「クロコダイーン!」 タンク・盾役に対する認知の推移 「ぐわああぁ!」

 サブタイトルは、ドラゴンクエストをモチーフとした少年漫画・ダイの大冒険が元ネタです。

 クロコダインは屈強なリザードマンであり、パーティ随一の生命力をもって劇中の死闘を生き抜きました。(※1)

 

 しかしこのクロコダイン、私の記憶が確かであれば、ほんの数年前までは「ぐわああぁ!」と叫びながら敵にやられるシーンの画像を詰め合わせるような、ネタ扱いを受けていた印象です。

 連載当時、私の学年でも、クロコダインは二軍・かませ犬のような評価をされていました。

 確かに、攻撃面においては今一つで、華々しい必殺技や魔法に乏しく、主役の成長に追い付けなかった印象です。敵の大ボスに決定打を与えた事はほとんど無かったように記憶しています。

 しかしつい先日、クロコダインが実はパーティに不可欠な存在であった事を再評価する話題を見付けました。

 今回のサブタイトルでおよそ予想は付いたかと思われますが、彼を“タンク役”あるいは“盾役”として見ると言う発想が、世の中に生じた為ではないかと思います。

 平成初期のちびっこ達には、こうした“タンク”と言う概念がなく、故に彼を単なるやられ役と誤認してしまったのでしょう。(※2)

 

 リスペクト元のドラクエシリーズを振り返ると、漠然と「隊列の前方は狙われやすい」と言った法則があり、戦士系を前に置くのがセオリーではありましたが、それも絶対ではなく、前衛に敵の攻撃が行ってくれるかどうかは運任せな所がありました。

 能動的に仲間の攻撃を肩代わりする技が実装されたのは、6からだったと思います。私は当時、小学校の高学年だっと思います。

 旅の武闘家・ハッサンと言う、最初の仲間にして終始前衛最強クラスだった男が“におうだち(仁王立ち)”と言う「パーティ全体のダメージを一人で全て引き受ける」技を修得したのですが、ちびっこだった私は、これを殆ど使いませんでした。

 ハッサンはあくまでも火力要員としてしか見ておらず、頼れるマッチョマンの華々しい活躍を、打撃にしか見出だしていなかったのです。

 やはり、他の仲間が50とか60ダメージをチマチマ稼いでる横で一人だけ100ダメージオーバーを叩き出していると、尚更、オフェンス面に目が行くものです。

 また、このにおうだち、昨今の盾役の多くがそうであろうように、強化バフ魔法や属性装備によって、使用者自身の安全確保と言う計算を万全にした上でなければ死ぬだけです。

 全国のちびっこ達を数多葬り去った、序盤の壁ボスでもある魔王ムドー戦。

 私もまた何度も返り討ちに遭いながら試行錯誤をしていました。

 八方手を尽くそうとして、ハッサンの仁王立ちに目が行ったのは必然だったのでしょう。

 繰り返しますが、この技はします。

 ムドー戦は4人パーティなのですが、ブレスや稲妻などの全体攻撃が激しい事にも定評があります。

 結果、4回分のダメージがハッサンに集中し、瞬殺されると言う結果に終わりました。

 セオリーから言えばハッサンの装備などでブレスや稲妻に対する守りを固めないと成立しない作戦なのですが、序盤かつ色々と制約のあるこの時期では、装備もスキルもろくに揃わないのです。

 その時のイメージが悪すぎたのか、ますます私は仁王立ちを使わなくなってしまいました。

 ドラクエには“みがわり(身代わり)”、あるいは、かばう(庇う)と言う、単体の味方を対象とした技もあります。

 こちらは敵が使ってくる頻度も多く、ピンポイントで瀕死の味方や魔法使いを守ると言うわかりやすさはあったと思います。

 最初に覚えるのが仁王立ちではなくこちらであったなら、幼少期の私の、タンク役に対する認識も違っていたのかも知れません。

 

