ミッシングAtoZ

澄岡京樹

第53話「AtoZを越えた先」


【前回までのあらすじ】

 世界中に散らばったA〜Zのイニシャルを冠する怪物を討伐したイロハたち。それぞれの残滓たる〈イニシャル・エムブレム〉を二十六種類揃え、専用ケースにセットした。これにより世界の秩序は元に戻ると思われたのだが——?



第五十三話「AtoZを越えた先」




「クソッ! どうなってんだ! 何も起きねぇじゃねえか!」


 ルオが困惑と怒りの混ざる声音と共に、壁へ拳を叩きつけた。普段から怒りっぽいルオだが、今日は特に激昂している。だが無理もない、イニシャル・エムブレムをセットしたにも関わらず、何も起こらないからだ。


「まぁまぁ、落ち着いてください。今ボクが計算をしていますから」

「これが落ち着いていられる状況かよアサヒッ!」


 頭脳派のアサヒが眼鏡をクイっとしながら話しかけるも、ルオの怒りは治らない。……これは困ったと、イロハオレも感じていた。困ったので所在なく眺めていた部屋の壁から、とりあえずエムブレムの納められたケースに視線を移した。……すると、あることに気がついた。


「ルオ、アサヒ。オレたちが今回手に入れたエムブレムって、〈Z〉だよな」

「ああそうだぜッ!」

「ええ、そうなりますね」

「いやさ、今オレが見ている位置からだとよ、

「それがなんだってんだよッ」

「む、イロハさん、続けてください」


 ルオを制止しつつアサヒがオレに話の続きを促した。


「ああ。……つまりな、オレの位置からだと〈N〉と〈Z〉が九十度回転して見えるわけだ。二人もこっちから見てみてくれ」

「ハァ?」

「ふむ」

 オレの位置からケースを見る二人。……徐々に二人の表情が驚愕のそれに変わっていくのが見てとれた。


「こっ、こいつァ! NZ……ZNだとォ!?」

「これは……発想の転換……ッ!」


 二人がひとしきり驚いたのを見てから、オレはその二つのエムブレムを手に取り、


「だからオレはこう思ったんだよ。……この二つ、実は場所が逆なんじゃね? ……ってな」


 そして二つの収納位置を入れ替えた。


 すると、ケースは正しい位置を認識して光り輝く——————


 ——————ことはなかった。アレ?


「オイオイ、なんも起きねーじゃねーかよ」

「アレ〜〜? おっかしいなぁ」


 などとオレとルオがウンウン唸っていると、突如アサヒのメガネがキラーンと輝いた。アサヒは閃くとメガネがメッチャ光り輝くのだ。


「……わかりました。というかヤベーことに気づきました。皆さん、〈I〉のエムブレムを見てみてください」


 神妙な顔つきで話すアサヒが指差す先——〈I〉のエムブレムをオレとルオは見る。すると、恐ろしい事実に気づいてしまった。


「「こっこれはッ! Ilッ! L……ッッ!!」」


 オレたちは今気づいた。これは大文字だけの話ではなかったのだと。実はこれは


「じゃあこれ……〈Z〉もよく見ると気持ち小さめだから……小文字の〈z〉ってコト……!?」

「ウッソだろオイ……」

「信じ難いですが……その可能性が高いと言えるでしょう……」


 衝撃が衝撃を呼ぶ怒涛の展開。後に知ったことだが、オレたちの冒険は一次元上の世界で放送されておりそれが大人気だったらしく、急遽小文字のエムブレム設定が追加され二クール分冒険が延長されたのだという。


「や、やるしかなさそうだな二人とも」

「オッシャァ……なんとか気合を入れ直すぜ……」

「や、やりましょう……やり遂げましょう、二人ともッ!」


 こうして、なんやかんやでオレたちの冒険は第二シーズンに続くのであった——





ミッシングAtoZ 1stシーズン、了。

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ミッシングAtoZ 澄岡京樹 @TapiokanotC

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