第16話 君はかわいいと

君はかわいいと

どうしていっていけないわけがあろう。

ただ言葉は変にいこじでねたみ深く

君とぼくとのなかを

心よからずおもいがちで

君とぼくとのあいだを

ゆききしたがらない。

だから君

ちょっと耳を。

どうだろう

言葉にいっぱい

くわせてやっては。

かわいいという言葉を

君のかわいい口にほおりこみ

君のかわいい唇のうえから

しっかりと封印しよう

ぼくの唇で。

奴めきっと憤然と

君の口のなかで悶死するにちがいない。

言葉の死んだあとに

愛が残るとすれば。

だから君

どうだろう



*****



安水稔和やすみずとしかず。詩集『愛について』より「君はかわいいと」


気持ちそのままに、言葉が出るとは限りませんね。

思っていることと違うことを言ってしまったり、誤解が生じたり、いざというときに何も言えなかったり。

だから、かわいいという言葉を君の口に放り込んで、キスの封印をしてみよう。

言葉が死んだあとに残るのは、愛じゃない?


この詩のおもしろいところは、『だから君 どうだろう』なんて聞いているようで、迫っている!

NOと言えない雰囲気。

むしろ答える前に情熱的なキスをしていると、私は思います!

詩的で強引なキス……いいですね。


安水さんは存命しており、詩の他にもラジオドラマやミュージカル、合唱曲などにも関わっています。

この詩集以後は、日本の深部に触れる旅の詩を書いています。愛が成就すると、意識は深い世界に向けられるのかもしれませんね。





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