45 シーフ アイビー姫~その➆

それからわたしが目を覚ますとベットの上にいました。


ここはどこかの宿でしょうか。


見知らぬ木造の部屋に、他にも三つのベットが見えます。


傍には寝ているわたしにしがみついているチュチュの姿がありました。


彼女はスヤスヤと寝息をたてています。


わたしはリエイターを始末した後のことを訊ねたかったのですが。


チュチュがあまりにも気持ちよさそうに眠っていたので、声をかけるのをやめました。


彼女を起こさないように身体を動かすと、まるで骨が鉛にでもなってしまったのかのように重かったです。


どうやら異能を酷使し過ぎたのでしょう。


わたしの異能――甦りオールリターンは、人間をひとり復元させるだけで相当な疲労なのです。


それを同時に四人と一匹も復元させたので、身体への負担がまだ回復していないことは、少し考えればわかることでした。


「目が覚めたようだな」


部屋の扉が開くと、そこにはあの姫騎士――アザレア·アストレージャが立っていました。


彼女はわたしが訊ねる前に儀式の後こと――リエイターの首を切り落とした後のことを話してくれました。


どうやら彼女の話では、わたしはここ数日の間ずっと眠っていたようでした。


さらに高熱が出て、身体は衰弱し、このまま死んでしまうかと思ったと、アザレアは安心した様子で言います。


「チュチュやブルーベルは、お前のことが心配であまり寝れていなかったぞ。まあ、私は心配などしてはいなかったがな」


それを聞いたわたしは、やはり自分の異能は負担が大きいことを改めて悟らされます。


「魔女たちのほうからなにか動きはありましたか?」


「心配するな。あれからこの小屋に着いてからはなにもない。一応交代で見張りを立てているがな。今はサイネリアとブルーベル、そしてあの青いウサギ、スプリングが周辺を見てる」


わたしが眠っている間に――。


他の姫たちはうまくやっているようでした。


正直にそれが一番心配していたことだったので、わたしはホッと胸をなでおろします。


それからもアザレアは言葉を続けました。


ブルーベルの姉が元気なったこと(スプリングが飛んで見に行ったようです)。


何度か姫同士で陰険な雰囲気にはなったが、チュチュのおかげで皆がまとまって来れたこと。


「さすがに騙し合い殺し合った仲だからな。いきなり仲良くとはいかなかったが、あの自称勇者が仕切ってくれたよ。とりあえずでいい、アイビーが目覚めるまでは協力してほしいとな。あの小娘、武器を持って睨み合いをしている連中に向かっていったんだぞ。まったくもって空気が読めない勇者である」


アザレアはそのときの様子を笑いながら話してくれました。


どうやらチュチュが皆に頼んでくれたおかげで、わたしはこうやって無事に目を覚ますことができたようです。


それから、アザレアの表情が急に曇りました。


わたしが気になって訊ねると彼女は言います。


「リエイターは生きている……」


アザレアはたしかにリエイターの首を切り落としました。


わたしのその瞬間は見ています。


しかし、わたしが気を失った後――。


リエイターは首だけの状態で喋り出し、そのまま消えていったそうです。


「そうですか……。さすがは魔女……といったところですね」


「ああ……我々の想像を遥かに超える。それで、これからことなんだが……」


アザレアが何かを言おうとしたとき――。


チュチュが身体を起こしてわたしに抱きついてきました。


「アイビー!? よかった、ホントよかった! 元気になったんだね!」


チュチュはそう大声を出すと、ベットから飛び降りて小屋の外へと向かいます。


そして、また大声を出してサイネリア、ブルーベル、スプリングへわたしが意識を取り戻したことを伝えていました。


そんな彼女を見てアザレアは頭を抱えていましたが、わたしは笑ってしまいました。


なぜならば、そこには紛れもないチュチュがいると思ったからです。


そうです。


いつもの落ち着きのない彼女が――。


「アイビー! 起きたのですね! ベルは……ベルはぁ……」


ブルーベルが小屋と入って来ます。


彼女の目は少しうるんでいました。


スプリングも嬉しそうにその場でピョンピョン跳ねています。


「おやおや、お目覚めかい? 盗賊姫さん」


続いてサイネリアが小屋へと入って来ました。


彼女は相も変わらずの飄々とした態度でしたが、以前のような他人に圧力をかけるような雰囲気は消えていました。


彼女もブルーベルやスプリングと同じく、わたしが目覚めたことを喜んでいてくれているようです。


「よ~し! じゃあアイビーが目覚めた記念にパーティーだ!」


「おい!? なにをふざけたことをいっているんだ!? いつ魔女が襲ってくるかわからないんだぞ! こういうときはこそ気持ちを引き締めなければ」


「へーきへーき、大丈夫だよ。魔女たちだって今だけは襲って来ないよ」


「なんでお前にそんなことがわかるんだ?」


「だってあたし勇者だもん」


チュチュのお決まりの台詞に――。


アザレアは肩を落とし、サイネリアはクククと笑っています。


ブルーベルははしゃいでいるスプリングを抱いて微笑み、そしてわたしもつい笑みがこぼれてしまいました。


わたしは皆と笑い合いながら思います。


魔女たちによって、わたしたちは自分のことしか考えられない状況へと追い込まれました。


そして、騙し合い、殺し合いをしたんです。


しかし、今はこうやって互いにしたことを水に流し、笑い合えています。


いえ、そうしなければ生き残れないのです。


これからも様々な困難がわたしたちを襲うでしょう。


ですが、互いに手を取り合えさえすれば、乗り越えられないことなどないのです。


「それじゃあ、アイビーが元気なったことにみんなでかんぱ~い!」


チュチュがいつの間にか皆へ、水の入った杯を渡していました。


それからわたしたちは杯を重ね合います。


今後の魔女たちの戦いに備えるためにも。


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