第8話 それは

それは/黒田三郎


それは

信仰深いあなたのお父様を

絶望の谷につき落とした

それは

あなたを自慢の種にしていた友達を

滑稽こっけいな怒りの虫にしてしまった


それは

あなたの隣人達の退屈なおしゃべりに

新しいわらいの渦をまきおこした

それは善行と無智をつんだひとびとに

しかめっ面の競演をさせた


何というざわめきが

あなたをつつんでしまったろう

とある夕

木立をぬける風のように

何があなたを

僕の腕のなかにつれてきたのか



*****



相手がどんな女性であるのか、具体的に書いていません。それでも読み手は、彼女の意思の強さや決断、周囲の人々に理解されない悲しみまで読み取ることができます。

男性は受け身であり、戸惑っているらしい。『善行と無智をつんだひとびと』との言葉は、彼女の悲壮なまでの想いや、私達を繋ぐものが何かあなた達には理解できないでしょう、と語っているようです。

彼女の行動は、男性には不本意であったかもしれない。それでも、彼女の存在に心惹かれている男性の気持ちが伝わってきます。


言葉を尽くさない。だからこそ想像の世界が広がり、物語が生まれる。

いい詩ですね。


黒田三郎さんの詩のご紹介は今回で終わります。お読みいただき、ありがとうございました。




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