大鎌

 私に影響を与えた本はいくつかあるのですが、レイ・ブラッドベリ著『10月はたそがれの国』もその一冊。19の短編が収録されています。

 その短編の中から今回は「大鎌」を取りあげます。

 

 ネタバレありです。ご注意ください。



*****



 貧しい農夫一家が偶然たどり着いた家。

 家の中には、死んでいる老人と大鎌がありました。大鎌には、字がきざまれています。


《われを支配する者は──この世を支配する!》


 この家の持ち主である老人は死んだ。それならば、自分たちがここに住もう。

 農夫一家(男、妻、男の子と女の子)は喜びました。


 男は、豊かな麦畑を大鎌で刈ります。

 大鎌をふりあげ、ふしおろし、横になぎ、またふりあげ、ふりおろし、横に払う。ふりあげ、ふりおろす。

 そして知った驚愕の真実。


 自分が刈っているのは、人間の生命。

 麦は叫ぶ。──刈るのをやめて。殺さないで。


 男は、麦を刈るのをやめた。

 しかし、恐ろしいほどの欲求が麦を刈るよう誘う。男の指が大鎌を持ちたがる。

 男は屈して、麦を刈った。


 そうして見つけたものは、愛する妻と子供たちの麦。


 男は決心した。

 愛する妻と子供たちを守ろう。刈らなければ、いいのだ。そうすれば、家族を永遠に生かすことができる。


 男は今度こそ、麦を刈るのをやめた。

 だが家が火事になり、家族は深い眠りに入った。死んでいない。だが、生きてもいない。

 死ぬときを待っている、目覚めることのない家族。 


 世界中の何千という人々が、死を待っているのだ。


 男は狂ったように大鎌をふるった。妻と子供の麦を刈った。収穫には早い青い麦さえ、刈った。

 世界に爆弾が落ち、溶鉱炉が火災に包まれ、キノコ雲があがる。



*****



10月はたそがれの国。

輪郭がおぼろげになり、世界があやふやになる。現実と幻想、生者と死者、人間と物の怪が入り混じる。

大鎌をふるう男がこの世界のどこかにおり、私たちは刈られるときを待っているのかもしれない。




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