14 ナイト アザレア姫~その⑭
その後ほどなくして――。
ブルーベルが連れていた青いウサギ――スプリングが彼女の匂いを頼りにやってきてアイビーたちと合流。
どうやらサイネリアが異能で操る甲冑の集団からは逃げきれたようだ。
私アイビーたちに跡をつけられていないか訊ねると、彼女は頷き、そして質問をしてきた。
自分たちと合流するまで二人で何を話していたのか?
ずいぶんと時間があったのだから、何か会話をしていたのだろうと。
なぜそんなどうでもいいことをアイビーが訊いてきたのはわからなかったが、私は別に大した話はしていないと返事をすると――。
「ア、アザレアさんに……剣を教えた人のことを聞いていましたよぉ……」
ブルーベルが言葉を詰まらせながらアイビーへいう。
先ほど甲冑の集団から逃げていた彼女とは思えないほどの別人ぶりだ。
敵に背中を見せながらという状況で私たちへ指示を出し、とても頼りになる存在だったのだが。
いや、むしろこちらが彼女の本性か。
まあ、どちらにしても好感は持てる。
ブルーベルの言葉を聞いたアイビーは、ぜひ自分にも聞かさせほしいと言ってきた。
それに続いてチュチュもぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながら、彼女と全く同じ言葉を続けた。
その様子は親の真似をする子どもそのものだった。
私は正直いうとまた同じ話をすることが嫌だったが、あまりにも彼女たちがしつこくいって来たので、また彼女の話をすることにする。
「じゃ、じゃあベルは、みなさんが話している間に、周囲へ罠を仕掛けていますぅ」
ブルーベルはまたおどおどと自信なさそうにいうと、持っていた荷物の中から何か取り出して、滝から流れてくる水でできた川周辺をいじくり出していた。
うむ、やはり頼りになる子だ。
罠を仕掛けておけば、たとえ集団で向かって来られても対処しやすい。
しかも、我々の背には滝がある。
これならいつ襲われても問題ないな。
それから私は、アイビーたちへブルーベルに話した彼女の話をした。
かなり長い話だったが、アイビーもブルーベルと同じく興味津々で聞いていた。
だが、チュチュのほうはすぐに興味がなくなったのか、ブルーベルに人参を与えらたスプリングにじゃれつき始めている。
自分で聞きたいといったくせに、飽きてしまったのか。
全くこれだから子どもは困る。
もう話が終わる頃に――。
ブルーベルが念のために滝の上へ行ってみると言い出した。
もしかしたら上から襲われるかもしれないという心配を、なくしておきたいのだそうだ。
地の利を得て、罠も仕掛けて、さらにまだ心配か。
ブルーベルの言葉に慎重や注意深い以上に何か違和感はあったが、私はまあやっておいて損はないだろうと思っていると――。
「じゃ、じゃあ、ちょっと見てきますね」
突然ブルーベルの頭の上にスプリングが飛び乗り、彼女はそのまま頭に乗ったウサギの足を両手で掴んだ。
すると、どういうわけか。
ブルーベルとスプリングが宙へと浮き始めたのだ。
ゆっくりと浮かび上がっていく彼女が、微笑みながら説明してくれた。
なんでもスプリングは耳を羽ばたかせて空を飛べるそうだ。
それでブルーベルくらいの重さであれば飛行するのに影響はないらしい。
炎は吐くわ空は飛べるわで、全くとんでもないウサギである。
しかし、たしかにスプリングがいれば異能を持たないブルーベルでも、この烙印の儀式で勝ち残る可能性は十分あるな。
やはり私が見込んだ通り、あの子はただの少女ではないのである。
「どうやら誰もいないようです。周りにも人の気配はありません」
上流までたどり着いたブルーベルを見上げていた私たちへ、彼女が声をかけてきた。
私たちは下から返事をし、これで万全の状態だと思っていた。
だがそんな安心も、突然空から落ちてきた青い炎によって打ち消される。
「なんだこれは!? ま、まさかッ!?」
炎を吐いたのはスプリングだった。
私やアイビーが一体何が起こったのかわからないでいると――。
「ごめんなさいぃ……ごめんなさいぃ……」
スプリングに掴まっているブルーベルが涙を流しながらボソボソと言葉を発していた。
辛うじて謝罪していることがわかったが、次の瞬間に私たちの周りで爆発が起こる。
咄嗟に身を固めたが、もう後の祭り。
私たちは爆発によって砕けた岩でその身を削られ、さらに爆風で背にしていた高い崖に叩きつけられた。
全身を炎で焼かれ、身体中が傷だらけとなる。
私は痛む火傷と、傷口から流れる血を見ながら気が付く。
スプリングが吐いた炎が引火して、ブルーベルが仕掛けた罠が発動したのだ。
彼女は最初から私たちを罠にかけていたのだ。
「ブルーベル! よくも騙したな!」
重度の火傷と切り傷だらけになった私が咆哮。
だが返事などなく、ブルーベルはそのまま空を飛んでき、私たちの前から姿を消した。
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