擁護団体

※性懲りもなくフォールアウト4の話です。ネタバレにご注意下さい。

 

 こんなタイトルですが、政治的なコラムではありません。多少は現実のそれに言及するかも知れませんが。

 明確な政治活動に限りませんが、物語において特定の誰か・何かを組織立って保護すると言う事はどういう事なのかを考えていきます。

 

 フォールアウト4にて人造人間擁護組織レールロードに接触、メンバーとして加入しました。(※1)

 地下研究機関インスティチュートが人造人間を地上に放ち、時にはオリジナルの人間を殺して摩り替えてしまう事件が各地で問題になっている背景は、以前説明しました。

 その為、人々は人造人間を恐れ、自分が摩り替えられるのではないか、隣人が既にそうではないのか、疑心暗鬼になっています。

 しかし、多くの人造人間は何も知らず、ともすれば自分がそうである事に気付いていない者さえ居ます。

 しかし、多くの人々はそんな事情など斟酌する事はなく、人造人間が殺されたりする事件も後を絶ちません。

 そんな無実の人造人間を保護し、時には記憶を消し去った上で(誰か別人の記憶を移植する事によってではありますが)新たな人生を与える活動を行っているのが、この擁護組織レールロードと言う事です。

 

 さて、この擁護組織レールロード、発売元であるアメリカ本土において(日本でも?)四組織の中では最も不人気なルートであるようです。

 理由として挙げられるのは、大きくわけて二点。

 

・人造人間さえ救済できれば、人間の犠牲を厭わない点

・戦勝後のビジョンが全く見えない事


 まず、人造人間の為に人間を犠牲にすると言うスタンスについて。

 これについては、非難される理由は明白です。

 人造人間が普通の人間に迫害される根幹には、前述の入れ替わり殺人があります。

 その軋轢があるから種族単位で敵視されていると言うのに、この上、更に犠牲を強いていては、ますます人造人間への風当たりは強くなります。

 人命に多いも少ないも無いのは確かですが、一人の人造人間を救うために一人の人間を殺していては本末転倒です。

 目先の人造人間の為になった、と納得して、人間一人の死や、更なる争いの芽を省みない態度の事を、世間では“自己満足”と言います。

 レールロードと言う名前からして、かつての黒人解放運動“地下鉄道”が元ネタであると思われますが、私が思い浮かべたのはどちらかと言えば、一部の過激な反捕鯨団体や、一部の極端なLGBT啓発活動でした。

 加入時にも「人造人間の為に死ねる」と言う事を半ば誓わされる事に、どうにも違和感を覚えました。

 

 また、保護した後に記憶を消し、別人の記憶を移植して人間に紛れ込ませると言うやり方は、端から見て入れ替わり事件の元凶インスティチュートと全く同じことをしています。

 しかも、救われた人造人間本人が真実を忘れ去ってしまう為、予期せず正体を自認するか他人に見破られると言う悲劇の温床にもなりかねません。

 また、実際に他勢力での任務に、野盗グループのボスになってしまった人造人間への対処と言うものがあるのですが、これは擁護組織レールロードによって新たな人生を与えられた人造人間の起こした事でした。

 十中八九、“新たな人生”として野盗となったこの人造人間によって、見過ごせない数の人が(あるいは人造人間も)殺されているでしょう。

 しかし、当の擁護組織レールロードは、救済後の人造人間が何をしようとノータッチで、結果を見ればいたずらに野盗グループを増やした元凶としか言えません。

 

 次に、戦勝後のビジョンが全く見えない事について。

 他勢力のうち、軍隊BOS民兵組織ミニッツメン秩序と平和を取り戻すがあります。

 人造人間事件の元凶である地下研究機関インスティチュートでさえ、人類の再定義と再興と言うに基づいて戦っています。

 一方で、擁護組織レールロードが掲げているのは人造人間の救済。前述の通り、助けた後は一切不干渉です。その為に人造人間への理解は一向に得られず、人間との間に更なる溝を広げてすらいます。

 人造人間を助けると言うのは“目的”ではなく“手段”です。

 擁護組織レールロードと敵対し、代表者のデズモデーナを殺害すると、今際の際に恋人か夫と思われる人の名前を呟き「今、そちらへ行く」と言うような台詞があるそうです。

 マサチューセッツ・ボストンの勢力を四分割した一組織の行動原理は、つまりはそう言う事だったのでしょう。

 実際、参謀的な人物には、そうした組織の基盤の弱さを懸念される描写もあったので、制作者はこの矛盾を意図していたのでしょう。

 

 さて、一方でフォールアウト大辞典を紐解くと、これらに対する反対意見もありました。

 組織の性質上、人造人間を救うと言う理念が数ミリでもブレると成立しなくなってしまうと言う事です。

 例えば、救った後の人造人間を放ったらかしにしている点。

 言い方を変えれば、人造人間の新たな人生に干渉してコントロールするのでは、それは宿敵である地下研究機関インスティチュートと同じになってしまうと言う事です。

 救済後、警備員や店員になった人造人間は肯定し、野盗になった人造人間は処罰する、と言うのは、例え大多数にとっての善悪がはっきりしていたとしても、選別出来るものではありません。

 野盗ほど分かりきっているならまだしも、もっとファジーでデリケートな場合はどうするか、と言う問題も付きまといます。

 つまり、擁護組織レールロードにも、本当は「人造人間に”真の平等”を」戦勝後のビジョンはあるのです。

 真の平等と言うことは、どのような行動を取るかと言う可能性と、それによって受けるあらゆる報いを自己責任で負わせると言う事。

 これが人間であれば記憶をリセットすると言う手は使えないので、最大限に平等を与えるとするなら、救済後の不干渉も必要だと言う事には一理あります。

 どちらかと言えば、その後の人造人間を放置している事そのものよりも、放置する事による狙いや意図が分かりづらい事がこの組織の真に悪い所なのかも知れません。

 これはフォールアウトでなくても、創作においてやってしまいがちな罠の一つかと思われます。

 また行っているのが“政治活動”である事は、他勢力と同じではあるのですが、“統治”を前提とした組織ではないと言う点が実は決定的に違います。

 つまり、ボストンを統一した後に統治にまで手を出せば、それはそれで理念がブレている事になり、作品ファンからは別の形で批判の的となっていた事でしょう。

 また、そうした、統治する為の構造が無い組織が統治者側になると、余計に悲惨な事になりがちなのも世の常です。

 

 また、人造人間の為に人間を犠牲にし、度々銃による苛烈な行動を取る点も、他勢力に比べて力が弱いと言う余裕のなさを思えば当然である、と言う意見もありました。

 擁護組織レールロードの本分はプロパガンダや情報戦にあり、実際にゲーム開始当初の軍隊BOSは、悪評を流されたお陰で、現地の理解を得るのにかなりの不利を強いられています。

 戦争をすれば最も弱い勢力とは、汚い裏工作に頼らざるを得ないのは勿論、やり方に選択肢が少ない、と言うのも一理あるとは思います。

 苛烈な行動や卑怯な行動を立場にあると言う事です。

 

 もう少し描写や説明が違えば嫌われていなかったのかな? と、この組織については思う次第です。

 小説の主人公なども、同じではないでしょうかとも。



(※1)

 最後まで所属する気はありません。

 序盤から中盤にかけては、何処の組織に所属しても誰からも咎められず、四組織全てを掛け持ちしてそれぞれの任務を請け負う事も出来ます。

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