ヒーラー(回復役)主人公あれこれ
ヒーラーの定義も人それぞれかと思われますが、ここでは「作中の魔法・スキル行動のおよそ8割以上が回復・
昔、自分がネットゲームでヒーラーキャラを愛用していたせいか、今回、ヒーラー主人公を書くのは(未公開作品も含めて)実に4回目となりました。
●居るだけで人体欠損は書きやすくなる
この創作論の序盤くらいに書いた覚えがありますが、前の戦闘で手足が吹き飛んでも次の話では無かった事に出来るのは、表現の幅が広がるメリットになります。
人体欠損が不可逆だと、おいそれと主要人物に大ダメージを与えられません。
勿論、回復能力の強さ次第ですし、そもそも主人公にやらせる必然性もあまりありませんが。
●ゴールキーパーのような役回り?
たまーに広告で「パーティで粗末に扱われるヒーラー」と言う表現を目にしますが、これもネットゲーム由来の記号の一つかと思います。
如何せん、私がネットゲームを触っていた時期も10年以上前の事なので、当てにしきれない所はありますが、当時はゲーム内でのぼやきを書く掲示板に「固定パーティでポーション扱いされている」だとか「死んだら八つ当たりされた」だとか多く書き込まれていました。
かく言う私にも、後者の八つ当たりを受けた経験は多くありましたが。
死んだらヒーラーのせい、というのはおかしな話であり、それならばヒーラーのMPや回復魔法の回復効率と言ったキャパシティに対して、他メンバーの持ってきた敵戦力(仕事量)は適切だったのか? を考えなければなりませんし、倒し切れなかった前衛や魔術師に同じだけの責任はある筈です。
いかにゲームとは言え、パーティ行動はビジネスや仕事、軍隊行動、スポーツのように、他人と相互に責任が生じるものでもあります。
それこそ「自分と組んで不満があるならポーションを買い込め」と言う事になります。
費用、ポーションの積載量による継戦力、補助魔法の有無。そんな相手方の事情は“戦力外”=ビジネスパートナーとして除外されたヒーラーには無関係です。
お互いに需要がマッチしなかったので、お互いを仲間として選ばなければ良いわけで、立場の上下もありません。
これは、低学年の小学生がサッカーをしていて、点を取られたらゴールキーパーのせいにする様を思い出させます。
この創作論でも何度か触れましたが、ヒーラーへの責任転嫁にしろ、それを受けてSNSなどでぼやく事にしろ、仲間を戦力外通告でクビにする事にしろ、このように稚拙な事が起こるのは、死んでもやり直せるゲームだからこそです。
その“余裕”があるから、自分の生死や生活に直結する敗因を分析不足で有耶無耶のまま処理出来るのであって、生き死にの懸かった“実戦”を書くのであれば適切な描写とは言い難いものです。
プロのサッカーチームが全ての失点に対してゴールキーパーを責める、と言い換えれば、いかに的外れな行為かは分かる筈です。
●主人公にやらせるにはやっぱり地味な役割
千切れた腕が治る様は、初回こそインパクトはあるかも知れませんが、次第に日常茶飯事の光景になります。
と言うより、途中から治療行為全てを描写してられなくなります。
強化補助魔法にしても、直接爆発したり敵対者が千切れ飛ぶわけではなく、視覚的に地味な上に、直接華々しい殺陣を演じるのは、強化された仲間であり、ヒーラー本人ではありません。
ヒーラー(僧侶)が肉弾戦にも対応できるパターンは定番ですが、それもやり過ぎるともはやヒーラーとは言い難い、聖騎士やパラディンの範疇となってしまいます。
時にメイス(僧侶武器の記号)を持たせて近接戦闘をやらせるにしても、“ヒーラー”を名乗らせる限りは剣士などに対する二番手以下にしかなり得ません。
●しかし先日書いた作品では奇跡的にマッチしていた
先日投稿した“若手とシニアと~(以下、若シニ)”の主人公がおさまるポジションとしては、非常にマッチしていました。
まず、この作品の特徴として「主人公“以外”の仲間達の一人称視点である」「主人公の視点“だけ”が無い」と言う点。
つまり、視点選定の特殊なコンセプト上、元より主人公の自己主張が控えめになる作風と「二番手以上になれない」ヒーラーの立ち位置とがお互い邪魔をしていません。
また、語り手は常に前衛や魔術師のものとなっている関係上、ヒーラーが居る恩恵を、受ける側の立場から描写出来ます。
先程のサッカーのゴールキーパーの話でもありませんが、後衛から戦場を見渡せ、敵の殺傷よりも味方の維持と言う攻撃から一歩引いた、パーティの司令塔に最適な立ち位置から、リーダーとしての顔も書きやすく感じられました。
また、主人公らがプレイしているゲーム自体の特殊な“スキルコスト制”とも噛み合っていました。(スキルコスト制の詳細はこの創作論の前回の話をご参照いただくとして)
毎ターン10ポイントぽっきりのコストをパーティ全員でシェアしている中、ヒーラーはおいそれと回復にポイントを回せませんし、前衛や魔術師も考え無しにポイントを浪費するわけにはいきません。
なおかつ、ポイントを使い切らないと次ターンのポイントが補充されないルール上、中途半端に余ったポイントを無理にでも消費する必要があります。
そんな時、仲間を強化する補助魔法や、徐々に傷が回復する
回復魔法や補助魔法一回一回の重みが感じられると同時に、自然、主人公が誰にどの魔法を使うかで戦闘の初動が決まって来るので自軍をリードしている感も出せたかな? と思います。
……とまあ、ここまで特殊な前提が噛み合って、ようやく司令塔らしき立ち位置が確保できたかな? とも言えます。
これでさえも回復魔法自体の陰が薄く、正直なところ、直接登場しなかった回復魔法が幾つかあったりします。
(戦闘後の、描写されてない所でパーティを全快状態に戻してはいるのでしょうけど)
ヒーラー主人公を輝かせるのがいかに難しいかは、過去4作品を書いてきて、人一倍痛感しております。
特に、エタった過去作では「真面目過ぎて、ナチュラルに一人で全てを背負おうとする聖騎士」が、身体能力強化の
当然、そんな性格なので、剣で戦えなくなったのなら……と仲間への攻撃を文字通り「身体で」ブロックしたり、反動で自分も即死しかねない強化魔法で無理矢理剣を振るったりの自己犠牲精神に突っ走ります。
それで失った前衛能力の穴埋めが出来るのであれば苦労は無いわけで、部下からすれば指揮官にそんな事をされればありがた迷惑でしかありません。
他人(読者)とは、主人公に対して頑張りと共に結果も求める筈なので、書いている作者本人としても誉められた行為ではないなと、薄々思いながらの執筆でした。
一方で、そんな無謀を、大人の論理と包容力をもって止めさせる歳上ヒロインの株は相対的に上がったろうとは思いましたが……男主人公をどう動かしても共感出来ない代償の方が遥かに大きかったかと思われます。
その上、戦況をコントロールする司令塔の役回りが別の部下(進撃の巨人のアルミン的なポジション)にあった点もこの男主人公には逆風だった事を、若シニのヒーラー主人公を書き終えて思い返しました。
近年、単純な強さではなくジョーカー的な能力や、賢い戦術家と言う属性にも需要があるそうなので、そちら方面へうまく誘導出来るのであれば、ヒーラー主人公も選択肢として充分ありかとは思いますが、見た目以上の難物となるのは覚悟しましょう。
ネットゲームでは今でも人気の
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