第19話 朧月夜

朧月夜   作詞/高野辰之


菜の花畠に 入り日薄れ

見わたす山の端 霞ふかし

春風そよふく 空を見れば

夕月かかりて にほひ淡し


里わの火影ほかげも 森の色も

田中の小路を たどる人も

蛙のなくねも かねの音も

さながら霞める 朧月夜



 ✢✢✢


 

かすみ」は、夜になると「おぼろ」へと呼び名が変わります。

 霞たなびく夕暮れ時、菜の花をほんのりと照らす空。見上げると空にかかる夕方の月。

「にほひ」は古文の世界では視覚を表し「色合い」という意味があります。

 和歌に焚きつけられたお香の匂い。その人の美しさや魅力が内部からあふれて漂う(今でいうフェロモンですね)。源氏物語では内在する美的性的魅力を「にほひ」と表現しています。視覚だけではとられ切れない魅力を、嗅覚が嗅ぎとるのでしょう。


 時間は夜へと流れます。


 朧月夜は三日月だと考えられています。春の三日月は横に寝ころんでいます(秋の三日月は立っています)

 昔の人は春の三日月を盃にたとえて「お酒がよく入る」と月見酒を楽しんだそう。


 匂いや色、音さえ淡くかすむ春の宵。

 どこか懐かしい春のにほひ。



 ✢✢✢



 高野辰之はこの他に「故郷」「紅葉」「春がきた」「春の小川」を作詞しました。

 自然に対する優しいまなざしが感じられて、私の好きな作詞家の一人です。いつか長野県にある記念館に行ってみたいです。

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