33 グラップラー サイネリア姫~その⑥
私は猫背の状態からさらに深く屈んで二人へと飛び掛かる。
すると、前に出ていたチュチュが私に向かって大剣を振ってきた。
でも当たらない。
私は息を吐くように彼女の一撃をかわしてみせる。
まあ、当たるはずがないんだよね。
それは当然私のほうがスピードが上で、さらに戦い慣れしているからさ。
剣の間合いを考えて踏み込み、ギリギリで避ければもう相手は私に触れられない。
予想通り呆気なかったけど、まずはチュチュから殺してあげる。
私がそう考えながら拳を彼女の顔面へと振り抜いた。
大剣を避けながらだったので、その攻撃は裏拳。
おまけにカウンターにもなっているので、当たれば地面に落としたトマトみたい潰れる。
――はずだったんだけど。
ガキンッと私の手に付いていた鉄甲が鳴り響いた。
その音は金属と金属がぶつかり合うものだった。
「くっ!? さ、させません!」
そこにはナイフで私の拳を受け止めたアイビーが立っていた。
さすがに盗賊の真似事をしていたと言っていただけあって、彼女の反応速度はなかなかのもの。
でも、これも予想通りなんだよね。
私はほくそ笑みながらアイビーへもう一撃放った。
今度は正拳突き――右ストレート。
ただ体勢が悪かったからそこまで力は入っていない。
でもね。
それでもアイビーは吹き飛ぶ。
「きゃぁぁぁ!」
「アイビー!?」
私の攻撃を受けきれなかったアイビーを心配して叫ぶチュチュ。
吹き飛ばされた彼女のほうへ顔を向け、今にも駆け寄りそうだ。
「デート中によそ見はダメよ」
私の声でチュチュが再び剣を振りあげる。
でも遅い。
彼女が大剣を空へ掲げるのがよく見えるくらいにね。
私はがら空きになった身体へ、すかさず左ジャブから右ストレートの二連撃。
チュチュの小さな身体を吹き飛ばす。
う~ん、なかなかの手応え。
これは内臓がいったか、または肋骨は折れたかもね。
でも、血を吐きながら飛んでいったチュチュは、それでも私を睨みつけていた。
まあまあ頑丈な子だこと。
本当は痛くて泣き喚いてもおかしくないのさ。
チュチュはそのまま木にぶつかるかと思ったけど。
突然飛び込んできたアイビーが彼女の身体をがっちりと受け止めた。
「大丈夫ですかチュチュ!?」
「うん。ものすごくイタイけど。絶対に泣かないよ。だってあたし勇者だもん」
強がりをいっているのはわかるけど。
そんなアイビーに支えられたチュチュからは、さらに闘気が溢れ出していた。
アイビーもそんな彼女を見て励まされたのか、これだけ力の差を見せつけてもまだ私と張り合うつもりみたい。
ムカつく。
見ているだけでイライラする。
そんなことはあり得ない。
人間同士が信頼し合うなんて絶対にあり得ないんだよ。
「提案します」
態勢を立て直したアイビーは、なにを考えているのか再びその手をあげた。
そして、また同じこと――自分に協力してほしいと言っている。
無駄だということがまだわからないのかしらね。
なんだかさらに苛立ってきたわ。
この二人は自分を嫌いにはならない。
それでいて一緒に私を抑えながら説得をやめない。
もういいわ……。
あなたたちなんか恋人にしてあげない。
この儀式の終わる時間――。
朝日が昇るギリギリまで苦しませて殺してあげる。
そして、いかに信頼なんてものが無力かを知るといいわ。
「あらイヤだわ。乾いちゃってる」
私がそう呟くと、傍にいたタンジーが自分の異能を使い、その姿を消した。
彼女が得た異能――
これでタンジーにアイビーを背後から襲わせ、彼女の身動きを封じる。
そこからはチュチュをアイビーの目の前で殴り殺す。
なにも言おうがもうやめてなんてあげないんだからね。
「サイネリアお願いします! 私たちに協力してください!」
「いいから、そういうのはもういいから」
「あなたの力が必要なんです!」
「同じことばかり言いやがって……もううんざりなんだよ! いいからてめえはそこで見てろ!」
私が叫び返した瞬間に、姿を消したタンジーがアイビーの身体を押さえつけた。
タンジーも非力だけど、アイビーとそうは変わらない。
私がチュチュを殴り殺す時間くらいは押さえつけていられるだろう。
そう考えながらも私は、タンジーがアイビーを押さえつけたときに、一瞬で間合いを詰めてチュチュの腕を掴んでいた。
そして、彼女の腕の関節を極めながら地面へと強引に投げつける。
「ぎゃぁぁぁ!」
鈍い音と共にチュチュが悲鳴をあげている。
う~ん、手応えあり。
完璧に極まったね。
確実に折れたね。
さて、ここからようやく楽しくなってきそうだよ。
「アイビー。あなたはお客さん。そこでチュチュが殺されるところをじっくりと見ていてよ」
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