フォールアウト4の思い出 ~秀逸なルート分岐~ その1

※今回のお話には、フォールアウト4における、最重要のネタバレが含まれます。

 閲覧の際はご注意下さい。

 


 ゲームのルート分岐と言うと、一見して小説と言う媒体には縁が薄そうだと思われるかも知れませんが……。

 プレイヤーを悩ませる分岐と言うのは、ジレンマや窮地を書く上でのヒントとなり得ると思います。

 

 フォールアウト4では、最終核戦争のさなか、プレイヤーが人類保持の為のコールドスリープに入る所から始まります。

 しかしコールドスリープから目覚めた直後、まだ生まれたばかりの息子が何らかの組織によって連れ去られてしまいます。

 追い掛けようにも、再びコールドスリープが起動し、再度冷凍されてしまいます。

 その後、核戦争で滅んだ200年後の世界に降り立った主人公は、息子を取り戻すべくシェルターから旅立ちます。

 

 野盗ヒャッハーや、放射能によって変異したミュータントの跋扈する末法の世界。

 現在のアメリカ(だった地域)では、三つの勢力による三つ巴の抗争が水面下で繰り広げられている事がわかります。

 

・何故か、人々を殺害し、被害者と瓜二つの人造人間と摩り替えると言った暗躍を行う“インスティチュート”(以下、研究機関)

・その人造人間にも人権があるとして保護活動を行う、特殊工作部隊から成る“レールロード”(以下、擁護団体)

・反対に、人造人間やミュータントと言った世紀末の産物を敵として殲滅を行う軍隊“BOSブラザーフット・オブ・スチール”(以下、軍隊)

 

 擁護団体と軍隊とは「人造人間を生かすか殺すか」と言う理念で対立しています。

 一方で、人造人間を野望の為の道具とする研究機関と、擁護団体も対立関係にあります。

 そもそも人造人間の存在自体を認めない軍隊と、研究機関との関係は言わずもがな。

 まず前提として、この三者は、絶対にわかり合えない事がはっきりしています。よくある「一時的に手を結んで、先に研究機関を倒す同盟」などを組む余地すらありません。

 今回は、主人公が所属し得る三大組織のみを挙げましたが、(※1)

 物語開始当初、研究機関については主人公にとっても完全に敵です。

 何故なら、息子を拐った組織が、この研究機関である事がすぐさま発覚したからです。

 

 研究機関に乗り込むにはテレポート装置が必要となります。

 これを実現するには、他勢力の協力が必要です。

 それでなくとも、軍隊では正義感溢れる上官が主人公を手厚く保護してくれ、入隊する・しないに関わらず、厳しくも優しく導いてくれます。

 擁護団体でも、個性的ながら信じ合える仲間と巡り合い、同じ目標に向かって共に進む事となります。

 そうして、いよいよテレポート装置は完成し、武運を祈ってくれる仲間達を背にして、敵の本拠地へ乗り込みます。 

 当然、四方八方からの銃撃によって出迎えられると思われていた筈が、そうはなりませんでした。

 あまつさえ、組織の最高責任者を名乗る初老の男が、丁重な態度で主人公を出迎えます。

 前口上もそこそこに、彼から発せられたのは、

 

「私はあなたの息子だ」

 

 拐われ、ずっと追い求めていた息子。

 それが、彼を拐った組織の最高責任者となっていた。

 冒頭、息子が連れ去られ、再びコールドスリープが作動した後、実に50年の月日が経過していたのです。

 息子が組織に誘拐された理由とは、完全なる人造人間の開発にが必要であった為。

 そして、それを統べる指導者を得る為でした。

 

 息子が自ら組織を率いる事を決めたのは、組織の恣意的な教育によるところも大きいでしょう。

 それ以外に人生の拠り所が無かったであろう事も、想像に難くありません。

 しかし、案内されるまま彼らの本拠地を巡ると「血も涙もない、正体不明の暗躍組織」と言う先入観が揺らぎます。

 地下に築かれたそこは、世紀末状態の地上とは比べ物にならない程に清潔で、食べるに事欠くこともない、理想郷でした。

 人々は、衣食住に満たされた上で勉学と研究に励み、子供達が無邪気に走り回っています。

 最初から指導者として定められていたとは言え、自分を拐った世代の旧幹部をまとめ上げ、あるいは排斥し、ここまでの文明圏を築き上げたのは、息子自身の手腕でもありました。

 インスティチュートの指導者は、父親(あるいは母親)である主人公が絶対的な味方である事を疑いもせず、共に地上を平定し、人類の再興を志してくれるものだと信じきった上で、この地下居住区に迎え入れてくれます。

 この時点で、主人公はいやがおうにも選ばねばなりません。

 地上の仲間達をいずれ殲滅するか、自分を信じて疑わない息子をいずれ裏切り、殺すのか。

 

 ここでのポイントは、主人公の行動原理であった、

「息子を助け出す為に組織を打倒する」

 と言う大前提が覆ったと言う事です。

 それも、主人公が順当に、セオリー通りに行動した結果、知らず知らずのうちに後へ退けない状況に追い込まれていたと言う事です。

 この「前提からして間違っていた」と言う手法は、以前ご紹介した虚淵玄作品などでもよく見受けられるものです。

 

 

(※1)

 所属先の候補としてもう一つ、“ミニッツメン”と言う、有志による民兵組織があります。

 これについては、最初から主人公を最高責任者に据えてくる関係もあり、唯一、全てを自分の責任で行えるルートとも言えるかも知れません。

 ただ、ぽっと出の筈の主人公が指導者に抜擢されるような組織であることから想像出来るように……ヒャッハーとの抗争に敗れて凋落ちょうらくした勢力です。

 ゲーム開始時点ではほとんど崩壊しており、影響力が無いに等しい点と、主人公の采配で動く性質上、今回の話からは除外しました。

 ただ、誰かを裏切って追い落とさねばならない点は、他ルートと変わりありません。

 

 また、ヒャッハーの中にも比較的統率された組織はありますが、世界=物語の大局に対する影響力は無いので、こちらも除外しました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る