 ドラクエ7は未プレイ、8では身代わりも仁王立ちも登場せず。

 私個人が初めてタンク役を認知したのは、最近何度かご紹介してきたネットゲームからでした。

 恐らく、世の中でクロコダインへの認識が変化し出したのも、この辺りからではないでしょうか。

 身代わりや仁王立ちのような、目に見えたスキルがあったのもさることながら、ネットゲームでは基本的に各々の立ち位置を考える必要がありました。

 基本的に、脆く、詠唱のある魔法使いや僧侶がモンスターの攻撃を受ける状況自体があってはならない事でした。

 今風で言えば、前衛が“ヘイト”を自分に集めなければならないのです。

 漫画では他人事だったクロコダインの被撃を、ネットゲームで体験する事によって、見直す機会があったのだろうと思います。

 話はドラクエに戻り、その後、スキルのシステム面でいくらかネットゲームの影響を受けたであろう9作目。

 この作品は、主人公も仲間も、プレイヤーが容姿や職業を作るキャラメイク制でした。

 仁王立ちを実行するキャラクターの防護手段が豊富になり、この頃には私自身も、流石にタンク役の重要性を理解していました。

 特に、9ではキャラクターの職業ごとに一定の条件下で使える必殺技が存在し、一定時間、あらゆる攻撃に対して無敵になるものがあります。

 これと仁王立ちを併用する事によって、パーティの被害を確実にゼロにする戦術が生まれました。

 文字だけ見ると反則にも思えるコンボですが、上位の隠しボスは、ここまでしてようやく勝ち目が見えるようなバランスになっています。

 

 その後、プレステ4の購入に伴い目下の最新作である11作目をプレイ。

 再びキャラクターが固定の人物となった本作。

 スキル習得に、各人物の性格や生い立ちがそのままカテゴリとなっています。(勇者、曲芸、お色気など)

 タンク役になる(事が可能な)仲間にも“騎士道”や“博愛”と言ったカテゴリに、これらのスキルが振り分けられます。

 成り行きで仁王立ちを修得していた6では、他の技に埋もれてしまいがちだったのが、わざわざ一大カテゴリとして用意されている11ではプレイヤーが自ずとそれらの有用性に気付きやすくなっています。

 また、その構成上、習得は自分の意思で行うので、使わずに終わると言う事もまずあり得ません。

 更に、11では仁王立ちそのものに使用者の防御力を高める効果が付いており、本人の安全確保がやりやすくもなっています。

 仲間4人分のダメージを引き受ける事自体に変わりはありませんが、防御力に補正が入る事で、リスクとの駆け引きはそのままに、しかしトータルでは得をすると言う絶妙なゲームバランスに進化しています。

 これもまた、ネットゲームから“タンク”と言う概念が洗練され、ドラクエシリーズにも反映されてきた結果なのかも知れません。

 

 クロコダインのように、ある時点から不自然に評価が一変したものに目を向けてみると、面白い歴史が見えてくる事もあるようです。


 今回のタンク役考察にて、私自身や世の中の思う主人公の強さ(見せ場)が、勇者のような万能最強タイプから、特化型・マイナー型・オンリーワン型へと変移していった事も書こうと考えていたのですが、そちらのボリュームが思いのほか嵩みそうなので、次回に繰り越そうと思います。


(※1)

 ドラクエリスペクトの漫画らしく、ゲーム風の能力値ステータスも公開されていたのですが……レベル30ぽっちの時点で体力がカンスト寸前・HPが500超えという、3あたりのプレイ経験者がちゃんと読めば、異常なタフネスである事がわかるようになっています。

(※2)

 大ボス的な人物が、渾身の奥義を二度も耐え抜かれて驚愕している描写などから、作者は盾役を立派なポジションとして書いていた筈です。

 原作のゲームバランスに当てはめると、奥義が賢者などの後衛に当たっていた場合、死者を出していた筈です。

 また、クロコダインが二発受けた事で、この時の敵はMPを消耗して技を撃てなく(下位の技で妥協せざるを得なく)なっています。

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