第9話 恋ひ渡る

ひ渡る」という古語があります。

長い年月のあいだ、あなたをずっとい慕いつづけている──という意味です。


英国の詩人アアネスト・ダウスン/矢野峯人訳の『今やわれ心やさしきシナラの下に在りし日のわれにはあらず』という詩歌が好きです。

北村薫さんの「詩歌の待ち伏せ」という書籍で、ダウスンの詩を知りました。

北村さんは「矢野峯人訳があったからこそ、多くの人の胸に強く残ってきたのでしょう」と書いています。名訳の力ですね。


最後の数行だけ載せます。



****



われは昔の恋ゆゑに

こころなやみてうらぶれつ、

ただいろあかき唇を

恋ふるこころぞつのるなれ。

われはわれとてひとすじに

恋ひわたりたる君なれば、

            あはれシナラよ。



****



交わした接吻くちづけ

私の胸のに伝わった、君の動悸

薔薇さうび

紅きくち

一夜ひとよの夢



あなたに向かうひとすじの恋。

恋の思い出は哀しい熱となり、今もこの胸に残る。

昔の恋に胸がいたむ。けれど、こころはさびることがない。

色あかき唇につのる、恋ごころ。

ただひとすじにあなたを、ひ慕いつづける。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る