神の視点バイアス・おまけ ~ペルソナ4でのケース~
※今回のお話には、ペルソナ4と5の重大なネタバレがございます。ご注意下さい。
文字数のボリューム的に前回の話に入りきらなかったので、こちらに分けました。
事例がフォールアウト4からペルソナ4に変わっただけで、言ってる事自体は前回と大差ないかも知れません。
ご存知の方は読み飛ばして頂いて問題ありません。
終盤“天上楽土”をクリアした後の病院でのイベント~真犯人発覚までの事です。
ペルソナ4は、能力に目覚めた高校生達が団結し、町で起きた殺人事件を追うと言う話です。
その手口とは、被害者を異界に放り込んで殺害すると言う、現行の警察組織では対処できないものでした。
物語終盤、主人公達は生田目と言う被害者を異界に放り込んでいた男に辿り着きます。
しかし対峙の際、主人公にとって従姉妹にあたる小学生の少女を連れ去られ、戦いの巻き添えとなってしまいます。
彼女は生田目ともども病院に搬送されるも、治療の甲斐なく息を引き取ります。
素直で思いやりのある子で、主人公にとっては本当の妹にも等しい存在であり、仲間達にとっても同様でした。
従姉妹の死に沈む暇もなく、生田目の病室が発覚。すぐさま踏み込む主人公一行。
そこへ、彼が再び異界に逃げ込もうとしているのを目の当たりにします。
更に生田目は「これからも人々の“救済”を続ける」と性懲りもなく言っています。(※1)
生田目の逃走を許せば、従姉妹の死は無駄になり、むざむざ更なる犠牲者を生み続ける事になる。
しかも、異界に放り込んで殺害するなど、現行で裁く法律すら存在しない。
生田目に制裁を下すには、どうすれば良いのか。
主人公に提示される選択肢は二通り。
生田目を異界に放り込んで“死なせる”か、落ち着いて考えるか、です。
この話をゲームとして俯瞰していれば一目瞭然なのですが……殺してもろくな事になりません。
実は生田目が「人を放り込んでいた」と言う事は真実だったのですが「救済する」と言うのは文字通り、狙われた被害者を異界に匿う事で、殺人犯から守るつもりでやっていた事でした。
最初の被害者を死なせた真犯人は足立と言う別の男(※2)であり、二人目以降の被害者は、足立が生田目に「被害者が心配なら、その異界とやらに隠せば守れるのでは?」とそ知らぬ顔で仕向けた為に誘拐されていました。
生田目の行動にはいくらか軽率な部分はあったものの、彼もまた足立による被害者に過ぎませんでした。
ここで生田目への制裁を思い止まれば、従姉妹は奇跡的に息を吹き返し、また、事件の真相を追い続ける事となります。
しかし生田目を異界に放り込んでしまえば従姉妹は生き返らず、真相も闇に葬られたまま終わります。
正しい行動を取れば従姉妹が持ち直すと言うのはご都合主義的な作為は感じますが、ポップな学園ものと言う作風上、ベストエンドルートでまで後味の悪さを残されても誰も喜ばないので、やむを得ない所でしょう。
これも、ゲームとして俯瞰すれば分かりきっているのに、真剣にロールプレイに没頭している人ほど引っ掛かる、絶妙なミスリードかと思います。
・最後の被害者が、本当に何の落ち度もない、素直で優しい小学生であった事
・プレイヤー視点から、その子との思い出の密度も濃かった事
・生田目が誘拐をしていたのは真実だった事
・生田目の発言から、自分の行いに疑問を持っていない事
・この瞬間は、生田目の処遇を自分達で決められる唯一の機会であった事
・犯人の罪は、現行の法律では裁けない事
・犯人を野放しにしておけば被害者がまた出るのが明らかな状況だった事
いかにこれがフィクションであるとは分かっていても、初見では生田目が真犯人ではない保証も何処にもありません。
これは初見で生田目を殺してしまっても無理はないと思います。
……と、かつて知人に何気なく発言した所、非常に険のある調子で、
「いや、明らかに初見でもわかるでしょ」
と言われました。
こちらの考えを「生田目は殺されても仕方がない」と言う風に曲解されていたのは明らかだったので、(※3)
上記や前回のように作品として俯瞰している立場について説明したのですが、
「足立が裏で大笑いで、従姉妹も死んだままだね。そんな結末が嬉しいってわけ?」
と平行線。
だーかーらーそうじゃなくて! と、大変不毛なやり取りが延々と続きました。
真っ向から意見や思想が違う上で否定されるのであれば納得はいくのですが、そもそも前提を誤解されたまま突っかかられる事ほどフラストレーションが溜まる事もありません。
ともあれ。
今回、ペルソナ4の事例を挙げた動機の9割がたが、この知人とのやり取りが、この上なく的確な資料になりそうだった事にありました。
読者・プレイヤー視点によるバイアスと言うのは、ここまで自認が難しく、一度囚われると根深いものだと言う事です。
それも、この作品のようによく練られた話ほど、そのリスクも高くなるのでは無いでしょうか。
ペルソナシリーズも、フリーシナリオではないのですが、総じてロールプレイを重要視しているシリーズです。
続編の5でも「自分ならこうする」と考え過ぎるとバッドエンドを踏む罠がありました。
逮捕された自分を取り調べている検事を味方に付けなければならないシーンだったのですが、私は初見でこの検事の言う通り、仲間の存在を教えてしまいました。
すると検事が「仲間を売るなんて、その程度か」と匙を投げて退出、協力者を得損ねた主人公は秘密裏に始末されてしまいました。
いや、ついさっきまで真相を知りたいと熱心に追及してきていたのに、こんな掌返しを食らうのは、少々悪問ではないかと思えましたが……。
横で見てた妻(自分だけ攻略サイトを見ながら)「何考えてるの、ゲームオーバーになって当然の選択でしょ」と言われましたが……。
(※1)
正確にはこの救済発言、本人の口ではなく“シャドウ”と言う、彼の内面=ヒーロー願望が具現化した霊体の発言である事が、また巧みなトラップです。
この作品でのシャドウは、抑圧されたコンプレックスや欲望が極端に誇張された存在である事も、そこまでで散々描写されており、その人の本心の全てではない……と言う事を冷静に考えればわかるように出来ています。
(※2)
刑事で、主人公の叔父の部下でもあり、家族ぐるみの付き合いがあった男。
その為、主人公とも割合、親交がありました。
(※3)
ただ、真実や真意はどうあれ、私は生田目が制裁を受けても文句は言えないとも思います。
バッドエンドでもたらした結果を思えば、やはり、異界がどういうものなのかをろくに検証せずに他人を放り込んだ時点で軽率と言うほかありません。
車の事故に例えると明らかでしょう。無知による過失は罪です。
勿論、この考えも私刑の肯定ですし「普通の人間が殺人を行う為に妥協する」典型例(大切な人が殺された・見逃せば再犯が起こるから自分で手を下すと言う)考え方なのも、自覚は必要ですが。
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