ファインディング・ニモの感想あれこれ、ピンチの連続を自然に書くには?

※当該作品の重要なネタバレに触れる記述が多々ございますので、ご注意下さい。




 ディズニーアニメ“ファインディング・ニモ”を視聴する機会がありました。

 言わずと知れた、小型魚・カクレクマノミの父子を主人公とした大海原の物語です。

 身体のハンデ、一歩の勇気、仲間意識の構築、自立と子離れ、それによる父子関係の再構築などなど……明快なストーリーの随所に沢山のテーマが詰まっている事が自然と分かるように出来ていますが、その辺りの事はもはや語り尽くされた事かと思われます。

 例によって小説書きの視点からの感想を並べていきます。

 

 とにもかくにも、ピンチが手加減なく襲いかかります。

 冒頭からしてお母さんと、ニモを除く全ての兄弟姉妹になる筈だった卵が根こそぎバラクーダ(オニカマス)に食べられてしまったと言う、ファンシーな絵柄にそぐわぬハードさです。

 その後、父一人・子一人で暮らしていたものの、ニモはダイバーの人間に捕まってしまいます。

(ダイバーにも悪気はなく、ニモが弱っていると勘違いして保護したつもりでもあったようですが)

 結果、遠く300キロ離れたシドニーにある歯科医院の水槽に入れられてしまうと言う「これ、どうやって救出するんだ!?」と思わせられる絶望的な状況に置かれます。

 引き裂かれた後も、父であるマーリンにしろ子であるニモにしろ、災難の連続です。

 まず、父のマーリンがシドニーの海域へ向かうだけでも悲惨な旅路になっています。

 ・サメに追われる

 ・機雷の爆発に巻き込まれかける

 ・チョウチンアンコウに襲われる

 ・海流を見失い、濁った水域で遭難しかける

 ・クラゲのテリトリーに迷い込んで刺される

 ・クジラに誤飲されかける

 ・無数のウミネコに追い掛けられる

 ・仲間のドリー(ナンヨウハギ)が息子ともども漁船に捕まりかける


 また、水槽に捕らえられたニモも、

 ・脱走しようとして循環装置のギアに巻き込まれかける

 ・歯科医の親戚(幼児)のプレゼントにされかける

 ・幼児から逃げようとして診療台に投げ出される

 ・ニモが死んだと勘違いした歯科医にゴミ箱へ捨てられそうになる

 と、こちらはこちらで気の休まる場面が一時もありません。

 

 幸運と同様、ピンチと言うのも作り手の作為が見え透いているとご都合主義になってしまうものですが、この作品は無情な大自然を描いたものであり、である事が、説得力をもたらしていると思います。

 徹頭徹尾、父のマーリンは「海は恐ろしいものだ」と言い続けて来ました。

 冒頭の、父子二人を残して家族が皆食べられてしまった場面が何よりの証明になっています。

 実際、カクレクマノミにとっての大海原というのは、こうした死亡フラグ林立の世界であるのは確かでしょう。

 水槽に囚われたニモにしても、人の手中にある状況で自由を取り戻す事がいかに至難であるかは、我々人類が良く分かっている事です。

 カクレクマノミの一個体でしかないマーリンが遠くシドニーの歯科医院を探り当てるなど不可能に近く、よしんば辿り着いたとしても、何も出来ないであろう事は明らかです。

 

 この絶望的な状況で父子が再会する道を作ったのは、マーリンと出会った海の住人たちから伝播した“噂”でした。

「シドニーで人間に囚われた息子を探す、カクレクマノミが居るらしい」

 これが歯科医院に出入りしていたペリカンの耳に入り、マーリン(とドリー)はニモの居る診療室へと運んでもらう事が出来ました。

 また一方、ペリカンを介して水槽の中のニモの耳にも父マーリンの活躍が伝わり、脱走の為の励みとなります。

 大海原と水槽と言う絶望的な断絶を埋める解法として、非常に巧みであると感じさせられました。

 これには、永きに渡り人間(?)賛歌を一貫してきたディズニーブランドならではと言う側面もあるかとは思いますが、

 ファインディング・ニモから、世界観と言う土台がしっかりしていれば、ピンチの連続はご都合主義では無い、と言う事を学んだ気がします。

 実際、絵柄はファンシーながら、やはり海洋生物の挙動や生態はきっちり再現されていたのではないかと思います。

 

 これらは、大自然や大海原を、山賊の跋扈するハイファンタジー世界や核戦争後の世紀末世界に言い換えても同様かと思われます。

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