第13話 みずうみ

叙情詩人と名高いレイ・ブラッドベリ。

彼が書いた『10月はたそがれの国』には、19の短編が収録されています。怪異と幻想と夢魔が息づく世界へのいざない。

自分好みの作品がきっと見つかるはず。


私の一番好きな作品「みずうみ」をご紹介します。繊細で透明な世界観に、流れるような文章。美しい作品です。


『波がぼくを、この世から、空とぶ鳥から、砂浜に遊ぶ子供たちから、岸辺に立つぼくの母から切りはなした。やがてまた、波はぼくをかえしてよこした』


始まりの文章って悩みますよね。みずうみの冒頭は、幻想的な世界の始まりを予感させてくれます。静かであり、どこか物寂しい。

また初恋の描写も素敵です。


『ぼくはまだ、十二だったが、彼女への恋を

知っていた。肉とモラルが、意味をもちはじめる以前の恋。横たわっている風と水と砂とおなじに、永遠に汚れを知らぬ恋。ものういばかりにしずかな日の、ねむけをもよおす授業のあいだと、あたたかい夏の日を、なぎさでいっしょに遊ぶことで育ててあげた恋』


難しい言葉を使っていないのに気づきましたか?

小学校高学年の子が読んでも意味が分かる。

頭を悩ませる単語も、首をひねる表現方法もない。小難しい言い回しや、感覚だけに頼った比喩もない。

読者に余計な思考エネルギーを使わせないからこそ、イマジネーションが働く。

浜辺や波、空とぶ鳥。あたたかい日差し。なぎさで遊ぶ二人を想像し、初々しく柔らかな恋の感覚が、読者の胸のなかにうまれる。

そしてなにより、リズムが心地よい。


ことばの組み合わせで世界が広がる。

感性にことばの光が当たる。

読んだあとに残るのは、感覚と想像。












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