量産機あれこれ ~ザクはザコではない~

 ロボットものにおける量産機と言うと、決して主役や宿敵にはなれない(※1)ともすれば“やられメカ”のイメージが強いかと思われますが。

 ガンダムのようなリアリティ重視の設定であっても、視聴者は主役機にヒロイックさや特別感を求める……となれば、ワンオフ機が強力に描かれるのもジャンルの必然なのでしょう。

 ガンダムの例で言えば、プロトタイプであるガンダムが主役専用の特別な機体であり、それをもとに量産されたジムは脇役兵士が使うやられメカと捉えられがちです。

 

 しかし。

 実際の兵器なり、工業製品で高品質とされるものは、プロトタイプよりも量産機の方です。

「現実的に量産可能で、極力誰でも使用に堪えるを世に出す」目的の為に、プロトタイプや試作品で試行錯誤するのです。

 ならば、プロトタイプのガンダムが、完成品であるジムより弱くなくてはいけないのか、と言うとこれも否です。

 ある意味でだとか事が、戦略的なデメリットとなる事もあります。

 アムロの乗ったガンダムがいかに一騎当千の強さを誇ろうと、何千万単位の戦争をそれだけで制する事は出来ません。

 後に、ガンダム0080においてはアムロの為にガンダムの後継機(ガンダム・アレックス)が製造されたお話があるのですが、操作に対する機体のレスポンスがあまりに鋭敏すぎ、軍の中でもエリートであろうテストパイロットですらまともに操作できない物になってしまいました。

 我々の使う乗用車に例えれば、アクセルを軽く踏んだだけでトップスピードに加速したり、うっかりハンドルが数ミリズレただけで明後日の方向に突っ込んでしまうようなものでしょうか。

 これでは“戦略的価値”は限りなく無に近いのでは、と思われます。

 以前、大戦末期のジオンの学徒兵が、ゲルググと言う当時の最新機を(一応は)操縦出来ていたことに軽く触れました。

 戦略的には、これが“武器”の正しい姿であり、この点で、より強いガンダムよりも、ジムやゲルググの方が軍と言う組織にとっては価値が高いと言う事です。

 恐らく整備性でも、ガンダムにはパーツの入手性などの様々な不便がある筈です。

 私自身も以前、旧式の乗用車をかなり長年(走行距離30万キロ超まで)使い続けた事があるのですが、車検や修理の際に部品の取り寄せが難しくなって、流石に手放しました。

 この時、かつての愛車はある意味でワンオフ機みたいな事になっていたのかも知れません。性能は量産機以下ですが。

 ……そんなわけで、プロトタイプや試作品である主役機の方が、完成された量産品より強くても、それはそれで間違ってはいないわけです。

 コスト削減を模索する前に、コスト度外視で原型となるプロトタイプと言う“成果物”を作るのも、量産機を完成させるためのステップとしてあり得る話です。

 

 なお、ロボットものにおいて“量産機”と言う言葉が生まれたのは機動戦士ガンダムの(作中ではなく、関連資料において)の量産型ザクが最初であるそうですが、

 実は“量産”と言う言葉は、沢山作ると言う事では無く「製造ラインを確立した上で作られる事」を意味します。

 極論、最終的に一機しか作らなくても量産ラインで作られたのであれば、それは量産機だったりします。

 

 前回、ファンタジー世界との親和性において、アーマード・コアの事を量産機タイプとして扱っておりましたが、これは厳密には間違いかと思われます。

 このシリーズ特有の「量産された市販のパーツで自分のワンオフ機を組み立てる」と言うコンセプトが、ジャンルとして俯瞰しても面白い所だと思います。

 ネット上では、無難に強いパーツで組み立てた「面白味のない」ACの事を“量産型”と冷やかす事もあるそうです。

 また、アーマード・コアの世界にはACの他にMT(マッスル・トレーサー)と言う機体カテゴリが存在しますが、大抵は雑魚敵・やられメカとして、多数、プレイヤーの前に立ちはだかるのが役目となっています。

 しかし、アーマード・コアのACとは自在にパーツを組み合わせるもの。

 ACの機体を構成する全てのパーツには必ず互換性が無ければならず、ジョイント部分も統一しなければならない筈です。

 言い換えれば汎用性と言う縛りが常に付きまといます。

 例えば掘削機として作られたMTとACでは、単純な掘削のパワーを追求しやすいのは前者かと思われます。

 パイロットがどんな装備を想定するかわからないACに対し、掘削機としてしか使うつもりのないMTであれば腕部の構造を掘削に特化して設計できるので。

 ACの場合「パーツの自由度と、最低限度敵を大破させられる能力」と言うのが、ある意味での特化と言えるのかも知れませんが。

 結局の所、大半が戦闘用であり、工業利用には縁がない筈なので。

 そんなわけで、アーマード・コアにおけるMTと言うのも、結果的には大多数が、戦闘要員としてだけ見れば相対的に弱く(汎用性が低く)やられメカになっているだけであり、時に主役機のACより巨大なMTが立ちはだかる事もあります。

 また、主役や名ありの敵が“汎用機”で、モブのそれが“特化型”である。

 その上で主役たちの汎用機の方に個々のオリジナリティがある、と言う逆転現象も興味深い所です。

 

 総じて、ロボットものでは「強弱と粗さ」「戦術と戦略」が別問題である事に注意が要りそうです。 

 以前もここで述べましたが、モブの一般兵とは、戦略的な最適解でもあるはずです。

 

 

(※1)

 言わずと知れたシャア・アズナブルの乗機は、クライマックスのジオングを除いては量産機(のマイナーチェンジ品)ばかりで、言ってしまえばモブのそれを赤く塗っただけ、とも言えます。

 だからこそ、パイロットとしての手腕が引き立つ絶妙な表現だったと思います。

 また、ガンダムWでは主役が頻繁に量産機で活躍したりしています。

 時に、ウイングガンダムなど中二っぽいデザインの専用機そっちのけで、リーオーなどの量産機で暴れたりします。

 一周回って主役の異色さ(手段を選ばない工作員)や、ガンダムシリーズは特別なガンダムで戦い抜くと言うセオリーを崩した好例に思えます。

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