モータルコンバット11のDLC“AfterMath”の感想

 と言う訳で、ダウンロードコンテンツとして配信された、本編後の更なるストーリーが、このAfterMathアフターマスと言うエピソードです。

 

 物語は、火神として生まれ変わり、全てに決着をつけたリュウカンが、今まさに、新世界を再構築しようとした瞬間からはじまります。

 そこへ、制止の声が飛び込んで来ます。

 それは、雷の神・ライデンの弟である風の神・フウジンのものでした。

 先の戦いで姿を見せなかったフウジンは、リュウカンの仲間でありインディアンの勇者でもあるナイトウルフと、もう一人、

 どういうわけか、魔界に魂を売り渡した邪悪な妖術師にして少林寺の破戒僧シャンツンを伴っていました。

 このシャンツンは初代モータルコンバットのラスボスであり、リュウカンをはじめとした(無論、フウジンやナイトウルフも含む)ライデン一派にとっては不倶戴天の敵でした。

 そしてメタ的に言うと、彼もラスボスを務めた初代をピークとして、リュウカン同様シリーズを重ねていくごとに扱いが悪くなっていました。

 本来、絶対に相容れない仲であり、実際に今現在もいがみ合う様子を隠しもしないフウジンとシャンツンが、しかし、共にリュウカンの新世界構築を制止します。

 二人が口を揃えて曰く、

「そんな事をすれば世界が完全に消えてしまう」

 との事で。

 理由を聞けば、新たな時間軸の構築には、リュウカンが今しがた抹殺したクロニカの王冠が必要であり、それは先の戦いで破壊されてしまったものでした。

 そしてフウジンとナイトウルフ、そしてシャンツンは、それぞれがクロニカの配下となる事を拒否した結果、時空の狭間へと追放され、今まで出てこれなかった。しかしリュウカンによってクロニカが死んだ為に脱出が叶い、不本意ながら一緒にリュウカンを止めに入った……と言う経緯でした。

 確かに「世界が滅ぶと困る」のは、リュウカン達もシャンツンも同じ。

 この一点で利害が一致した事で、シャンツンは、もう一度モータルコンバット11の本編に時を遡り、この王冠を破壊せず確保する。その為の共闘を提案します。

 当然、初代モータルコンバットの諸悪の根源であり、元々少林寺の僧兵モンクだったリュウカンや、少林寺を通して人間界の戦士達を導いていたライデンにとっても裏切り者の仇敵。

 本来なら絶対に手を組む事などあり得ませんし、遺恨は捨てたとしても、そもそも信用が出来ません。

 ストリートファイターで言えば、悪の帝王を自称して憚らないベガに、「世界の為に」と共闘を提案されるようなものです。

 明らかに「世界の為」の意味合いが違います。

 とは言え、時間遡行以外に手立ては無く、王冠の確保にシャンツンの力が必要である事。

(シャンツンは王冠の製作と維持に携わっていた為)

 そして、「当面の利害が一致している」と言う、短期的に言えば最も信用出来る理由があるのも事実。

 リュウカンはフウジンに何事かを耳打ちした上で、シャンツンの監視を兼ねた同行を依頼。

 自らは現在の時空に残りました。

 

 さて、見えている地雷というのもここまで来ると、いっそ清々しいもので。

 これはこれで、シャンツンが裏切る瞬間への期待が高まるものです。

 その分、ハードル的な高さもまた、上がるわけですが。

 フウジンやナイトウルフらは、シャンツンの一挙手一投足に疑いの眼差しを向けながら行動していますし、火神となったリュウカンの力は絶対的なものです。はっきり言って、この時のシャンツンには勝ち目が全くありません。

 そして、デモシーンの戦闘を見ていると、シャンツン自体が微妙に弱いです。

 弱いと言っても、風の神であるフウジンや精霊の加護を受けたナイトウルフと比べた相対的な話であり、シャンツン自体も全盛期ほどでは無いにしろ一級の妖術師です。

 全くの足手まといではなく、おおむね戦力にはなっているのですが、結構詰めが甘く、フウジンらにフォローされているシーンが散見されました。

 これは、シャンツンの不利な現状と、実戦より計略を得意とする彼を表現する意図的なものと推測します。

 序盤は、少林寺跡地に仕掛けられた致死性のトラップを前に、シャンツンが、

「少林寺には邪なやり口を好む僧も居たようだな」

(※重ねて言いますが、彼は元少林寺の破戒僧です)

 と言うのに対して、ナイトウルフが呆れた様子で、

「あんたがそれを言うか」

 とツッコミを入れるような、よくある漫才を交えたりして、ゆるい空気すら流れていました。

 他の物語であれば、ここから友情も生まれる事があるのでしょうが、残念ながらこのゲームはモータルコンバット。

 シャンツンが、魔界の王妃シンデルの協力を得る為として彼女の蘇生をフウジン達に認めさせた所から、良い方向に向かっていた筈の歴史が再び荒れる事になります。(※1)

