24 アーチャー ブルーベル姫~その➈
――ベルの両親はとても優秀な人たちでした。
父は王として民に慕われ、母もその妻として国のことを考え、どこにも負けないくらいベルの生まれた国は裕福でした。
実際に国の税は軽く、治安も良く、他の国に住んでいる人がベルの国を知るとわざわざ移住して来るくらいです。
ベルの姉――ねえねはそんな二人よりもさらに優秀でした。
博学で武芸に長け、さらに国で何か問題が起これば率先して解決に乗り出すような、そんな立派で誰からも慕われていた人物です。
両親はねえねのことを誇りに思っていました。
立派な自分たちから生まれた立派な娘だと。
それこそ毎日のように、自分たちの娘――ねえねのことを自慢していました。
それに引きかえ、両親はベルのことを褒めてくれませんでした。
それもしょうがないのです。
なんでもできるねえねと違って、ベルはなにをやらせても愚鈍で、同性代の子たちと比べてもとても優秀とはいえなかったからです。
だけど、両親はそんなベルにも愛情を注いではくれました。
お前はなにもしなくていい。
いや、なにもできなくてもいい。
ただ姉の後をついていけばいいのだと、顔を合わすたびに言われ続けたのです。
ベルはどこかそのことを歯がゆく思っていました。
正直いうと、そのときのベルはねえねのことが好きではありませんでした。
ねえねがいる限り自分は、両親からまともに見てもらえないと思っていたからです。
そんなときに、父がある国からめずらしい動物をもらってきました。
豊かなベルたちの国と、少しでもお近づきになりたいという他国からの贈り物です。
それは檻に入れられた青いウサギでした。
だけど、そのウサギはいくら餌を与えても一向に食べなかったのです。
それにいくら可愛がっても誰にも懐かず、両親はこのまま処分してしまおうと話していました。
そのウサギのことを聞いていると、ベルはなんだか自分のことを話されているような気分でした。
ただ檻の中で食事を与えられ、望むように動かないなら放っておかれる。
ベルにとってそのウサギのことは、とても他人事とは思えなかったのです。
だけど、ベルがそのウサギをほしいという前に、ねえねがすでに檻から出していました。
ねえねはベルにこう言いました。
「ベル、この子のお友だちになってあげてね」
それからウサギの名前を二人で考えました。
春にベルたちの前に現れたからスプリング。
スプリングと呼ぶと青いウサギは喜びました。
ねえねにはすでに懐いていましたが、なぜかその青いウサギはベルにもすぐに懐いてくれました。
それからスプリングとベルはいつも一緒です。
そのときからねえねに弓矢を習うようになり、なにもできなかったベルでしたが、これだけはねえねに負けないくらい飲み込みが早いと、両親からも褒められました。
ねえねはきっと気が付いていたのです。
ベルに弓矢の才能があることを。
いや、前からベルが弓矢に興味を持っていたことを。
そして、この頃からです。
ねえねとベルの距離が縮まったのは。
そんな日々が続き――。
ある日、ベルたちの国が災害に襲われました。
大雨による気象災害です。
ベルたちの国が山沿いにあったのもあって、集中豪雨が振ったせいで土砂災害が起き――がけ崩れや土石流のせいで国が壊滅的な大打撃を受けました。
いくら優秀な両親でもこれにはなにもできず、ただ国が衰退していくのを見ていることしかできません。
豊かだった田畑は洪水で潰れ、住んでいた人たちも次々と別の国へと逃げていきました。
人口が減り、鮮やかだった街並みはもう見る影もありません。
しかし、それでもねえねは頑張っていました。
すでに諦めかけていた両親を励まし、国に残ってくれた民を奮い立たせて復興を目指します。
ベルもできる限り手伝いました。
あまり役には立てなかったですが、街にある瓦礫を片付ける作業を毎日やりました。
当然スプリングも一緒です。
この頃には、ベルの中にあったねえねとのわだかまりもなくなっていました。
「ベル、今日もありがとうね。でも、無理しちゃダメだよ」
ねえねはベルにお礼を言ってきます。
一番頑張っているのはねえねなのに……。
ベルはいつもそう思っていました。
スプリングにそのことを伝えると、まったくだと言わんばかりに首を縦に振っていました。
ねえねを見ると笑みがこぼれます。
ねえねのことを考えると、心配だけど嬉しい気持ちになります。
国は大変な目に遭ってしまいましたが、そのおかげなのか、ベルはねえねを好きになっていました。
それから数日が過ぎ――。
いつものように瓦礫を片付け、城に戻ってきたときのことでした。
たまたま通りかかった父の部屋から、両親とねえね三人でなにか話している声が聞こえてきました。
「ついに魔女を見つけたぞ。これでこの国は再び豊かになる」
それは自国の姫を生贄に差し出せば、国が繁栄するという恐ろしい話でした。
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