ベニー松山あれこれ

 有名な所では、ファイナルファンタジーシリーズやサガシリーズの攻略本に収録されたノベライズ作品、

 若干コアな所ではウィザードリィのノベライズ作品、

 氏の完全オリジナル作品としては“司星者セイン”があります。(※1)

 

 当創作論で何度か挙げましたが、私にとっては小説を書き始めた最初期に小説ウィザードリィを読み始め、特に描写面で最も影響を受けました。

 これについては、メリット・デメリット両方があったと思います。最終的に、メリットだけが残ったと言う事は先に述べておきますが。

 全体的に重厚で緻密な文体であり、また、この作品から得た語彙もかなりあり、未だに愛用させてもらっています。

 懊悩おうのうだとか、颶風ぐふうだとか、襤褸らんる登攀とうはんだとか……。

 これが本格的なファンタジー小説なんだ! と慧眼を得たつもりになり、かなり最近までくどい文体になっていました。

 勿論、氏の作品は、これらの珍しくて目を引く言葉や表現を直感的に理解できるよう常に工夫されており、決して私のそれのように読み苦しいものではありません。

(本当に、ネットでよく聞く、最大限肉抜きされた文体でなければ受け付けない人には、敷居が高いかも知れませんが)

 また、魔法周りの理論が重視されている点も同様です。

 例えば呪殺バディと言う即死魔法は、

「対象の心臓に呪力を送り、冠状動脈血栓を引き起こして死に至らしめる」

 と、勿論、原作には無かった描写で肉付けされています。

 また、ウィザードリィにおけるMPとは、他のRPGのように、使用時に総保有数から引き算されるのではなく、魔法が7段階のレベルで区分けされており、使用回数はレベルごとに独立しています。

 例えば、7レベルに属する最強の魔法をぶっ放したとしても、1~6レベルの魔法を使う回数には全く影響されません。

 小説ウィザードリィシリーズにおいては、この理屈を、

「人間には7つの異なる精神領域があり、使用した魔法の属する領域のみが消耗される」

 としています。

 今では、これくらいのリアリティは珍しくないのかも知れませんが、当時は「手からファイヤー! ◯◯は燃えた!」くらいのものしか知らなかったので、かなりの衝撃でした。

 そしてこれも、書き始めの頃に模倣するにはレベル不相応でした。

 要するに「細部が濃ければリアルだ」と言う勘違いに、長らく囚われる事となりました。

 それこそ設定資料の羅列のような表現を、何ら疑いもなく続けていたのです。それも、つい最近、直近の三作品以前まで。

 繰り返しますが、作品自体は素晴らしいものであり、何一つ非はありません。

 私の偏ったインプットが招いた事です。

 特に書き始めの頃は、良いものばかりを参考にするのも考えものなのかも知れません。

 

 もう一つ、二次創作のバランス感覚も理想的だと言う点です。

 先述の硬派で重厚、豊富な語彙の文章によって純粋なファンタジーとして見ても完成度が高く、原作を知らなくても楽しめ、且つ、単に原作に忠実なだけではない、小説でしか出来ない事も豊富に盛り込まれています。

 基本的な所では、魔法の名前。

 その独特のネーミングは、ウィザードリィをプレイしたことの無い人は元より、それなりにやり込んだ人でもピンとこないものばかりです。

 例えば、先ほどの呪殺バディもそうなのですが、

 ディオス、マディ、ラハリト、ラツモフィス、バマツ、リトフェイト、モンティノ、ラカニト、カルフォ……。

 そのままでは直感的にもわかりづらい事この上ありませんが、これらを、

 封傷ディオス快癒マディ猛火ラハリト解毒ラツモフィス空壁バマツ浮遊リトフェイト静寂モンティノ塵化ラカニト透視カルフォ……一般的な言葉にルビを振る配慮は、ウィザードリィ未プレイの(あるいはプレイ歴の浅い)読者を問題なく引き込む事に貢献しています。


 その一方、サガフロンティア1のノベライズでは、三枚目の不良刑事を主人公に据えての軽快なギャグ調となっており、論理や語彙の豊富さはそのままに、ライトな文体を見事に使いこなしています。

 特に、スクウェア・エニックスの攻略本に掲載されているものは元々の知名度が知名度なので、幅広い層に読まれる事にも配慮されているのでしょう。

 続編の2では、ウィザードリィ小説の時に見られた重厚でシリアスな持ち味を再び発揮しています。(※2)

 1のタイトルは、ヒューズのクレイジー捜査日誌。

 2のタイトルは、終末をもたらす者。

 ぱっと見て、同じ作者が書いたタイトルとは思えません。このタイトルの並びには、その作風の広さが出ていると思います。

 

 話は再び小説ウィザードリィに戻りますが、

 二作目の“風よ。龍に届いているか”では、何と、ダンジョンの入口が崩落して入れなくなったからと、ロッククライミングで侵入しようと目論みます。

 勿論、元はひたすら地下迷宮に潜るだけのゲームです。原作でそんな場面はありません。

 そこだけを取ると、原作を無視しているように見えますが……滑落や落石をゲームのクリティカルヒットに見立て、原作の魔法を駆使して登ってゆく様は、まさしく原作でのモンスターとの戦闘そのまま。

 原作に無いものを追加しつつも、原作無しでは成立しない。ちゃんとしたリスペクトと、原作をクリアした人にも予測のつかない破天荒さを矛盾無く両立しています。

 また、前作では、実は時系列がゲーム開始前だったり、逆に二作目の風よ~ではゲームクリア後だったりと、この辺の、原作通りの期待を裏切らない「微妙なズラし方」も絶妙です。(※3)

 読者の事を考えた二次創作、を学ぶにあたっても非常に参考になるかと思われます。


(※1)

 私が知る限りでは未完結だったと思うので、勧めづらい所もありますが。

(※2)

 なおかつ、作中の歴史を締め括る最後のパーティ(孫世代)はやり取りがコミカルで、前作のギャグチックな軽快さも兼ね備えています。

 これによって、それまでやや陰鬱だった祖父世代・父世代とは一線を画した、明るい希望と、すっきりとした読感が間接的に感じられました。

(※3)

 初代では、何度倒してもラスボスに挑み続けられる理由付けにもなっています。

 二作目の風よ~では、原作の最終目的が「世界が滅びそうになっている理由を知る為の宝玉」を手に入れる事でしたが、よしんば宝玉を手に入れたとしても、人間に理解不能な原因だったり、星の寿命など、そもそもどうしようも出来ない原因だったら意味ないよね、と言う所を突いています。

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