昇進と創作
以下は私の現在勤めている会社の一例ですが、社員の待遇は“等級”と“号棒”で管理されており、一人一人に可視化されています。(ただ、これらの意味する所を能動的には教えてはくれませんが)
世のあらゆる職場に当て嵌まる訳ではない点が恐縮ですが、これは公務員と同じ算出方でもあるそうですので、それならば、割合一般的なモデルだろうと思いご紹介しました。
大雑把に言うと“等級”は昇進を決めるもので“号棒”は昇給を左右するステータスになります。
近況ノートで、後から来た人(9歳上・部署違い)が先に昇進した事で勝手に腐って、この期に及んで等級が可視化されていた事を思い出して勝手に納得した……と言う様を読んで頂いた方には、それと被る内容も出てきてしまいそうですが。
例えば係長になるにしても、等級が一定以上になっていない場合、どれだけ頑張って成果を出しても「その年度では」昇進出来ません。
ここでは仮に係長昇進の条件を4等級として、私の前年度の等級が3でした。
(※プライバシー保護のため、数字や役職の設定はフィクションです)
大規模な人事異動があり、元の係長が本部へ配置された結果、元のポストが空席になってしまいました。
結果、私しか業務を引き継げる人員が居なかった(※1)為、係長の仕事をそっくりそのまま引き継いで現在に至ります。
等級の事をすっかり忘れていた時点での私の感覚としては、事実上係長と同じ仕事をしており、部署自体も所属長不在……となると昇進があるものだろうと勝手に思ってしまったわけです。
よくよく考えれば、私は全くの畑違いの業種から転職してきて、何らかの役職を持っていた訳でもないヒラでした。初期の等級はかなり低かった筈です。
そして私の別エッセイ「ブラック企業脱出マニュアル」を書き上げたのがまだ二年ちょっとである事を考えると、キャリアは皆無です。
一方で、先述の「後から入ってきた人」は、恐らく同業界から入ってきて、年齢と実際の仕事振りを見るに、前職でも何らかの役職についていた可能性は高く=初期の等級が私よりも遥かに高い所からスタートしている筈です。
裏を返せば「係長以上に活躍してスピード昇進!」なんて事が通る組織の方が、どんぶり勘定のブラック組織である場合が多い筈です。
規律が存在しない・あったとしても社員を脅しつけて規律を破るのがブラック組織のブラックたる所以である事は身をもって知っているので、そう言う意味では最終的には納得が行きました。
本年度から、その4等級には上げられていたので、後は組織の情勢と出方次第で来年度にこちらも判断する、と言った所です。
ブラック組織と言えば、私が辞めたブラック前職の会社は、この辺りがあからさまでした。
退職時に25日残っていた有給の消化を拒否し「これ以上騒ぐと社長が君をクビにする。円満退社でないと次の職場で都合悪いのでは?」と言い放つような、ある意味で無防備な会社だったので、組織として等級だの棒号だのと言う上等な概念があろうはずもなく。
辞める直接の原因となった上司の肩書きが“リーダー”だったのですが、これは公的な扱いとしては単なるヒラと同義です。
さも役職であるかのように演出されているのは、シフト表などの社内文書の中だけのものです。
「ここだけの話、俺は近いうちに昇進する」
と教えられた矢先に、このオチです。
今からすれば、この時点で会社に見切りをつける材料は随所にありましたが、無事に転職できた今だから言える事でもあります。
このブラック上司も、端から見ると勤続年数的にも業務内容的にも、素直に主任くらいにはつけてやっても良かった筈ではありました。
まさしく“リーダー”の無知につけこんだ人件費削減の模様を見せられていた訳ですが、組織としての面子よりも目先の小金を追うのに一杯一杯の組織と言うものはこんなものです。
面子と言うのは見栄の問題ではなく、信賞必罰や秩序の保持をきちんと出来ているかのステータスです。
「よし、あいつは有能だから昇進させよう!」
とは、
「有能な奴を安く使い倒したいから昇進させないでおこう」
と、ある意味で同義です。
そんなわけで、昇進させるにしてもさせないにしても、きちんとした組織ほど極端な動きをしない構造をしています。
ここでようやく創作論らしい例えが出せますが、軍隊の階級なんかはその最たるものでしょう。
お国と言う最上位の組織の膝元で動くのですから「20歳にもならないうちにトントン拍子で大佐に!」等とはいきません。
パソコンのソフトやネットコンテンツのバージョンでも2.0や2.3と言う表記を頻繁に見ます。
これは、機能の一部を改良するなどのマイナーチェンジが行われると、小数点以下の数字が上がります。
それを繰り返して、バージョンの1の位が“3”と呼べるまでにバージョンアップされて初めて、上位の3.0に昇格されます。
昇進と言うのは、感覚的にはこれのようなものかも知れません。
また、現実世界の話に戻りますが。
現代の昇進には“方式”と言うものもあり、大きく分けて二種類あります。
それが“入学方式”と“卒業方式”です。
無論、これらは、言葉通り組織や学校に入ったり巣立ったりすると言う意味ではありません。
先に卒業方式から触れますが。
これは「今の役職から昇格するだけの実績」を基準として昇格させる方式です。
一般的には、それこそ主任や係長クラスまでの昇格に多いとされる方式です。
一方で入学方式とは「その役職に昇格する実績」を基準としています。
これは部長以上のクラスや幹部クラスに多いとされる方式です。
一見して差が分かりにくいので、こう言い換えてみます。
「高校は真面目にやれば大抵卒業出来るが、東大の入学は至難である」
と言うのと同じかと思われます。
ゆえに、創作の世界で末端の役職者や小隊長クラスの人物が無能に描かれている事が多いのは、あながち間違いでもありません。
一兵力として部下より優れていても、統率力や教養が伴わないケースは世の中に多くあります。
一方で、将校や企業幹部を無能に描く場合は少々、注意が要ります。
まともな組織であれば、よほどの事が無ければ“入学方式”の壁に弾かれる筈だからです。
私の前職場のように組織そのものに教養や力が無いか、よほど「昇進にのみ特化した」能力が高いか、のどちらかになりますから。
自衛隊などでは、次の階級へ上がるには、やはり年数とキャリアの相場があるそうです。
それらの日常的な評価が一定水準以上、かつ、昇進試験が必要なのだそうです。
主役や人物の昇進ひとつとっても、考えることは沢山あるものです。
(※1)
詳しくは、私の更に別エッセイである「パワハラ予防マニュアル」(脱出マニュアルとは別)を読んでいただければ分かりますが、簡潔に言えば「弱いものいじめばかりしていたら、同期にも後輩にも追い抜かれて窓際に追いやられた先輩」です。
私よりも五年もアドバンテージがあったので、この人が真面目に地道にやっていたら、私は今の立場に無かったわけです。
そう言う意味で「実質競合相手が居なかった」「係長が異動した」と言う偶然が重なった結果であり、私の実力で取った立場とも言い難い所はありました。
なお、この先輩は「俺は上に上り詰める」と豪語して憚らないのですが、組織として懇切丁寧に可視化している自分の等級をちゃんと見ているのかは謎です。
自分が「少尉になるまで、どのくらいの位置に居るのか」が把握できてない人に「大佐になるまで」の道のりが見える筈もありません。
また、窓際に追いやられたと言うのは、言い換えれば「この人物に等級を上げる余地を与えない」とも言えるのかも知れません。
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