モータルコンバットの思い出

※今回取り上げるゲーム作品において、ゴア描写や残虐な表現への言及が多々あります。ご注意下さい。

 

 その昔、アメリカで爆発的な人気を博したシリーズです。

 要は日本のストリートファイターのような2D格闘ゲームなのですが……最大の違いと言えば、各キャラクターにフェイタリティ(和訳:究極神拳)と言う技が用意されている事です。

 これは何かと言うと、KOした対戦相手を、あの手この手で惨殺すると言うものです。

 勝敗が決した後なので、ゲーム性そのものには全く無意味な要素ではあるのですが。

 当時の(主にアメリカ本土の)ちびっこにとっては、パイオニアであるストリートファイターにはないクールな演出に映ったのでしょう。

 ともすればストリートファイター以上の人気を獲得するに至ったそうです。

 

 技の内容的には、当然使用キャラクターによってそれぞれ個性が違うのですが。

 シンプルに首を切り飛ばしたり、頭から真っ二つにしたり、高圧電流を浴びせたり、頭から喰ってしまうなど。

 また、対決の場所が屋上だったり強酸のプールだったりした場合、そうした地形を利用出来ると言う懲りようです。

 この辺はまあ、何となく分かりやすい部類かと思われますが。

 ほか、何の脈絡も無く龍に変身して喰ってしまったり、唐突に巨大化して踏み潰したり、普段マスクで覆い隠した焼けただれた素顔を見せてビックリさせてショック死させたり、ゲームセンターの筐体きょうたいを頭上から落として圧死させたり……酷いものになると無数の爆弾をばらまいて地球ごと相手を吹き飛ばしてしまうものもあります。(※1)

 

 物語自体は、地球と魔界の覇権争いを格闘技大会で決める……と言う、割合王道でしっかりとしたバックボーンがあるのですが、実写を雑に取り込んでカクカクぎこちなく動くキャラクターが、コミカルな“究極神拳”でカクカク殺られる様は、直接見るとシュールな趣があります。

 爆殺されて五体バラバラになるのはまあ良いとしても、飛び散る腕や脚の数が明らかに二本以上あったり、

 そもそも総勢30人超のプレイアブルキャラクターのうち、色違いニンジャが7人・色違いサイボーグニンジャが3体・色違いくのいちが3人、と言う経費削減が見え透いたやる気のなさだったり。

 そんな、バカゲーと紙一重のノリから始まったシリーズですが、毎回ヒットにヒットを重ねて、今やXboxの最新機器で11作目が出るくらいのビッグタイトルに成長しています。(※ただしアメリカ本土に限る)

 するとやはり、ストーリーや設定も洗練され、以前ここでも考察した「シリーズを重ねるごとに無難な所へ収束していく」現象が感じられました。

 

 思えば、ストリートファイターシリーズにしても、格闘技大会と言う背景もあってか、試合後の勝者の一言コメントが全体的に、必要以上に刺々しかった印象です。

「戦士としての誇りがお前には無いのか!」

「すべての男は私の前に跪くのよ!」

「ロシアの大地をお前の血で染めてやろうか」

「お前とは身体の鍛え方が違うのだ!」

 また、近作では堅い口調の人物(米軍少佐のガイルなど)の口調がかなりフランクだったり、野生児ブランカが知的なレトリックを多用したり、敬虔な仏教徒のステレオタイプのようなダルシムが倒した相手を上から目線罵ったりと、この頃は近作のキャラが固まっていなかったのだろうと思わされます。

 5などの近作では、いずれも見た目どおり(野生児っぽい、軍人っぽい、敬虔な仏教徒っぽい)性格に落ち着いていると思います。

 何だかんだで30年以上も同じような顔ぶれで続いたシリーズであると考えると、黎明期のキャラを維持するのがいかに難しいかと言う事の一つの証左なのかもしれません。

 

 本題のモータルコンバットに話を戻しますが。

 こちらもキワモノ然としていた初代から見れば、9や10は、世代交代や家族をテーマとし、複数勢力の思惑が複雑に絡み合う洗練されたストーリーに落ち着いた感があります。

 ……が、究極神拳(フェイタリティ)で攻撃されなければ、逆に何をされても(例え首や背骨を折られても)何事も無かったかのように戦い続けたり、そもそも前作で完全に死んだ筈の人物がしれっと歳を取って登場するなど“モータルコンバットと言う名の記号”に自覚的な節も所々で見受けられました。

 あるいはこれが「初志を忘れない」好例でもあるのかも知れません。

 また、初代モータルコンバットからの登場人物である闘うハリウッドスター(ジョニー・ケイジ)が、必殺技を出すと身体が何の説明も無く緑色に光る事(実写取り込みキャラクターに緑色を付けただけの、どう考えてもやっつけ仕事のエフェクト)が当時のユーザーからも突っ込まれて居ましたが。

 20余年の時を経て発売された11作目において、悪神を前に窮地に立たされた彼の娘(キャシー・ケイジ)もまた緑色に輝き、悪神を下し、あの輝きは一族に受け継がれるものだった! と判明した時の感慨は相当のものでした。

 いや、結局、娘に継承されているからと言って、何の説明もない原理不明の謎パワーでしかないのに変わりは無いのですが。

 

 モータルコンバットに限らず、長年続いた格闘ゲームの設定やストーリーの歴史を追ってみるのも面白いものです。


(※1)

 当然それをやった本人も消し飛ぶわけですが、その後、何事も無かったかのように次の対戦に移るのも相まって最も本作を象徴している技だとも思います。

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