第24話 呼び出し

金曜日の授業終わり、俺たちは生徒指導室にいた。

 そろそろ部活も上がる時間で、外はうっすらと薄暗くなり始めている。


 この場にいるのは俺と夏希、俺たちの両親。

 そして担任と学年主任の教師だ。


「お話はお子さんからも伺わっていると思うのですが、もう一度私の方から……」

「いや、それは省こう。俺たちも川瀬さんのご両親もこの子たちが旅行に行くことは許可した。そこに問題はなかったと思っているのだが?」


 自分の父親が少し不機嫌なのを感じる。

 いや、夏希の両親もなんだか食って掛かりそうな雰囲気を察知した。


「一橋さん、彼らはまだ高校生です。未成年というのは承知していると思いますが……」

「ああ、もちろん成人していない子供だが。それが一緒に旅行に行くと何の問題があるのかな? 俺としては息子が満を持して夏希ちゃんとの関係を話してくれて、その上でこの夏に旅行に行きたいと意志を伝えて、許可を、筋を通したことを誇らしくもあり、問題にすることはなにもないと思うが?」

「ですが……」

「言っておくが、うちの息子は無責任なことはしないよ。まだ高校も卒業できる年でもないし……写真を撮られたからと言って、妻子がいるわけもないし、何をそんなに問題視するのか聞きたいね。好きな子と出掛けることがいけないことなのか?」


 反論があるなら聞こう。

 親父は強い目で教師たちを睨みつける。


「学校側には学校側の体裁があるのは理解します。こう言っては何ですが、今どきの高校生にしてはこの2人は子供中の子供なんです。たかだか旅行くらいで何を騒いでいるのかな……っていうのが私たち親の本心です。あき君も夏希も思いやりの塊みたいな子です。むしろ、人を陥れようとする写真を撮った生徒の方を問題視するべきでは?」


 夏希のお母さんも親父と同じで挑発的な目で睨む。


「ちょっといいですか……」


 これではらちが明かないと思い、俺は手を上げ発言権を求める。


「言いたいことがあるなら言ってやれ」

「そうよ。なんか腹立ってきた」


 親父たちに促され、


「はあ、俺たちは別に旅行したことを悪いとは思ってないんです。ただ長い時間久しぶりに夏希と一緒に居られて楽しかったし、また3人でこられればいいなと思って……だけどそれが問題なら停学などの処分は受けます」


 教師たちは形だけでもそんな処分を望んでいるのかもしれない。

 表情にうっすらとほっとした様子が浮かぶ。


「俺たちはいいですよ。だけど妹まで陥れようとした奴を俺は絶対に許さないんで、自分たちの真っ当なやり方で反撃はさせてもらいます」

「犯人わかってるの?」

「まあね……だいたい何かないように一番信頼してる陽についてきてくれるように頼んだんだ」

「わたしたちは妬みや逆恨みで陽ちゃんを傷つけたことを許さない」

「君たち2人だけの話だけでは……」

「それ完全に矛盾してますよ。陰でこそこそ写真撮って、問題にした奴は野放しで俺たちに呼び出しかけている時点でね。どっちが間違ってるかは俺たちで証明してみせるよ」


 そう俺が宣言したタイミングで室内にノックの音が響いた。

 俺と夏希は顔を見合わせ、この押し問答に終止符を打てるかもしれないと安堵して、


「どうぞ」


 と、教師の言葉を待たずに促す。


「……失礼します」


 ゆっくりと入ってきたのは鎌倉旅行で一緒だった松尾奈々だった。

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