44 シーフ アイビー姫~その⑥

わたしがこの儀式で、馬鹿のひとつ覚えのように協力をしてほしいと言い続けたのは、彼女たちに信頼してもらうためです。


最初はアザレアでした。


彼女はブルーベルの罠に掛かると、自暴自棄になってわたしに襲い掛かって来ました。


しかし、異能によってチュチュを生き返らせ、なんとかアザレアを倒すことに成功したのです。


わたしは死にかけていた彼女にささやきました。


「わたしはこの儀式の後、魔女たちを皆殺しにするつもりです。そのときはあなたの力を貸してください」


――と。


次にブルーベルです。


彼女はわたしに、自分の姉にかけられた呪いを解いてほしいと言い、死にかけていました。


そんなブルーベルの耳元で、わたしはささやきました。


「わたしはこの儀式の後、魔女たちを皆殺しにするつもりです。もちろん、あなたとの約束は必ず守ります。だからこの儀式が終わったら、あなたの力を貸してください」


――と伝えました。


最後はサイネリアでした。


正直にいうと、彼女の力を借りるのは難しいとわたしは考えていました。


しかし、幸運にも爆発した後、サイネリアはまだ生きていたのです。


わたしは辛うじて息があった彼女へ伝えました。


「あなたが生きていてくれてよかった……。こうやって話ができるのはきっと運命ですね。お願いしますサイネリア。わたしに力を貸してください」


そういった後に――。


わたしはこの儀式の後、魔女たちを皆殺しにするつもりだと言葉を続けました。


「彼女たちの答えをわたしは聞いていません。ですが、この状況を見ればわかってもらえるでしょう。わたしは……いえ、“わたしたちは”、あなたたち魔女の思い通りにはならなかったということが」


話を聞いたリエイターは完全に言葉を失っていました。


これまで私以外にも魔女に反抗した者はいたでしょうが。


まさか儀式に参加した姫たち全員を相手にすることになるとは、考えていなかったのでしょう。


そのせいか、戦意損失したリエイターには、もう抵抗する意思すらなくなっています。


わたしはリエイターを異能で操っているサイネリアへ頼みました。


あなたの力で、魔女がブルーベルの姉にかけた呪いを解くように命令してほしいと。


サイネリアにニッコリと笑みを浮かべると、リエイターに指示を出し、わたしの頼みを実行させました。


たとえこの場にいなくとも、呪いを解けることは先ほどリエイター本人から聞いています。


これでブルーベルとの約束は守れました。


「こ、これでねえねは……助かるのですねぇ……」


構えていたブルーベルが、その手をから弓矢を手放して泣いています。


チュチュに抱かれていたスプリングが彼女の腕をするりと抜け、そんなブルーベルのもとへ向かって行きました。


そしてスプリングは、地面に両膝をついて涙を流す彼女に、自分の体をこすりつけています。


アザレアも剣を収め、そんなブルーベルのことを見ていました。


サイネリアはなぜか呆れた顔をして笑っています。


まるで緊張の糸が切れたように、皆の雰囲気がゆるんでいきました。


「お見事、アイビー姫」


しかし、突然喋り始めたリエイターのせいで再び空気が張り詰めます。


それでも彼女はすでにサイネリアの異能によって操り人形になっている状態。


今さらなにもできないのです。


「ですが、ひとつだけ忠告させてもらいます」


リエイターはわたしたちのこれからのことを話し始めました。


この烙印の儀式の様子は、この世界入るすべての魔女たちに見られている。


だから、先ほどわたしがいった、“魔女たちを皆殺しにする”という話は聞かれている。


そのため、今後は眠る暇が無くなるほどの困難がわたしたちを襲うだろうと。


そのときのリエイターは、最初にわたしたちと出会ったときの余裕の顔へと戻っていました。


「ふん、ならばこちらから攻め込むまでだ。おいサイネリア。こいつに魔女たちのいる場所を吐かせろ」


「はいよ~、姫騎士殿」


アザレアがなにか情報を聞き出そうとサイネリアに言いましたが。


どうやらリエイターはなにも知らないようでした。


サイネリアになにを言われても答えないのが、その証拠でした。


操り人形になっているリエイターが答えないということは、文字通り、質問の答えを知らないということに他ならないのですから。


「ねえ、もうこいつは殺しちゃってもいいんじゃないかな~」


「私もサイネリアに賛成である」


「ベルも……ですぅ」


そして、わたしがコクッと頷くと――。


アザレアが剣を構え、リエイターの首を切り落としました。


リエイターは最後まで笑っていました。


さらにこんなことを――。


「愚かな姫君たちに、幸あれ……」


わたしにはそれが気がかりでした。


ですが、もう意識が保っていられず、そこから気を失ってしまいました。

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