営業(文官)と意見が対立するシーン
これも前回の補足と言うか、ネットゲームの話からどんどん遠ざかって来ている気もしますが。
先日、勤務の終わり頃、職場で営業部長的な人が一日の成績をまとめた書類を探していました。
たまたま、それを持っていたのが私だったので渡した所、その人は紙面を一瞬見ただけで、
「最初の仕事Aからして数字を落としているんじゃ、ダメだな」
と言い放ち、正直カチンと来ました。
前回の戦略的勝利の話と同じく、その日は仕事Aをある程度犠牲にする事で、それ以外の仕事は概ねノルマ+αの成果を出していたからです。
それは書類を上から下まで熟読しないと、さしもの営業部長でも読み取れない筈です。
また、
「数字を見るだけで状況が読み取れる。そもそも用意した物資からして足りなかったのだろう。こんなことではダメだ」
と言われましたが、この物資の準備に関しては、私に言われても部署違いです。(※1)
組織全体の意識の高低だとか、マクロでフワッとした話だったにしても、私にされても仕方がありません。
ただ、この話。
必ずしも私が正しいとも、営業部長が間違っているとも断定できません。
私が営業よりも現場の“局地的な”実情を知っているように、営業マンは客先の実情と言う、より大局的な実情を誰よりも知っています。
この場合、客先が、他の何を差し置いても仕事Aを求めていた可能性も否定は出来ません。
また、私の読みが一週間単位で正しかったとしても、一ヶ月単位に視野を広げると、必ずしも戦略的に勝っているとは限りません。
前回の戦争ゲームを例に取った際「撃墜数の多さが必ずしも戦略的な成果とは限らない。より多くの敵を負傷させて撤退させた方が、その“戦線”では有意義である」
と言いました。
しかし、この視点を更に広げるとどうでしょう。
例えば、両軍の交戦地点、つまり戦線が二つあった場合です。
片方の戦線で敵を倒しきってしまい物資を奪ってやれば、もう一方の戦線に、より沢山の攻城兵器を設置して、そちらも優勢になれたかも知れないとしたら。
一つの戦線で勝利するよりも、もう一つの戦線での勝利にも繋がった方が戦略的には正しい事は言うまでもありません。
つまり、撃墜数を稼いだ方が良かったと言う結論に変わります。
このように、戦局をどの高さから見るかによって“正解”と言うのは簡単に揺らいでしまうものでもあります。
そして営業(文官)と言うのは、その性質上、最もマクロな視点に立つ事が多くなります。
そして、営業(文官)にとっての“現実的な”目標と言うのは、末端の現場にとっては“理想論”となってしまう事も多々あります。
客先から、ある高度な仕事が出来るかどうか、を問われたとして。
営業としては「勿論、出来ます! 楽勝です!」と言わざるを得ないのが大半であり、また、素でそう信じ込んでいるケースも珍しくはありません。
しかし現場では、作業性や費用対効果など“可能”の意味が微妙に異なってきます。
その「出来なくもない」仕事の為に、他の仕事に割り振るべき時間まで圧迫されたり、物資に著しい無駄が生じたとするなら、戦略的には勝ち目の無い仕事を強いられ……つまり「事実上、出来ない」と答えねばなりません。
以前、この創作論で読書感想文を書いた“正欲”(著:朝井リョウ)において、主役の一人が食品会社の開発担当なのですが、まさに、現場との間にそうしたトラブルを引き起こしています。
彼が指示した商品は、確かに作る事は技術的に可能でした。
しかし、工場長は「日常業務に組み込むには無理がある。こんな事をしていたら効率が悪すぎて仕事にならない」と訴えています。
このやり取り自体は作品の本題にそれほど関係は無いのですが、この主役は、自身の稀少なセクシャルを理由に他人と解り合う事を最初から放棄しているが故に、この工場長ともまともに話し合おうとせず、無理な仕事を押し通してしまいました。
話を戻して、私のケースです。
うちの営業部長も、まさしくこの正欲の開発部と同じで、作業性度外視の新製品を提案し、しかも既に販路を構築されているので、おいそれと止める事もままならない状況を作り出してしまう事が多々あります。
彼の場合、別段、心を閉ざしているわけではないのですが。
いくら組織での使命を果たす為とは言え、個々の“使命”もそれぞれだと言う事を無視しては、結局のところ、自分の都合だけを押し通しているのと同じです。
やはり、この視野のギャップを埋めようと言う努力が営業部長に全く無かった事でカチンと来たのだと思います。
実際、この方は恐らく営業としては有能ですし悪い人では無いのですが、現場ではかなり煙たがられています。
挙げ句、上の命令で現場への出禁すら食らった始末です。
彼にとっては当然の、現実的な意見だったとしても、現場からすれば理想の押し付けが過ぎるのです。
これは、勿論、私達側も気を付けねばなりません。
だから私は「営業にとっては仕事Aこそ本命だったのかも知れない」可能性を念頭に入れていたつもりです。
また、以前、自作品を他人にライトノベル扱いされる事の是非について考察しましたが、それと同じように自分の考えを、訳知り顔の他人に「こうだ!」と勝手に定義される事は、かなり不快でもあります。
戦記ものでも、君主が臣下の諫言を突っぱねた結果、悪い結果に終わるというシーンはよくありますが。
大抵は君主が悪者にされがちですが、現実には、果たしてそればかりなのでしょうか? とふと思います。
立っている視点の高さが違う者同士、まずはお互いに歩み寄って擦り合わせる事が大事かと思います。
(※1)
物資のコントロールについては、前回、軽く触れましたが、リーダーにもある程度の指示権はありますが、あくまでも大元の数字の裁量は前行程の部署にあります。
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