ご都合主義にならない強キャラの書き方? その2

※今回のお話には「小説ウィザードリィ 風よ。龍に届いているか」および「Fate」シリーズ(主にzero)の内容に一部触れる記述がございます。

 毎度の事ながらご注意下さい。

 

 

 

 何処か別項か何かで一度書いた気もしますが、極端な強さと言うのは、思わぬデメリットと紙一重になる事もあります。

 身近にわかりやすいのが、人に何かを教える行為。

 なまじ、その事柄を“知っている”立場から“知らない”人の感覚に擦り合わせる技術と言うのは、教えるべき事柄それ自体をマスターしたのとは別領域の苦労やセンスを求められます。

 故に、強さとは「弱かった頃の感性を事である」と言う持論も、最近、方々で述べてきました。

 また、教えると言う友好的な立場に限らず、強さや突出した感性が落とし穴になってしまう事例も、結構思い浮かびます。

 ……事例と言っても、他人様の作品の引用ばかりになりそうですが。

 

 例えば、前々回に取り上げたベニー松山と言う作家のウィザードリィ小説「風よ。龍に届いているか」において。

 この作品の悪魔族は、読んで字のごとく邪悪の化身でしかありません。

 人間をあらゆる手法で誘惑し、あるいは面白半分に殺戮して回る。

 そして、自分達が人類よりも絶対的に格上であると確信しており、無条件に見下すだけの力が現実に伴っています。

 そんな悪魔の中でも最上位のアークデーモンと言う、いかにも強大な個体が物語終盤に登場しますが……油断しきった舐めプの果てに、主役側の僧侶一人によってあっさり罠に嵌められ、あえなく拘束。

 見下していた筈の人間の拷問に屈した挙げ句に惨殺されると言う、ある意味で大悪魔に相応の末路を辿りました。

 

 また、Fateシリーズ(と言っても私は初代とzeroしか知りませんが)における、強い魔術師ほど、魔術師としてのしきたりやセオリーに縛られる、と言う設定も面白いです。

 特にzeroでの某天才エリート魔術師に至っては、純粋な戦闘力は他のライバル達と比べても群を抜いていたにも関わらず、実戦と“正々堂々の決闘”とを履き違えたまま挑んでしまったばかりに、面白いように主役(※1)の罠全てに引っ掛かって、これもあっさり殺されてしまいました。

 我々、何の魔力もない常人からすれば、それくらい予測できなかったのか!? と思わされる失態ばかりでしたが、

 魔術と言う世界規模の学問が存在し、「魔術師とはそう言うものだ」と言う骨組みがしっかりしていた為、逆に納得が行ったと同時に、魔術師と言う人種のいびつさや、独自の社会性の深みも強調されていたと思います。

 これも、強さがそのまま弱点と連動してしまっている好例と言えるでしょう。

 最初は嫌みったらしいエリートキャラとして登場した筈なのに、ネットにおいては、その末路から同情されたり妙に愛されたりしており、そう言う意味でも、バックボーンに乏しい“強さ”ばかりを強調して嫌われる「ヒーローのつもりで書いた」人物とは対照的に思えます。

 また、細かい余談ですが、別のエリート魔術師は大がかりな魔術で文字による交信を行っていました。

 ……普通にファックスを使えば良いものを、魔術に拘泥する精神性は、その対極に位置する機械文明から遠ざかる性質をしているそうです。

 

 ドラクエ3のラスボス・大魔王ゾーマが敗れ、勇者に言い遺した、

 いずれまた第二第三の魔王が現れる筈だが、その時には貴様も年老いて生きてはいまい。

 と、高らかに哄笑しながらの台詞も象徴的でした。

 誰かの意志を、子孫なり後進なりが受け継ぐ、と言う概念がない生き物ゆえの無知が、大魔王と言う人智を越えた存在から、最期の最期に発せられる様には、複雑な感慨を覚えます。

 

 私自身が明確にこれを意識した(直近の)作品は、邪聖剣チェーンソーの種族“エルダーエルフ”でしょうか。

 この種族は、我々人間族の2の知力を持つのですが、エリクサーや未来予知、タイムリープと言った他種族にとっての夢物語を、日常行為として平然と行っています。

 ただ、その高過ぎる知力と能力ゆえに、逆に“勢力”だとか“社会”単位ではほとんど存在感が無いと言う逆転の状況が起こっています。

 生きていくにあたり、犯罪や侵略をすると言う発想そのものが生じる余地がありません。

 更に、大半が物欲や煩悩などからも生まれながらにして解脱しており、ともすれば現世や、そこに存在する自分自身にすら意義を感じておらず、現世より上位の次元・概念、言及不可能な“真理”を求め、自らの時間を止め、半永久的な瞑想に入ってしまった人も珍しくありません。

 このようなものは生きているとは言えない……と言いたい所ですが、そう断じるのも、結局のところ我々人間の都合でしかない、とも考えます。

 とにかく、能力が突出していてあるいは、そもそも他人種と交差する余地がないとも言えます。

 ……ただし、これは、それこそ“上級”のエルダーエルフに限ります。

 種族の中でも知力で劣る、下級エルダーエルフほど強い勢力を持ち、世界の中心を掌握しています。

 エルダーエルフの中でも下級、と言う事は「より、他種族の偉人に近い」事も意味し、俗世に適応しやすい為です。

 また、そうした観点から言えば、もう一つのエルフ族である“ハンターエルフ”の方が、より文明的な知性が高いとも言えます。

 この作品もまた、個々人の基礎能力がステータスとして数値化されているのですが“反応”や“器用さ”も含めた総合点では、ハンターエルフに軍配が上がる事も多いのです。

 反応や器用さと言うものもまた“頭脳”由来のステータスであるからです。

 使うのが、右脳か左脳かの違いとも言えます。

 また、建設業界では、力と器用さを兼ね備えたドワーフの方が遥かに実績がある事でしょう。

 上級エルダーエルフに至っては、住居すら曖昧なまま、行き当たりばったりにテントで野営をする人が珍しくありません。

 

 前回の妖魔・半妖の例も併せてまとめると、

・メリットや強さと連動した、デメリットや制約

・その人物(あるいは種族)の立場がどの高さと位置にあるのか

 これらの把握と、デメリットに抗うストイックさや、一生懸命さで共感を得る事でしょうか。

 

 

(※1)

 自身も作中トップクラスの家柄でありながら、魔術を道具としてしか見なさず、銃器に頼るのは元より、建物ごと相手を葬ろうとするなど、文字通り手段を選ばないタイプ。

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