第17話 改札口で

小説家であり詩人の吉行理恵さんをご紹介します。


父は吉行エイスケ(詩人・小説家)、母は吉行あぐり(美容師。朝の連続テレビ小説のモデルになりました)、兄は吉行淳之介(小説家)、姉は吉行和子(女優)。

母・兄・姉がメディアの露出度が多かったこともあり、理恵さんは目立たない存在でした。


私が理恵さんの文章にはじめて触れたのは、高校生のとき。随筆で「上級生が近寄ってきて、お姉さんは綺麗なのにあなたはたいしたことないのね。と言って去って行った」という文章に、心が寂しくなったことを覚えています。



✤✤✤✤✤



目の前は真白です

それというのも 貧血を

わたしが起こしていることに

誰も気づいてくれないから


まして倒れてしまうなんて

私には出来ません

人のお世話になることが なんとなく

きらいだから


       『きっかけ』抜粋



✤✤✤✤✤



理恵さんも綺麗な人なのです。

『小さな貴婦人』という小説で芥川賞を受賞しましたし、才能のある方です。(ちなみに選考委員のひとりに兄がいた)


華やかでエネルギッシュな人が家族にいると、人々の目はそちらに向きがちですね。影に隠れてしまいがちな人の苦しみ、寂しさ、無力感は当人しか分からないでしょう。

恵まれている。けれど喜べない。不安定な心をもて余しながら文字にする。


『改札口で』という詩をご紹介します。

行きたい未来に、どのように進んでいったらいいのか分からない。明るい未来に自分は場違いな気がする。途方に暮れてしまった感がでているように思います。



✤✤✤✤✤



薄暗い改札口に

私はしゃがんでしまいました


なんとなくかさばった

紙袋をかかえこんで


どこまでも空は 澄んでて

豆の花の咲き乱れている

子羊のいる場所ところ

私は出かけるつもりでした


黄色い服を着てしまいました

つばの広い帽子をかぶって


ふいに 切符の買い方が

わからなくなってしまったから


薄暗い改札口に

私はしゃがんでしまいました


発車 電鈴ベルの鳴響いてるのを

聞かないわけではなかったけれど……




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