29 グラップラー サイネリア姫~その②
タンジーがアイビーたちの状況を聞くと、どうやらブルーベルは事切れちゃって彼女たちは私を探しそうと話していたみたい。
そうか、うんうん。
やっぱり死んじゃったんだね。
なかなかかわいい子だっただけに残念だよ。
残念といえばあのアザレアって姫も良かったな。
あの人の気高い騎士って感じがとってもステキだった。
アザレアもブルーベルと同じで自分のこと嫌いそうだったしね。
二人とも私の恋人にしたかったけど、恋愛ってやつは自分の思い通りにはうまくいかないものだよ。
「うん? イヤだな~そんな顔をしないでよ、もちろんタンジーもとってもステキよ」
私はそう言いながらまたタンジーを抱きしめる。
こういうケアやフォローは大事だよね。
嫉妬は恋人関係のスパイスだけど、それで仲が悪くなったら本末転倒だものね。
それに、私はタンジーに嘘なんて微塵もついていないよ。
サイネリアは恋多き女なんだ。
もっと恋人を増やしてもっと愛されたい。
だってサイネリアはお姫さまなんだもん。
「あらあらタンジーたら、もう身体が崩れてきっちゃったわね」
私が抱きしめたせいで、タンジ―の上半身から肉片が床に落ちてしまった。
おまけに臭いもきつくなってきている。
「もうっ、しょうがないわね。私のお気に入りの香水をかけてあげる」
私は荷物から自分にも使っている香水を出すと、彼女へシュッシュッと振りかける。
今までにできた恋人たちも、目の前にいるタンジーと同じで身体が腐っていっちゃんだよね。
まあ死体だからしょうがないんだけさ。
きっと彼女もそのうち動かなくなっちゃう。
でも、生きたままだと口うるさいしね。
恋人はやっぱり愛する人の話を聞いてくれなくっちゃ。
お喋りが大好きな私は聞き上手な人が大好きなんだ。
それでいてやっぱり自分のことが嫌いな人なんて最高。
特に私の言葉を聞いてだんだんと自分を否定していく様を見ているとね。
サイネリアはとっても感じちゃうの。
「そうだ! 早く行かなきゃね。アイビーたちが私たちを待ってるわ」
アイビーたちのことを思い出した私は、手をポンっと打ち鳴らすと小屋から出た。
とりあえずタンジーが調べてくれた、彼女たちがいた場所まで案内してもらうことにする。
もうすっかり陽が落ちて辺りは真っ暗だ。
たしかアイビーたちがいたのは、伸び茂った草むらだったかなら?
それにしても夜道ってのはロマンティックだよね。
月や星に囲まれていると、なんだか自分が物語に出てくるお姫さまになった気分だよ。
あらやだ、私ってお姫さまだったわ。
そんなことを考えていると、前を歩いていたタンジーの足が止まった。
急に止まるなんて、危ないなと思いながらも私はあることに気が付く。
「あっ! そっかそっか~。もうっ、タンジーたらエッチなんだから。まあ、私も嫌いじゃないけどね。アハッ」
そうだよね。
誰だって恋人と夜道を歩いていたら触れあいたくなるものね。
安心してよ。
私はそんな鈍感な女じゃないんだから。
まずは手をつないで――。
それから五本の指を絡ませて――。
それで互いに見つめ合って口づけを――。
「キャ~! もうっ、恥ずかしくなってきちゃったじゃない!」
私が照れながらタンジーをポンポン叩くと、彼女の背中の肉片がボトッと地面に落ちた。
そこからタンジ―の内臓や骨が見える。
「タンジーたら、もう腐ってるのに中までキレイなのね。羨ましいわ~」
私が彼女の内臓を愛おしく見てから、その身体を後ろから抱きしめた。
バックハグはありきたりなんていう人もいるけど、やっぱり好きなんだよね、私は。
この、相手を包み込む感じが素敵でしょ。
そのとき、側にあった木々からアイビーとチュチュが姿を現した。
なるほど、タンジーが急に立ち止まったのは彼女たちがいたからか。
サイネリアったら早とちりしちゃった、恥ずかしい。
それにしてもイヤだわ、私たちから迎えに行くとつもりだったのに先に現われちゃうなんて。
でも、小細工なしの真っ直ぐさって、私は好きよ。
私がそんなことを考えていると、チュチュが大剣を構えたけど、アイビーはその剣を下ろさせた。
そして、彼女はゆっくりと右手をあげる。
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