ダイスロール執筆

 先日、VRMMOシリーズの新作を完結させました。

「東京ラヴクラフトリゾート」

https://kakuyomu.jp/works/16817330654765284868

 クトゥルフ神話のVRMMOゲームで某夢の国テーマパークを攻略すると言う、どの層を狙ってるのかわからないコンセプトが災いしてか、長らく0PVの状態が続きました。

 その辺りの反省についてはまた別の機会にお話しします。

 

 今回、ダイスロール……つまり、作品中の展開(の一部)をサイコロで決めながら書くと言う試みを行いました。

 これは、クトゥルフの呼び声と言うTRPGテーブルトークRPGから着想を得た手法です。

 クトゥルフTRPGでは、ラヴクラフト作品の「宇宙的恐怖や神性に直面した人間は狂気に呑まれる」と言う特色を“正気度”と言うステータスで再現しています。

 SAN値と言う言葉だけでも聞いたことのある方は多いのでは無いでしょうか。

 ラヴクラフトリゾートでも、この設定を踏襲しており、作中の人物が邪神や魔術を目撃した際に“精神ダメージ”が発生し、その数値は私が実際に振ったサイコロの出目によって決まります。

 ダイスの種類は、おなじみの6面ダイスはもちろん、10面や20面、100面ダイスまで種類があります。

 一方、一度にたったの5ダメージを受けただけで、その人物は何らかの精神疾患を発症します。

(TRPGで言う“一時的狂気”や“不定の狂気”)

 この精神疾患については、私があらかじめリストアップした20種類から、これもダイスを実際に振った上で決めました。

 なお、クトゥルフTRPG同様、現在値の20パーセント以上の精神ダメージを受けた場合、より重篤な症状に襲われる可能性もあります。

 これが実際には10種類。

 TRPGの場合は、一時的(比較的軽傷な)狂気と不定の(重症の)狂気は別々に扱われていた筈ですが、私の作品では同テーブルで判定、つまり重症の時は30種類の中から選ばれる事にしました。

 後は、ラヴクラフトリゾートでのゲームは、運営を管理するAIが常に“交渉”を受け付けており、プレイヤーが自分に有利な状況になるよう、いつでも提案する事が出来ます。

 例えばクエストクリアのためのヒントを得たい場合や、欲しいアイテムがなど、運営AIにお願いして、サイコロでその成否を決めることもありました。

 

 さて、実際にダイスロール執筆をやってみた所感ですが。

 先の展開が思い付かなかったり、もう一捻り欲しい時のアイディアの呼び水としてはかなり有用に感じられました。

 あるいは、お題を決めて、それを起点に小説を書く事にも通じるかも知れません。

 その昔、「キャラクター小説の書き方」と言う指南書を読んだのですが、小説作家の専門学校の講師もしていたらしい著者が、学校に対してTRPGをカリキュラムに取り入れるべきだと強く主張したと言います。

 それにはゲームマスター&プレイヤー、両方の立場からそれぞれ学ぶべき事がある、と言う理由からでしたが、割と近い体験が出来たと思います。

 サイコロの出目次第で、最初に予定していたビジョンが狂った時の柔軟性がまず養われるのではと思いました。

 

 この手法に慣れてくると、何となくサイコロを振る前から、成功した場合・失敗した場合の展開が頭に浮かぶようになってきます。

 そして何となく、成功パターンの方が自分好みor失敗パターンの方が自分好みの展開になる事も予測出来て来るようになります。

 すると、内心で気に入らない結果になった時に、無かった事にしてサイコロを振り直したくなる誘惑にかられるようになりました。

 あくまでも、ゲームではなく小説の方針を決める為のきっかけなので、この辺りのさじ加減は、人それぞれではありましょう。

 いや、他に同じ事をしてる人が居ればの話ですが、そもそも。

 事実、私も、先述した精神疾患20種+重症10種の選定については、前回のものと被った場合はダイスを振り直しました。

 発狂する回数が回数なので、1/20だとか1/30は、結構な高確率だったりします。

 とにかく、この「ダイス結果をねじ曲げたくなる誘惑」と言うのは、ご都合主義や願望の投影を書いてしまうそれと、源泉が同じなのかも知れません。

 発狂の有無については、何事も無かった方が予定通りに話を進められて無難ではありましたが、想定していなかった所で発狂した時は、それはそれで美味しい展開に持っていけました。

 正直、書いていた時も、終わってみれば番狂わせがあった方が楽しかったのも事実でした。

 微ネタバレになりますが、“人魚姫”をモチーフとしたエピソードで、よりにもよって【心因性失声症】を引いた時はガッツポーズものでした。

 

 近況ノートの方でも言及しましたが、ダイスを振っているかどうかは、作品の内外、いずれかで明言しておかないと、変に勘繰られる可能性はあります。

 私が昔見たTRPG動画が、それで荒れていたので。

 その動画に関しては、荒れるのも織り込み済みな印象もありましたが。

 TRPG経験者の方には重々承知であることとは思いますが、これだけサイコロの試行回数が多い世界では、やっぱり“ダイスの神様”って存在します。

 先述の“人魚姫”の事例しかり。

 私のラヴクラフトリゾートでは、明確に「運営AIの化身が宣言のあとサイコロを投げた」場面でのみ、ダイスロール描写であると先に明言してあります。

 VRMMO制の世界というのもあり、肉弾戦、一発一発の成否までダイスに委ねていては、とんでもない文量にもなります。

 

 それでなくとも、この“テンポ”との兼ね合いも、重い課題となりました。

 どうしても、戦闘というコンマ秒勝負の行為と、サイコロの出目を悠長に眺めるという行為とには、ジレンマが生じるものです。

 例えば、魔術行使による精神ダメージのダイスロールを、戦闘後に一括で清算する後払いシステムにする、

 また、その清算模様を「読み飛ばしてもかまわない」と明記したエピソードに独立させる、などのひと工夫は意識しました。

 

 個人的には、かなり推したい手法でした。

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