42 シーフ アイビー姫~その④
リエイターは再び訊ねて来ます。
わたしが終始他の姫たちに提案していた協力路線の意図とその目的とはなにかと。
そのままの意味であると、わたしはリエイターへ答えました。
すると、彼女は少し困った顔をしてわたしの顔を見てきます。
「そのままの意味……ですか? はて、あのような状況で協力を求めるなど、果たして意味があるのでしょうか?」
「あのような状況とは?」
「それは人間の本性が剥き出しなっている状態のことですよ。アイビー姫は直に体験しているでしょう」
リエイターがいう状況とは――。
自分の命がかかった状態――。
または失いたくないもののためならば、人は誰でもその醜い心を開放する状況と言いました。
なりふりなど構っていられない。
騙さねば――。
殺さねば――。
そのこそ人間が持つ生来の邪悪さなのだと。
意気揚々と手を広げて大声をあげます。
その姿は、彼女の恰好――シルクハットや燕尾服のせいでしょうか。
さながら舞台俳優のようでした。
リエイターはそう言いましたが、わたしは思うのです。
追い詰められたときや極限状態時での行動など、その人間の本性ではないと。
誰でも死にたくはありません。
それは、命ある者ならば当たり前ことです。
何をしてでも生きたいと思うのが当然なんです。
それなのに、生死がかかったときこそ人間の持つ邪悪さが出るなどおかしい。
わたしが思う人の本性とは、生活の中で何気なく出るものだと思うのです。
たとえば馬に乗っているときや不意な出来事に遭遇したとき。
その人の物の扱い方、さらに友人や恋人が困っているときなどです。
危機的状況などで他人よりも自分を優先してしまうのは,、生物としての本能。
だからわたしは、リエイターのいう言葉に同意できないのです。
「納得できませんかアイビー姫? それはおかしいですね。助けようとしたアザレア姫に襲われ、ブルーベル姫には騙され、そのうえサイネリア姫には拒まれた。そんなあなたが人間の持つの邪悪さを理解できないとは」
「ええ、できません」
わたしが力強く答えると、リエイターはため息をつきます。
そして被っていたシルクハットに手をかけると、少し興奮し過ぎたといって笑みを浮かべました。
「いやはやしかし、これ以上会話を続けても話は平行線ですね。烙印の儀式を勝ち残ったというのに。そこまで人の善性を信じられるとは、実に興味深い」
「その言い方だと、やはり自分たちは正しい、わたしが間違っているとでも言いたそうですね」
「とんでもございません。ただなにぶん、アイビー姫のような考え方をするお人とは初めて会いましたもので、いささか口がすべってしまいました。何度も謝罪をするのは失礼と思いますが、再度謝らせてください」
そういったリエイターは、手にかけたシルクハットで取ってその頭を下げました。
もうすっかり見慣れた姿です。
「では、最後の質問です。アイビー姫。あなたは今後、どうするおつもりなのでしょう?」
おそらくですが。
この質問は、今まで儀式を勝ち残った姫に訊ねてきた質問なのだろうと、わたしは思いました。
リエイターはわたしの返事を待たずに、今までの勝者のことを話し始めました。
ある姫は、自分を生贄にした両親へ復讐をしに――。
またある姫は、呪いの影響で手に入れた異能を使って自分の望む人生を手に入れたと。
「あなた様ならきっと他の姫君とは違う、我々には想像もできぬことを答えてくれる……。私にはそんな気がしてなりません」
「そうですね。今あなたが教えてくれた姫たちとわたしは、たしかに違います」
そう返事をしたわたしは、リエイターがよそってくれたケーキやスコーンをすべてに口へと入れました。
そして次に、ティースタンドに残った軽食も一気に平らげます。
リエイターは、突然のわたしの変貌ぶりに両目を丸くしていました。
一国の姫らしかぬ下品な食べ方に驚いているのです。
しかし、わたしはもう姫ではない。
王である父に捨てられたわたしは、これまで泥水をすすって生きてきたのです。
それをこの食べ方で教えてやりたかった。
きっと他の姫たちだって、わたしとそう変わらないはずです。
もし魔女の目の前に立ったら――。
自分がもうお姫さまではないことを見せつける。
「
そしてわたしは驚いているリエイターの前で、呪われた影響で得た異能を使用しました。
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