第6話 それがとても不思議だった(創作)

オレは五年生で一番の嫌われもの。

騒いで授業を妨害する。机の上に教科書を出さない。口が悪い。嫌がらせをする。ひねくれもので乱暴者。

そういうわけでお金やモノが失くなれば、オレが一番に疑われる。

そしてそのたびに、石川というお節介な女がしゃしゃり出てくる。


「村井くんが盗ったところを見た人はいるの? 決めつけるのはよくないよ」

「先生。一方的に村井くんを悪者扱いするのは止めてください」


さらにはオレを誉める。


「村井くんは乱暴な言葉をたくさん知っていて、すごいね」


石川は頭がおかしい。いつどんなときでもオレの味方をする。

それがとても不思議だった。



インフルエンザにかかり、学校を休んだ。

母は仲間とカラオケに出かけ、父はお気に入りの女に会うために飲み屋に行った。

日が傾き、薄暗くなる部屋。なぜか泣きたくなる。

石川が宿題のプリントを持って、家にやってきた。熱冷ましシートを交換してくれる。


「なんで優しくするの? オレのこと好きなの?」

「乱暴者で頭の悪い人は好きじゃない。……私、もうすぐ転校するんだ」


教えてくれた転校先は同じ県内だけれど、ここからは百キロほど距離がある。


「村井くん。○✕高校で再会しようね」


石川は本当に頭がおかしい。かけ算で引っかかったオレが、県内有数の進学校になんて入れるわけがない。


数日後。石川は転校していった。

下駄箱に『高校で会おうね』とメモが入っていた。

オレは職員室に行き、担任に勉強を教えて欲しいと頼む。職員室は鳥の巣をつついたような騒ぎになった。オレのせいで鬱になり、病院通いをしたという去年の担任教諭は「明日は絶対に雪が降る」と騒いだ。

ひねくれ者のオレは「やっぱり勉強やめた」と言いたい。けれど拳を握ってグッと耐える。

遅れを取り戻すのは容易なことじゃない。脳が沸騰して教科書を投げたくなる。それでも繰り返し、問題を解き続ける。


石川に会って、好きでもないのになんで優しくしてくれたのか理由を聞きたい。そのために勉強をする。


自分がとても不思議だった。
















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