それがとても不思議だった(小説)

 オレは五年生で一番の嫌われ者。

 騒いで授業を妨害する。忘れ物ばかり。宿題をしてこない。口が悪い。人に嫌がらせをして楽しむ。

 ひねくれもので、乱暴者。


 お金やモノが失くなれば、オレが疑われる。

 そしてそのたびに、石川というお節介女がしゃしゃり出てくる。


「村井くんが盗ったところを見た人はいるの? 決めつけるのはよくないよ」


 さらには、担任にまでお節介なことを言う。


「村井くんを悪者扱いするのは止めてください」


 石川は頭がおかしい。オレを褒める。


「村井くんは乱暴な言葉をたくさん知っていて、すごいね」


 そうするとオレは、乱暴な言葉が言えなくなる。

 それがとても不思議だった。



 ある日。インフルエンザにかかって、学校を休んだ。

 母は友達とカラオケに出かけ、父はお気に入りの女に会うために飲み屋に行った。

 日が傾き、薄暗くなる部屋。

 一人の部屋で、オレは泣いた。


 すると、石川が宿題のプリントを持って家にやってきた。

 バカじゃないか。持ってこられても、宿題なんかするわけがないのに。


 オレは石川が持ってきてくれたみかんを食べながら、黙って話を聞いた。

 石川は、転校するのだと話した。転校先は県内だけれど、ここからは百キロほど距離がある。


「村井くん。○✕高校で再会しようね」


 石川は相当に頭がおかしい。県内有数の進学校になんて、オレが入れるわけないのに。



 冬休み明け。石川は、本当に転校していった。下駄箱に『高校で会おうね』とメモが入っていた。

 オレは職員室に行き、担任に勉強を教えて欲しいと頼んだ。

 職員室は鳥の巣をつついたような騒ぎ。オレのせいで鬱になり、病院通いをしたという去年の担任教諭は「明日は絶対に雪が降る」と騒いだ。

 ひねくれ者のオレは「やっぱり勉強やめる」と言いたくなった。けれど、拳を握ってグッと耐える。


 そんな自分が、とても不思議だった。
















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