25 アーチャー ブルーベル姫~その⑩
魔女に生贄を捧げた国は繁栄が約束されるといわれていた。
王たちは魔女を探し出し、生贄を捧げる契約をする。
その生贄とは王の娘――つまりその国の姫君でなくてはならない。
王たちは我が子を供物とし、長い栄華を極めた。
――どこかで噂されていたこの話を信じた父は、使いの者をやり、魔女を探し出したと言っていました。
そして父は言いづらそうな声でねえねへ伝えます。
「生贄は……もちろんブルーベルだ。お前ではない……」
その言葉を聞いたとき――。
これはしょうがないことなのだと思いました。
優秀なねえねよりも、何をやらせても役に立たないベルを選ぶのは当然です。
ベルが生贄を選ぶ立場でも同じ選択をします。
この国のために――。
ベルとねえねのどちらを生贄にするかなんて、最初からわかりきっていたことです。
だけど……。
それでもベルは……。
涙がとまりませんでした。
わかっていたことだけど……。
ベルはこの国――両親から必要とされていない子だったのです……。
父の部屋の前でベルは泣いていました。
傍にいたスプリングが近寄ってきて頭をこすりつけてきます。
必死に慰めようとしてくれています。
だけど、ベルの涙は止まりませんでした。
ただ両親やねえねに気が付かれないように、扉の前で両膝をつき、声を殺して泣くだけです。
そのときでした。
スプリングが突然父に部屋へと入って行ったのです。
そして、両親に向かって炎を吐きました。
部屋の中がスプリングの吐く青い炎で埋め尽くされてていきます。
「ダメ! ダメだよスプリング!」
ベルは流れる涙も拭かずに慌ててスプリングを止めようとしました。
だけど、そんなベルよりも先に、ねえねがスプリングを抱きしめていました。
「大丈夫ですよ、スプリング。ベルを生贄などにしません。この私が必ずあの子とこの国を守ります」
ねえねはいきり立つスプリングを落ち着かせようと、穏やかな声で微笑みかけます。
すると、スプリングは弱々しく鼻を鳴らすと、ねえねの胸の中で大人しくなりました。
「ねえねぇ……ベルは……ベルは……」
扉の前で泣いているベルを見つけたねえねは、スプリングを抱いたまま、あたしのことも抱きしめてくれました。
何も心配いらない。
ブルーベルがこの国のために犠牲になる必要なんてない。
――と、さっきスプリングを落ち着かせたときと同じように、ベルにも優しく微笑み返してくれました。
それから数日後――。
ベルは魔女の話を聞いてから、すっかり部屋から出なくなってしまいました。
スプリングも同じです。
むしろ、前以上にベルの傍から離れなくなりました。
幸いなことに、スプリングの炎で両親とねえねが怪我をすることはありませんでした。
だけどあの日以来、両親とは会話をしていません。
ねえねが心配をして部屋に来るくらいで、両親はベルの顔すらも見に来ることはありませんでした。
ベルのほうもまた、両親と話をしたくなかった。
頭ではわかっています。
ベルなんかはいらない、ねえねこそが国に必要な人なのだということを。
だけど……。
やっぱり両親の考えを受け入れる気にはなれませんでした。
ベルは愛されていたと思いたかった。
たとえそれがねえねの次――二番だったとしても、魔女に捧げるなんていってほしくなかったのです。
それからさらに月日は経ち――。
ベルの国には、以前のような活気が戻って来ていました。
国が豊かになるにつれ、いつもなら部屋に顔を出すはずのねえねが来なくなりました。
ベルは、何日経っても来てくれないねえねのことが気になって、ついに部屋を出ることを決めました。
きっと国の復興活動で毎日に疲れているのだろう。
こんなベルでも少しは何かしてあげられるかもしれないと思い、スプリングと共にねえねの部屋へと向かいます。
そのときのベルは、国がみるみる良くなっていくことを気にも留めてもいなかったけど。
それは魔女の力によるものだったのです。
「ねえね……いますか?」
ベルが恐る恐る部屋に入ると――。
そこには体中から花を咲かせ、ベットの上で苦しんでいるねえねの姿がありました。
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