モータルコンバット11の感想 ~格闘ゲームにおける“定番の顔触れ”と、そこから生まれ得る意外性~

※いつもながら、ストーリーモードの話を容赦なくネタバレしておりますので、ご注意下さい。

 

 この創作論でも何度か考察してきた「定番の面白さ」と「未知の面白さ」について、格闘ゲームの(長年続いたシリーズの)ストーリーと言うのはとても参考になります。

 と言うのも、登場人物がそれこそ「定番の顔触れ」になりやすく、シリーズ数を重ねるほどにその馴染みが深まっていく構造をしているからです。

 これには、操作キャラクターがシリーズごとにコロコロ変わるとプレイヤーがついていきにくい、と言うジャンルの構造的な要因かなと思いますが。

 もう少しメジャーなタイトルで言えば、ストリートファイターシリーズのリュウ、ケン、ガイル、ザンギエフ等とは、人によってはかれこれ三十年以上の付き合いとなる訳です。

 モータルコンバットの方も三十周年を迎えたそうで、やはりサブゼロ、リュウカン、ライデン、ジョニー・ケイジ……と言う古参の人物は最新作でも現役で活躍しています。

 

 そんな中で、例えば前作のモータルコンバット10は、初代の二十年後を舞台としております。

 こんな、殺人を前提とした格闘大会を何度も繰り広げておいて、人間界・魔界、両陣営の出場者のほとんど誰一人欠けずに二十年を経ていると言うのは若干違和感は感じますが(※1)それはさておき。

 作中で二十年も経過すれば「定番の登場人物」も歳を取ったり、子供が生まれたりしています。

 何人かは、成人した我が子と共闘したりもしています。

 こうした世代の変移は、まさしく「定番の面白さと未知の面白さの両立」のポピュラーなパターンと言えるでしょう。

 歳を取ったあの人物はどう変わったのか、その子孫はどういう生き方をするのか、定番を確立した過去との比較が、未知の期待を生み出します。

 また、初代から参戦しているスコーピオンと言う忍者。

 復讐の為に蘇った亡者である彼は、マスクの下に恐ろしい骸骨の素顔を隠し、トドメの際には敵を生きたまま冷酷に焼き殺す、アンデッド忍者であり、典型的な悪役もしくはアンチヒーローでした。

 しかし、シリーズを重ねるうち、彼は後に生前の怨念を捨てて地球の為に戦い、やがて神々の聖戦士として選ばれると言う意外な結末を迎えます。

 1から3まで(正確には三作品の集大成版“トリロジー”まで)しか知らなかった身としては、この話を聞いた時にとても驚きました。

 生きていても亡者になっても、人は変わる時は変わるものです。

 

 しかしそれ以上に、今回のモータルコンバット11では、その定番と未知について更に踏み込んだ試みが随所に感じられました。

 まず、前作の9~10において、主人公リュウカンなどのヒーロー側の人物が何人かダークサイドに堕ちて魔界の一勢力を率いるようになってしまっています。

 これはヒーロー側の指導者である雷神・ライデンとの不幸なすれ違いや、人間界を護ろうと必死なあまり手段を選ばない暴君となってしまった、ライデン自身の不手際も原因ではありますが。(※2)

 今回の11では、そこへ「二十年前のリュウカンやライデン達が過去から召喚され、ヒーローだった頃の彼らとダークサイドに堕ちた彼らとが同じ時間軸に同居する」と言う事態になります。

 これは魔界の王シャオカーンなど悪役ヴィラン側の者も同様で、一度はライデンらに敗れて死んだ彼らにも等しくチャンスが与えられます。

 道を踏み外した最終的な自分を目の当たりにしてなお、若き頃のリュウカン達は「自分はこうはならない。ライデンを信じる」と言い切ります。

 ことリュウカンの場合はハードで救いの無い状況だっただけあり、過去からやってきた彼が真っ直ぐに邁進する姿は、よりヒロイックなものに感じられました。

 しかし、そう安易に救いを与えないのもまた、このシリーズです。

 過去から来たリュウカンは、悪のリュウカンに捕らえられ魂を吸収されてしまいます。

 結果、悪のリュウカンはますます力を増して手がつけられなくなります。

 時を遡れたとしても、やってくる危機や困難が前回と同じとは限らない。

 むしろ、未来を変えようとした結果、更に悪い事態を招いてしまう……と言うのもこうしたタイムスリップものの定番であり、そして、9でリュウカンやライデンが道を踏み外してしまった原因でもありました。

