ、先輩くらい優しくて思いやってくれる人どこかに居ませんかね?」
じとっーとした陽と奈菜の視線を浴びながらも目の前の高級寿司ネタをいただく。
奈菜が来てくれたことで、陽の曇った心もだいぶ晴れたようで、俺も夏希も自然と笑えるようになる。
そして、作戦決行の日を迎える。
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