優しいだけじゃ助けられない

 彼に出会ったのは、指圧の勉強会。

 彼は病気になったウサギを介護するために、仕事を辞めた。ウサギのために、指圧の勉強に参加した。

 勉強会に参加した理由を、「ウサギのために……」と話した彼に、私も含めみんな、ポカーンとした顔をした。 

 みんなにとってはたかがウサギだけれど、彼にとっては大切な家族。


 その後。ウサギが亡くなり、彼は人を助けたくて、中東に行った。

 日本に帰ってきたのに、彼は勉強会に戻ってこなかった。


 彼と一緒に行った人が言うには、自分の世界に閉じこもってしまい、話しかけてもダメだったそう。


 多分彼は、無力感に囚われてしまったのかもしれない。


 何もできない自分。

 助けられない自分。

 足りない自分。

 自分には価値がない。


 私は優しいだけでは人を助けられないと思っていて、たとえるなら、

 穴に落ちて泣いている人を助けるために、自分も穴に落ちて、大丈夫だよと慰める。そばにはいてあげられるけれど、二人揃って、穴の底から空を見上げるようなもの。

 穴に落ちている人を引っ張り上げる「強さ」がないと、助けられない。 


 優しさを支えるのは、強さ。

 そのためには、何があっても自分を信じ、目的を見失わない強い心が必要ではないかと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る