 やはり万事休すか、と思われた時。

 ライデンが、悪のリュウカンに自らを吸収させる事で、ライデン・善のリュウカン・悪のリュウカンの三者が一つとなった“火神ファイヤーゴッド・リュウカン”として生まれ変わります。

 悪のリュウカンとしての記憶から、黒幕“時の旧神・クロニカ”の情報を得た火神リュウカンは、破竹の勢いで敵陣を突破。

 ライデンから託された超越的な力と自らが培って来た功夫クンフーとの融合により、ついには不可能と思われたクロニカの打倒を果たし、世界を滅亡から救う事に成功します。(※3)

 メタ的な事を言えば、長年、10までのリュウカンの影は薄い扱いで、ファン人気もサブゼロやスコーピオンに奪われる始末。

 公式ストーリーでもライデンやジョニー・ケイジ一家に存在感を喰われ、主人公(笑)呼ばわりされる有り様でしたが、ここに来て良い所を総取りしていきました。

 これもまた、長年続いたシリーズならではの特権“原点回帰”と言う切り札だったのかも知れません。

 今回、リュウカンがここまで輝いたのは、長年の(メタ的な)不遇があってこそかなと思います。

 

 他、こまごまとした所では、バラカ・キタナ・スコーピオンまわりが印象に残りました。

 毎シリーズ、悪側の尖兵としてのイメージしか無かったバラカが、ヒーロー側についたと言う事も驚きでした。

 魔界の生まれであり、先述のリュウカンと恋仲でもあった王女キタナが、魔界の王位を継承し、バラカの民族の保護を約束する事で実現した、まさにリアル時間三十年越しの和解でした。

 エピソードの重要度的にはキタナが“カーン(魔界の王)の称号”を継いだ事の方が大きな事なのでしょうが。

 また、先述の「憎しみを捨てて地球の為に戦うようになった現代のスコーピオン」が致命傷を負って死ぬ寸前、未だ復讐に突き動かされる亡者でしかない過去の自分に遺志を託し、改心させたシーン。

 まさに自分を信じる(物理)とはこの事かも知れません?

 

 9にて、ライデンが歴史を変えようと足掻き、リュウカンが堕落した不死者となってしまった所からはじまり、どんでん返しに次ぐどんでん返しで、綺麗な大団円に着地する様は見事と言うほかありませんでした。

 やはり前回、ここでバカゲー呼ばわりしてすいませんでした。

 大袈裟な表現になりますが、ファンサービスの理想形の一つですらあるのかも知れません。

 

 

 ……しかし、文句無しに、シリーズ自体が綺麗な着地を決めたと思われていたこのモータルコンバット11、どんでん返しはまだ終わっていませんでした。

 

 

(※1)

 後述しましたが、前作(の正史で)一度死んでも、ゾンビや不死者となったり、ともすれば説明もなく何事も無かったかのようにピンピンしているケースが割りと多かったりします。

(※2)

 一方、10にて悪神の邪気を浄化する際、ライデン自身がそれにあてられて正気を失いやすくなっていると言う、やむを得ない事情もありますが。

(※3)

 ……と言うのは、実のところ正確ではありません。

 元々リュウカンの居た時間軸はクロニカに消し去られ、そう言う意味では滅びてしまっています。

 しかし、クロニカを打倒した後、リュウカンが新たなる時の番人となる事で世界が再誕しました。

 護れはしなかったが、最終的には救った、と言う所でしょうか。

 この、元々の勝負で敗けたと思わせて別の勝利条件を開示する手法も、一つのテクニックと言えるかも知れません。

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