41 シーフ アイビー姫~その③

それからもリエイターの質問は続きました。


あのチュチュという少女とはどこで出会ったのか――。


一国の姫だったわたしがどこで盗賊の技術を学んだのか――。


そして、わたしが終始他の姫たちに提案していた協力路線の意図とその目的とはなにかと。


わたしは、チュチュとは国に捨てられて放浪していたときに出会ったと答え。


盗賊の技術に関しては、大きな街にあった職業組合に入ることで教えてもらったことを伝えた。


「そうでしたか。なにぶん私は世間に疎いもので。それにしても職業組合とは、そんなものがあるのですね。では、アイビー姫の提案とは……」


「その前に、わたしの質問にも答えてもらってよろしいでしょうか?」


わたしはまだ話しているリエイターの言葉をさえぎって訊ねました。


すると、リエイターはこれは失礼とばかりに頭を下げて、何なりとお聞きくださいと言います。


わたしはまず呪いのことを訊きました。


たとえば、この儀式に参加していないブルーベルの姉の呪いを、今この場で解くことができるのか。


これは質問というよりは確認でした。


なぜなら、ここで目の前にいない者の呪いは解けないとでも言おうものなら――。


ブルーベルが姉の代わりにこの儀式に参加した意味がわからなくなるからです。


「もちろんでございます。しかし、ブルーベル姫は敗れたので、この場でお見せすることは叶いませんが」


わたしはリエイターが嘘は言っていないように見えました。


この妙齢の女性は、最初に会ったときからですが、妙な誠実さを感じさせます。


いや、それも儀式を仕切る魔女の礼儀作法なのでしょうか。


たしかめる術はないですが。


わたしにはこの魔女は、普段からこういう人なのではないかと思えました。


「それでは次は私の番ですね。では、アイビー姫の提案とは……」


「ちょっと待ってください。まだわたしの番です」


わたしは、先にリエイターの質問に二回答えたのだから、あと一回こちらに質問の権利があることを主張しました。


それを聞いたリエイターは上品にクスッと笑います。


「なにかおかしいですか?」


「失礼。お気に障ったのなら謝罪いたします」


「別に謝ることはないですが、わたしの言い方になにかおかしなところでもあったのでしょうか?」


「とんでもございません。いやなに、少々理屈っぽいなと思って、つい笑ってしまいました」


それからリエイターは笑ったことを謝ると、わたしに質問を続けるように言いました。


わたしは、次にこの烙印の儀式の目的を訊ねました。


なぜわざわざ呪われた姫たちを集めて殺し合いをさせるのか。


そもそもどうして国の繁栄と引き換えに姫に呪いをかけるのかと。


リエイターは相も変わらず慇懃に答えます。


「烙印の儀式とは、魔女たちの遊戯なのでございます」


それからリエイターは言葉を続けました。


世界は人間同士の争いが繰り返されているだけで、何も変わり映えがない。


長い寿命を持ち、退屈を持て余していた魔女たちは、そこである遊びを思いついた。


国を勝たせてやる代わりに、自分の国の姫を生贄に差し出すかどうか賭けをしないかと。


しかし、それは賭けにならなかったようです。


それは、魔女の甘い言葉にどの国の王も乗ってきたからでした。


なんともまあつまらない結果だと、魔女たちは次の遊びを考えたと言います。


なら、その生贄にされた姫たちを集め、殺し合いをさせるのはどうか?


自らが契約した国の姫を駒として、呪いと共に異能も授けてやれば面白いものが見られるのではないかと。


それから毎年生贄にされた姫たちを集め、烙印の儀式と称して殺し合いをさせるのが魔女たちの楽しみとなったようです。


「最初の頃はもっと規模が大きかったのですが。年々参加者が減っていますね。今年は五人のみ……。きっと我々もやり過ぎたのでしょう。この世界の多くの国を繁栄させ過ぎました」


リエイターはそういうと、ケーキに乗っていた苺をフォークで刺して口に含みました。


わたしはそんな彼女を見て考えます。


多くの国が豊かになったことで終わることない戦争が続き、この世界は今までにないくらい酷い状態です。


富を持つ者はさらに求め、貧しき者はさらに奪われる。


栄える国同士が争えば、戦いは激しくなる一方。


そして、強国でも負ければすべてを失う。


強い国だけが――ごく一部の者だけが潤う世界。


それを地獄と呼ばずしてなんというのか。


魔女たちはその地獄を見て楽しんでいる。


まるでチェスの駒でも動かすかのように。


「さて、アイビー姫。次こそは私の質問に答えてくれますね?」


そういってきたリエイターを見ながら――。


わたしはその身を震わせていました。

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