第12話 大鎌
レイ・ブラッドベリ著『10月はたそがれの国』より「大鎌」を取り上げます。ネタバレあり。
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貧しい農夫一家が偶然たどり着いた家。
家の中には死んでいる老人と大鎌。大鎌には字がきざまれています。
《われを支配する者は──この世を支配する!》
豊かな麦畑。ありえない特長をもつ麦に、男は麦を刈るのをやめます。
けれど、恐ろしいほどの欲求が麦を刈るよう誘う。男は麦を刈るのをやめることができない。
大鎌をふりあげ、ふしおろし、横になぎ、またふりあげ、ふりおろし、横に払う。ふりあげ、ふりおろす。
そして知った驚愕の真実。
自分が刈っているのは、人間の生命。
麦は叫ぶ。──刈るのをやめて。殺さないで。
男は、愛する妻と子供たちの麦を見つける。愛する妻と子供たちを守る。刈らなければ、家族を永遠に生かすことができる。
男は叫んだ。
「これ以上、殺したくない。家族を殺すまねを、おれにさせるな!」
運命の定めた死の時刻。死を伸ばした先にあるのは、死んだでもなく、生きているわけでもない中途半端な状態。世界中の何千という人々が、死を待っている。
それは男の家族も同じだった。
妻と子供の麦を刈り、家族を殺さざるをえなかった男。
男は狂ったように大鎌をふるう。右左右左、くりかえし、くりかえし、笑いながら刃をふりおろす。世界に爆弾が落ち、溶鉱炉が火災に包まれ、キノコ雲があがる。
男はもうこの世のことなど考えない。青々としている収穫の早い麦でさえ刈りつづける。
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絶望とはこのことをいうのでしょう。救いのない終わりかた。なのに読み終わったあとに心に残るのは、恐怖でも不愉快でも嘆きでもない。悲しみでさえない。
10月はたそがれの国──輪郭がおぼろげになり、世界があやふやになる。現実と幻想、生者と死者、人間と物の怪が入り混じる。
大鎌をふるう男が、この世界のどこかにいるような気になります。
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