第11話 贖罪

昔『ベニスで恋して』というイタリア映画を劇場で観た。

感動した私はその後、DVDを借りた。

──なんか違う。面白くない。

違和感は最後に分かった。


主人公の女性は聞く。

「なぜここに来たの?」

男は答える。

「愛のために」


ブッブー! はずれです。

劇場の訳では男は「愛ゆえに」と答えた。

男は礼儀正しく堅苦しい。女性に笑われても、言葉を緩められなかった男なのだ。


愛のために。

愛ゆえに。


ちょっとした違い。でも言葉が積もり積もって、その世界の空気を作る。



『私と村』というシャガールの絵が好き。

幻想的であり不健康。生が死に応え、非論理的な世界と想像力が一枚の絵画の中にある。

昔買った本に、私と村の絵画の隣ページに美しい言葉が載っていた。繊細な詩的表現に再会したくて、シャガールの『わが回想』を借りてきた。


なんか違うんです!

ネットで調べたら、やはり若干違っていた。

皆さんは、どちらがお好み?


──私はすべてをゆるした。皮は乾けばきよらかになり、やさしい祈りを唱え、殺害者たちの贖罪しょくざいを天に祈っていた。


──私はすべてをゆるした。皮は聖なるもののように乾いて、優しい祈りとなり、殺害者たちの贖罪しょくざいを天に祈った。


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