43 シーフ アイビー姫~その➄

わたしとリエイターの間で、五つの物体が次第にその姿を現し始めました。


リエイターはわたしがなにをしようとしているのかがわからず、ただ困惑しています。


出会ったときから常に余裕の顔をしていた彼女とは思えぬ表情です。


「この場で異能とは……? アイビー姫! あなたをいったいなにを!?」


わたしの異能は甦りオールリターン


破壊されたものを復元する能力です。


だが発動には条件がいくつかあります。


·対象が破壊された瞬間を直接見ること。

·対象がどのようなものか知ること(本人が知らないものは元に戻せない)。


人間や動物などの生きているものも再生可能ですが。


情報量が多い分わたしの体力は削られてしまいます。


そして、この異能はけして戦い向きではない。


そんなことはわたし自身が一番よくわかっていました。


ですが、わたしはこうも思いました。


この異能があれば魔女たちを出し抜けると。


「先ほどの質問の答えを言います。わたしはこの儀式の後に、あなたたち魔女たちと戦うつもりです」


わたしがそういうと、五つの物体はその姿を現しました。


剣を持った長身の女性――アザレア·アストレージャ。


弓矢を背負った小柄少女――ブルーベル·トイデス。


ブルーベルの友人である青いウサギ――スプリング。


自らを勇者だという大剣を振り回す少女――チュチュ。


そして、顔が隠れるほど長い髪をした女性――サイネリア。


四人と一匹がわたしたちの前にその姿を現しました。


「こ、これは……どういう……?」


リエイターは驚愕していましたが、すぐにわたしの意図に気が付いたようでした。


身構え、わたしたちへの対処を考えているようです。


そんな彼女へブルーベルが弓矢を構えます。


そしてブルーベルの行動に合わせ、スプリングも今にも炎を吐こうとしていました。


「たとえ空へ逃げようともベルが打ち落とします」


リエイターへ力強くブルーベルが言いました。


彼女はやはり自分のすべきことをしているときは頼もしい存在です。


スプリングも続いて唸ります。


この青いウサギさんが今の状況を理解しているとは思いませんが、ブルーベルの敵はスプリング敵なのでしょう。


「たしかに、空は無理そうですね。それならば」


リエイターはそういうと手を地面にかざして魔方陣を出現させました。


おそらくわたしたちをここへ連れてきた転移魔法を使用して逃げるつもりなのでしょう。


ですが――。


リエイターが呪文を唱えるよりも早く、彼女を捉えられる人物がこの場にはいます。


その人物とは――。


「動くな。少しでも怪しい真似をしたら、その首を叩き落とすのである」


いつの間にかリエイターの首には剣が突きつけられていました。


そうです。


姫騎士アザレアです。


わたしは彼女の異能がどんなものかを、はっきりと聞いたわけではないですが。


アザレアと戦ったときにひとつ理解していたことがあります。


それは、彼女がまるで時間でも止めたかのように素早く動いたことです。


そんな力を持つアザレアが、相手に転移魔法を使わす時間を与えるはずがありません。


「あなた今、自分のこと嫌いになったでしょ?」


表情を歪めたリエイターにサイネリアが訊ねました。


それからサイネリアが笑うと彼女の異能――自己否定ネガティブクリープが発動。


自己否定ネガティブクリープとは、対象がサイネリアの言葉を聞き、自分のことを否定するとその動きを操られてしまう力です。


これでリエイターは彼女の操り人形になりました。


きっとこの状況を予想できなかった自分へ腹でも立てたのでしょう。


そんな心の隙をサイネリアに突かれたのです。


サイネリアの姿を見たアザレアとブルーベルは少々驚いていましたが、


構えていた剣や弓矢はそのまま向けていました。


しかしスプリングはサイネリアに警戒しているようで、チュチュがそんなスプリングをなだめています。


「まさかアイビー姫……あなたは最初からこれを狙っていたのですか!?」


サイネリアは興味本位からか、リエイターに言葉を話す自由を与えていました。


リエイターは身動き一つできずに、ただ喋り続けます。


こんなことはあり得ない。


なぜ他の姫たちがわたし――アイビー姫に協力するのだ。


騙し合い殺し合いをしていた連中がどうして手を取り合っているのだと。


リエイターは唯一動かせる口を使い、自身の不満と疑問を喚き散らしています。


もはやそこには、わたしたちが知っている紳士然とした魔女はいませんでした。


そしてわたしはそんなリエイターへ、どうやってこの状況を作ったかを説明し始めました。

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