 シャンツンは、初代ラスボスであると共に、元々、2以降のラスボスであったシャオ・カーンの部下でもあります。

 

 シャンツンと結託していたシンデルの裏切りによって本編でリタイアしていたシャオ・カーンも完全復活を果たし、地球側の連合軍(米軍・少林寺・中国忍者の一門・魔界の善側勢力……と改めて並べるとシュールですが)

 は壊滅状態に追いやられます。

 主だったファイター達も悉く殺されるか捕らえられてしまい、本編で地球側の快進撃だった場面が一転して最悪の状況に改変されてしまいました。

 更に、本編で決着の鍵となるリュウカンが、本来そこに来る筈の無かったシャオ・カーンによって倒されてしまい、火神・リュウカンの誕生の目も絶たれてしまいます。

 更に、ここでシャンツンがついに本性を現し、フウジンから王冠を奪い、クロニカの力を得ます。(※2)

 しかし、シャオ・カーンとシンデルもまた、黒幕クロニカを下して世界を手中におさめんとする者達。

 地球の連合軍を打ち破って、時の神に挑まんとして……シャンツンに背後から不意討ちを受けて二人ともあえなく殺されてしまいました。

 

 王冠の力と、ライデン、フウジン、シャオ・カーンらから奪った魂の力によって、シャンツンはクロニカとの戦いを制し、これも吸収してしまいます。

 もはや、人間界にも魔界にも、シャンツンに逆らえる者は居なくなった。

 ……かと思われた時、本編で火神に生まれ変わったリュウカンがシャンツンの前に現れます。

「最初から騙していたのさ。お前の得意なことだろう」

 そう告げる火神リュウカン。

 王冠を手に入れるにはシャンツンの力が必要不可欠である事から、火神リュウカンは、最初から狙ってシャンツンにのです。

「その為に友人達を見殺しにしたか。冷酷になったものだな」

「見殺しはしない。俺が新たに創造する」

 9にて、仲間の犠牲に激昂したリュウカンがライデンと決別してしまった事を思うと彼の成長を感じさせる台詞です。

 世界ごと再生すれば良いのかどうかは、見る人の倫理観次第に思われますが。

 ここで、シリーズ集大成の頂上決戦が、まさかの元祖主人公VS元祖ラスボスの対戦カードで行われます。

 双方とも、(メタ的な意味で)リアル長年、日陰者扱いされてきた同士。

 また、ここではプレイヤーがリュウカンとシャンツンのどちらを操作するかを選べます。

 つまり、どちらを勝たせて新たな世界の神にさせるかを任意で選ぶ事となります。

 シャンツンを選んで勝たせれば、彼は無難に(?)全次元の支配者となります。

 リュウカンを勝たせれば、新たに創造された世界の少林寺に降臨。

 後に、地球で最初の闘士グレート・功老クンラオとなる少年僧に啓示をもたらして、このDLCのストーリーは幕を下ろされます。 

 ゲームシステム的にはともかく、物語としては続編と言って遜色の無いスケールでした。

 11本編の結末で満足していた所へ、更にその上を行かれるとは。


 ……そして今年9月、モータルコンバット“1”として初代のリメイクが発売されるとの事です。

 恐らく火神リュウカンが再生した世界なのでしょうか。

 どんでん返しは、まだまだ続くようです。

 

 重ねて言うようですが、モータルコンバットからは“定番の面白さ”で、どう驚かせるかと言う事の何たるかが学べると思います。

 ゲーム部分の内容が内容なので、大きな声でおすすめもしづらいのですが。

 11ともなると、飛び出した臓物や脳もリアルすぎて吐きそうになります。


(※1)

 シンデルについて。

 魔界の王シャオ・カーンに、妻となって自国の支配に加担。

 その戦闘力は(プレイヤーの操作を考慮しない物語の設定上)作中最強クラスであり、9においては地球の闘士の大半が彼女に殺されてしまいました。

 しかし元々、彼女もまたシャオ・カーンによる侵略の被害者であり、蘇らせれば正気に戻ってくれる筈と言うのがシャンツンの弁であり、フウジンら地球側の認識でもありました。

 しかし真実は、シンデルは心からシャオ・カーンを愛しており、洗脳など最初からされていなかった……と言う事で今回も一度だけ力を貸してくれた直後、サクッと裏切ります。

(※2)

 兄のライデンに変身したシャンツンに騙され、王冠を手渡してしまったのですが……流石にフウジンが迂闊過ぎて、ここは強引な展開に感じられました。

 シャンツンが変身能力を持つのも、作中のファイターなら皆が知っている事です。

 また、シャンツンに王冠をみすみす装備させておいて、まだ部下として自分に従うと信じ込んでいたシャオ・カーンも同様です。

 やはり、あれだけ最初から疑われ続けたシャンツンが、あの状況から彼らを出し抜く場面を描くのは難しかったのかも知れません。

 

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