クトゥルフものを書き終えた感想あれこれ
個人的には、クトゥルフものできっちり長編を書き上げたのは、先日の東京ラヴクラフトリゾートが何気に初めてだったりします。
ただ、この“クトゥルフもの”というジャンルは、かなり複雑な代物だと、実際に書いてみて感じました。
今回の作品や、このかなり前に創作論でも取り上げた話において、私は、ラヴクラフトが提唱した
私自身、文学的な知識がそれほど無いので、あまり重い責任は負えかねますが。
例えば“名状し難い者ハスター”が良い例です。
その異様な容貌はさておき、人間が知覚可能で、四大元素の風属性を割り振って定義し、“ハスター”と名状出来ているのです。
女神転生シリーズではクトゥルフやニャルラトテップを仲魔に出来るし、ペルソナ2ではニャルラトテップが積極的に人間社会に首を突っ込んで暗躍し、戦えば倒せてしまいます。
どちらが良い・悪い、と言うつもりはありませんし、別に相克する物でもないと思います。
作中では、熱狂的なラヴクラフト原理主義者と、ダーレス以降のクトゥルフ神話を好む人物とを、あえていがみ合わせて見ましたが。
色々な説がありますが、ラヴクラフトはダーレスを嫌っていたとも、逆に、ダーレスの体系付けたクトゥルフ神話に喜んで参加していたとも聞きます。
繰り返しますが「別物ではあるが、排他的にとらえる必要もない」と言うのが、私の見解です。
とにかく、ラヴクラフトが最初に提示した宇宙的恐怖と言うのは「人間には言語化不可能な高次元に対する恐怖」かと思われます。
誰しも、宇宙の事を悶々と考えて、怖くなった経験はおありかと思われますが。
あるいは、昆虫のアリさんが人間の知識を正しく理解してしまったら、その精神はどうなってしまうのか……という事です。
いつ踏み潰されるか、人間の子供が巣穴に水を流し込むのかわからない。
それを理解できないからこそ、アリさんは平穏な精神で日々を生きられるわけで。
無宗教の理神論者である私としては、ラヴクラフトの気持ちは(多分)良くわかるつもりなのですが、この怖さを物語として伝達するのは非常に困難であるという事です。
それに対し、ダーレスが善悪二元論や四大元素の概念を盛り込んで「人間にも知覚出来るように翻訳してくれた」からこそ、昨今のクトゥルフ人気はあるのだろうと思います。
今回、東京ラヴクラフトリゾートは、正確に言えばダーレス以降の“クトゥルフ神話”をモチーフとしています。(※1)
舞台がVRゲームでもあるので、尚更、プレイヤーが取っつきやすい設定でなければいけません。
雑魚敵に
タワーオブ・ヨグ=ソトースと言う絶叫マシーンに乗れば、気軽にアトラクション名通りの存在を観測して狂死する事も出来ます。
もうひとつ、皆で共有している世界観、作中では「誰の解釈も間違いではない」と言う柔軟さも、ジャンルの強みかなと感じました。
調べてみると、ラヴクラフトがゴーストライターの仕事で嫌々書かされたと言う“ラーン=テゴス”の話や、
ググってもたったの5件しかヒットしない神話生物“ラニクア・ルアフアン”(深きものとイルカのハーフ)など、まだまだ面白いネタが埋もれていました。
後者のラニクア・ルアフアンに関しては、恐らくは誰か一個人がTRPGに登場させたのが、たまたま大手サイト(pixiv大辞典)に拾われたのでしょう。
レストランや屋台に出てくる飲食物も、基本的にラヴクラフト作品やクトゥルフ神話に出てくるものをイメージしているのですが、たまに本当に神話生物やクトゥルフ神話のいかがわしいアイテムが食材にされている店がまざっています。
「気を付けないと本物をつかまされる」だの「誤って実物を配置された」だのと言う言い回しを書く機会は後にも先にも、もう無いと思います。
ほか、シュブ=ニグラスに独自の解釈を加えたり、深きものどもの応用で“人魚”を登場させたり、火神クトゥグアを呼び出す魔術を巡っての駆け引きなど。
これらがすんなり理解されやすいのも、クトゥルフ神話と言う土台があってこそでしょう。
ある意味でこれもテンプレートの利点と言えるでしょう。
皆が既に固有名詞を知っている、歴史小説にも通じるかも知れません。
近年、這いよれ! ニャル子さんや、クトゥルフTRPGのリプレイ動画などで急速に認知が進んだとされるクトゥルフものですが、もう一歩踏み込んで調べると「発狂要素のあるダークファンタジー」以外にも表現の幅が広い事がわかります。
(※1)
ただ、最後の最後で、ラヴクラフト式宇宙的恐怖の恐ろしい可能性は示唆しています。
このシリーズでは、ほぼ毎回「制作者が想定していなかった、運営AIの進化の予兆」と言う怖い裏テーマを仕込んでいるのですが……今回の運営AIのシステム名はニャルラトテップ。
と、言う事です。
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