ご都合主義にならない強キャラの書き方? その1 サガフロンティアのアセルス編編(※誤字ではありません)

 先日、某所のコメントにお邪魔した際にサガフロンティアのアセルス編について思い返す機会があったのですが。

 この作品における種族の一つである“妖魔”の設定が、強キャラの描写として絶妙なバランスであると言う話です。

 

 基本的に、外見は人間族とほぼ変わりません。(※ただし、美形がやたら多い事は除く)

 ただ、“強さ”の概念が我々人間とは根底から異なります。

 以下に、妖魔と人間の特徴を比較します。

 

・ステータスは戦闘経験で成長する人間族:固定の(先天的な)初期ステータス+モンスターを吸収する事で強化される妖魔(※1)

・必殺技も戦闘中に閃く人間:必殺技も吸収した敵のものを使う妖魔

・妖魔にも努力によって道を極める者は居るが、妖魔社会的に一切評価されない。(※2)

・当然、生老病死のある人間:不老の妖魔(戦死する事はある)

 

 総じて、ゲームバランス的にも、

 鍛練に比例して際限無く強くなる人間:良くも悪くも最初から上限レベルに達しており、敵を要領よく吸収すれば手軽に強くなれる妖魔、と言った所です。

 決して、先天的な才能や種族特性に胡座をかいているわけでは無く、そもそも妖魔には“鍛練”と言う概念そのものが無いのです。

 恐らく、人間からすれば何となく剣や拳を振っているだけでも(現実で言えば仕事や競技を反復していれば)少しずつ見えてくるものもある所が、妖魔にはその一切が無いのでしょう。

 さて、そんな妖魔が主軸となるシナリオの主人公・アセルスは、人間でもあり妖魔でもある、世界で唯一の“半妖”です。

 厳密には妖魔の実子と言うわけではありません。

 純血の人間だった少女が、妖魔の王を乗せた馬車の事故に巻き込まれ、王の血が混ざって体質が変化してしまった結果でした。

 その結果、戦力的には「成長する妖魔(それも最強格の血を受けた)」と言う、一見して両種族の良い所取りの存在となります。

 基本的に、人間としての不利はありませんが、妖魔の力を行使するにあたっては、いくつかハンデがあります。

 

・吸収した敵のステータスを自分のそれに上乗せするには、戦闘中、力を意図的に解放しなければならない=妖魔化の為に1ターン消費する

・妖魔化した戦闘では成長せず、技も覚えない

・人間に戻る結末を目指す場合、妖魔の力(具体的には敵を吸収する力)を少ししか使ってはならない=半妖である優位性をほとんど捨てるプレイを強いられる

 

 デメリットや制約がある事で、ご都合主義を避ける……と言うのは、ゲームと言う、公平性を求められる媒体としても当然ではあります。

 基本的にそうした制約の無い小説において、ここを忘れて書いてしまうと、お手頃で安っぽい“強キャラ”が出来上がってしまうのでしょう。

 今回の例では、アセルスにとっての最強ピークの状態を実現するには「人間として地力を鍛えた上、なおかつ(一瞬とは言え)隙をさらして妖魔の力を解放する」と言うプロセスが必要であるとも言い換えられます。

 これもゲームと言う媒体ゆえに“if”の仮定がしやすいのですが、人間としてろくに鍛えずに“妖魔の王”とやらの力に頼りきっていると、それこそ本物の上級妖魔を敵に回した時に苦しむ事となります。

 妖魔の特性を今一度振り返ると、初期能力が地力の全てであり、それが“普通の少女”のままでは最弱も良い所なのは言うまでもありません。

 例え王の臣下に過ぎないとは言え、流麗な剣さばきのイケメン妖魔には、逆立ちしても敵いません。

 つまり、妖魔の王の血こそ、ポンと渡されたものではありつつも、何だかんだで「頑張って条件を整えている」所が、安っぽくならない所以かと思います。

 才能が付与された事によって「鍛えなくて良い」のではなく、才能が付与されたばかりに「鍛える方法が変質した」とも言えるかも知れません。(※3)

 突出も変質も“普通”や“平均”からは一線を画する事柄ですが、微妙にニュアンスが違います。

 ここを見失わないバランス感覚と、何より全ての事柄はメリットばかりでは無い事への理解が必要なのかも知れません。

 

(※1)

 ただし、HP(と魅力)は普通に戦闘経験で上がります。

 この事実から深読みすると、肉体の頑強さ自体は成長しているとも解釈出来ます。

 さもないと、単純に幼少期から大人になる過程はどうなのか、と言う疑問も出てきますし。

 例えば剣をいくら振っても攻撃力が鍛えられず、技も一切増えないのは、先述のように成長の概念が違うと言うシナリオのそれに沿った設定だと推察出来ます。

(※2)

 顕著な例が、シナリオ序盤に出てくる職人(アイテム屋)の下級妖魔と、時間操作術の開祖である“時の君”(こちらは、本編には直接関係の無いサブイベント)です。

 前者が売っている作品は最強クラスの魔剣や、停滞した時間を動かす為のキーアイテムなど。

 後者は、たゆまぬ努力のすえ、世の中に十数種類しか存在しない術体系のうちの一つを確立したと言えば、偉人として教科書に載りかねない存在なのは明らかです。

(術のカテゴリ数に関しては、ゲームと言う媒体ゆえにデフォルメしなければならなかった所もありましょうが)

 また、時の君はゲームシステム的にも状態異常耐性や下級妖魔からの被ダメージ軽減と言った、上級妖魔にしか許されていない筈の特性を有しています。

 職人の方は自分が正当に評価されない現状に不満を抱いていましたが、時の君は他人からの評価にまるで無頓着な節もあり、下手な“上級”妖魔よりも器量・力量ともに上回る下級妖魔と言う、面白い事になっています。

 みんな大好き「まだ評価されていない潜在的強者」としても良いモチーフかも知れません。

 やはり、ベースがどんな性格であれ、ストイックさが嫌いな人はそう居ないでしょうし。

(※3)

 ただ実は、本当にメタな話をすると、このゲーム自体、全能力カンストまでやりこむと人間が最強になるバランスなので、言うほど妖魔化に劇的な恩恵は感じられなかったりします。

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